この章で扱うこと
第一章では、事象と確率を集合の言葉で整理しました。
第二章では、偶然に得られる値を 確率変数 として表し、その値の出やすさを 確率分布 として扱います。
この章では、次の内容を扱います。
- 確率変数
- 確率関数
- 確率密度関数
- 期待値
- 確率母関数
- 積率母関数
- 特性関数
- キュムラント母関数
- 変数変換
統計検定1級では、公式を覚えるだけでは足りません。
「どの関数が、分布のどんな情報を持っているか」を理解しておくことが重要です。
まずは1本の流れでつかむ
例えば、患者1人の投与2時間後の血中濃度を測る場面を考えます。
測定前には値が決まっていないので、血中濃度を確率変数 X とします。
実際に得られた 8.4ng/mL のような値は、小文字 x で表します。
この章の道具は、次の順につながっています。
偶然の結果⟶X⟶分布⟶平均・ばらつき・裾確率
| 記号 | 何を表すか | まず持つイメージ |
|---|
| X | 確率変数 | 測定前の、まだ変動する量 |
| x | 実現値 | 実際に観測された数値 |
| p(x) | 確率関数 | 離散型で各値に割り当てる確率 |
| f(x) | 確率密度関数 | 連続型での確率の濃さ |
| F(x) | 分布関数 | x 以下になる確率 |
| E[X] | 期待値 | 分布の重心に相当する理論平均 |
| Var(X) | 分散 | 平均からのずれの大きさ |
初めて読むときの順番
1周目は「確率変数」から「期待値」「分位点」までを読み、離散型では棒の高さ、連続型では面積が確率になる違いを押さえます。母関数とキュムラントは2周目、特性関数は極限定理を学ぶときに戻っても構いません。
確率変数
確率変数 とは、偶然の結果に数値を対応させる関数です。
数学的には、標本空間 Ω の各結果 ω に対して、実数 X(ω) を返す関数と考えます。
X:Ω→R
例えば、1錠の製剤について「溶出率を測る」実験を考えます。
実験の結果そのものは、温度、撹拌、錠剤の個体差などを含む複雑な出来事です。
しかし、解析ではそれを「30分後の溶出率 X」という数値にまとめます。
ここで X が確率変数です。
確率変数には、大きく分けて2種類あります。
| 種類 | 取りうる値 | 例 |
|---|
| 離散型確率変数 | 0, 1, 2, … のように数えられる値 | 副作用の発現人数、変異コロニー数 |
| 連続型確率変数 | 区間内の実数値 | 血中濃度、体重、AUC、溶出率 |
確率関数
離散型確率変数 X に対して、
p(x)=P(X=x)
で定義される関数を 確率関数、または確率質量関数といいます。
確率関数は、次の2つを満たします。
p(x)≥0
かつ、
x∑p(x)=1
です。
例えば、ある副作用が1人の患者に起こる確率を π とし、n 人の患者を観察するとします。
副作用が起きた人数を X とすると、独立性を仮定できる場合、
X∼Bin(n,π)
と表せます。
このとき確率関数は、
P(X=x)=(xn)πx(1−π)n−x(x=0,1,…,n)
です。
この式が出てくる理由も確認しておきます。
n 人のうち、ちょうど x 人に副作用が出るには、
- 副作用が出る人を x 人選ぶ
- 選ばれた x 人では副作用が起こる
- 残りの n−x 人では副作用が起こらない
という3つを考えます。
副作用が出る人の選び方は、
(xn)
通りです。
特定の x 人に副作用が出て、残りに出ない確率は、独立性より
πx(1−π)n−x
です。
したがって、両方を掛けて、
P(X=x)=(xn)πx(1−π)n−x
となります。
離散型では、各点の高さそのものが確率です。棒の高さを全部足すと 1 になります。
確率密度関数
連続型確率変数 X では、特定の1点を取る確率は通常 0 です。
例えば、血中濃度がちょうど 10.000000⋯ になる確率は 0 と考えます。
その代わりに、区間に入る確率を考えます。
関数 f(x) があって、
P(a≤X≤b)=∫abf(x)dx
と書けるとき、f(x) を 確率密度関数 といいます。
確率密度関数は、次の2つを満たします。
f(x)≥0
かつ、
∫−∞∞f(x)dx=1
です。
大事なのは、f(x) は確率そのものではなく、確率の「濃さ」を表す関数だという点です。
連続型では、面積が確率です。
連続型では、曲線の下の面積が確率です。ある1点での高さは確率ではありません。
分布関数
離散型と連続型をまとめて扱うとき、分布関数 が便利です。
F(x)=P(X≤x)
と定義します。
離散型では、
F(x)=t≤x∑P(X=t)
連続型では、
F(x)=∫−∞xf(t)dt
です。
統計検定1級では、確率関数や密度関数だけでなく、分布関数で議論できるようにしておくと見通しがよくなります。
期待値
期待値 は、確率変数の平均的な値を表します。
離散型では、
E[X]=x∑xP(X=x)
連続型では、
E[X]=∫−∞∞xf(x)dx
です。
より一般に、関数 g(X) の期待値は、離散型なら
E[g(X)]=x∑g(x)P(X=x)
連続型なら
E[g(X)]=∫−∞∞g(x)f(x)dx
です。
分散も期待値で表せます。
Var(X)=E[(X−E[X])2]
計算では、
Var(X)=E[X2]−(E[X])2
をよく使います。
この式は、定義から展開して導けます。
μ=E[X] とおくと、
Var(X)=E[(X−μ)2]
です。
二乗を展開すると、
(X−μ)2=X2−2μX+μ2
なので、
Var(X)=E[X2−2μX+μ2]
です。
期待値の線形性より、
E[X2−2μX+μ2]=E[X2]−2μE[X]+μ2
となります。
ここで E[X]=μ なので、
E[X2]−2μ2+μ2=E[X2]−μ2
です。
したがって、
Var(X)=E[X2]−(E[X])2
が得られます。
薬学で期待値を見るときは、「長く繰り返したときの平均的な結果」と考えると理解しやすいです。
例えば、1人あたりの副作用発現数、1検体あたりの陽性反応数、投与後の平均血中濃度などが期待値のイメージです。
裾確率表示:期待値を「しきい値を超える確率」から読む
期待値は、確率関数や密度関数に値を掛けて計算するだけではありません。
非負の確率変数 X では、期待値を「あるしきい値を超える確率」の積み重ねとして表せます。
離散型で X=0,1,2,… をとるときは、
E[X]=k=1∑∞P(X≥k)
です。
連続型で X≥0 のときは、
E[X]=∫0∞P(X>t)dt
です。
右辺に現れる P(X>t) は 裾確率、あるいは生存関数
S(t)=P(X>t)=1−F(t)
です。
この表示は「平均が大きい」とは、どのしきい値をどの程度の確率で超えるかの総量が大きいことだ、と教えてくれます。
連続型での導出
固定した値 x≥0 について、横軸を t と考えます。
0≤t<x では 1{x>t}=1、t≥x では0なので、
x=∫0∞1{x>t}dt
と書けます。
ここで x を確率変数 X に置き換えると、
X=∫0∞1{X>t}dt
です。両辺の期待値をとり、非負関数に対する積分と期待値の交換を使うと、
E[X]=E[∫0∞1{X>t}dt]=∫0∞E[{1{X>t}}]dt=∫0∞P(X>t)dt
となります。
最後の等号では、指示関数の期待値が事象の確率に等しいこと、
E[1{A}]=P(A)
を使いました。
非負の連続型確率変数では、平均は生存関数 S(t) = P(X > t) の下の面積です。右側の裾がゆっくり減るほど、期待値は大きくなります。
離散型では「1つずつ上の段を数える」
非負整数値 x については、
x=k=1∑∞1{x≥k}
です。例えば x=3 なら、k=1,2,3 で指示関数が1となるため、右辺は 1+1+1=3 です。
よって、
E[X]=E[k=1∑∞1{X≥k}]=k=1∑∞P(X≥k)
となります。
例えば、1視野あたりのコロニー数 X を考えます。
この表示では、P(X≥1) は「少なくとも1個ある」寄与、P(X≥2) は「2個目まである」寄与、と上に積み上がる個数ごとに平均への寄与を分けて見られます。
重い右裾をもつ分布では、まれに非常に大きな値をとる確率が期待値を大きく動かすことも、この式から理解できます。
適用条件を明記します。
E[X] = ∫₀^∞ P(X > t)dt は X ≥ 0 の場合の式です。一般の確率変数には正の部分と負の部分を分ける必要があります。統計検定1級では、この条件を書き落とさないことが重要です。
例:生存時間・反応継続時間で何が分かるか
薬物投与後の反応が持続する時間、ある細胞が生存する時間、あるイベントまでの待ち時間を T≥0 とします。
このとき、
E[T]=∫0∞P(T>t)dt
です。したがって、生存曲線や反応持続率の曲線を比較するとき、曲線の下の面積は平均持続時間を表します。
2群の生存曲線が途中で交差すると、ある時点だけの生存率では平均持続時間の大小を判断できません。裾確率表示は、時間全体での差を考える視点を与えます。
分位点と線形変換
分位点は、分布の中で「下からどこまでに何%が入るか」を表す位置です。
0<p<1 に対して、p 分位点を
qp(X)=inf{x:FX(x)≥p}
と定義します。
連続分布で分布関数が単調に増える場合は、
FX(qp)=p
と書けます。
例えば、q0.5 は中央値、q0.025 と q0.975 は中心95%区間の両端を考えるときによく使います。
正の係数による線形変換
まず、
Y=aX+b(a>0)
を考えます。
a>0 なら大小関係が保たれるため、
FY(y)=P(Y≤y)=P(aX+b≤y)=P(X≤ay−b)=FX(ay−b)
です。y=aqp(X)+b を代入すれば、
FY{aqp(X)+b}=FX{qp(X)}=p
となるので、
qp(Y)=aqp(X)+b(a>0)
を得ます。
a > 0 なら順位は変わりません。分位点も、各観測値と同じ規則 aX + b で移動・拡大します。
負の係数では順位が反転する
次に a<0 なら、不等号の向きが反転します。
P(aX+b≤y)=P(X≥ay−b)
です。連続分布では、下側 p 分位点は元の分布の上側 (1−p) 分位点に対応するため、
qp(Y)=aq1−p(X)+b(a<0)
となります。
この形は、測定値にマイナスを掛けて「小さいほど良い」を「大きいほど良い」スコアへ反転させるときに重要です。
離散分布では同じ値をとる確率があるため、分位点の定義と端点の扱いを丁寧に確認してください。
薬学・生命科学での読み方
- 単位換算:血中濃度 X を mg/L で表し、Y=1000X を ng/mL で表すなら、qp(Y)=1000qp(X) です。中央値も95パーセンタイルも、単位換算の係数と同じだけ変わります。
- 標準化:平均 μ、標準偏差 σ>0 の測定値を Z=(X−μ)/σ と変換すると、
qp(Z)=σqp(X)−μ
です。異なる測定系の値を、平均から何標準偏差離れているかという共通の物差しに移せます。
3. 用量・濃度の比較:投与量を一定倍率で変えた場合、分位点も同倍率で動く、という解釈は線形なスケール変換に限って有効です。濃度と反応の関係そのものはしばしば非線形なので、そこへこの式をそのまま当てはめてはいけません。
薬学・生命科学でよく見る分布
確率分布は、データの形に合わせて選ぶ道具です。
薬学や生命科学では、次のように対応づけると見通しがよくなります。
ここでの主役は、「分布名を覚えること」ではありません。
むしろ、
観測した情報⇒確率分布⇒推定できる量⇒研究上の判断
という流れを作ることです。
例えば、副作用の有無からは副作用リスクを、コロニー数からはイベント発生率や過分散を、IC50 からは典型的な効力や倍率差を、AIスコアからは真のヒットである事後確率を学べます。
データ型を見れば、候補となる分布と、そこから学べる薬学・生命科学上の量が見えてきます。
| データの例 | 候補になる分布 | 確率変数のイメージ |
|---|
| 患者ごとの副作用の有無 | ベルヌーイ分布 | 起きたら 1、起きなければ 0 |
| n 人中の副作用発現人数 | 二項分布 | 0人から n 人までの人数 |
| 1視野あたりのコロニー数 | ポアソン分布 | 一定範囲内で起こるイベント数 |
| 次の陽性ウェルが出るまでの試行回数 | 幾何分布 | 初めて成功するまでの回数 |
| 血中濃度、AUC、発現量 | 対数正規分布 | 正の連続量で右に裾が長い |
| 測定誤差が積み重なった値 | 正規分布 | 平均の周りに左右対称にばらつく |
| 生存時間、分解までの時間 | 指数分布、ワイブル分布 | 時間が長くなるほどイベントが起こる |
| IC50 や EC50 の推定値 | 対数スケール上の正規近似 | 濃度の倍率差を扱う |
例えば、細胞毒性試験で「ある濃度で生存率が 50% 未満になるか」を見るなら、1ウェルごとの判定はベルヌーイ分布で表せます。
同じ条件のウェルを n 個用意して、何ウェルが毒性ありになったかを数えるなら二項分布です。
一方、コロニー数、変異数、細胞内のスポット数のように、一定の領域内で起こる「数」を扱うときはポアソン分布が候補になります。
ただし、実データでは細胞ごとの状態差やプレート位置の影響で、ポアソン分布より分散が大きくなることがあります。
このような現象を 過分散 と呼びます。
過分散が強い場合は、負の二項分布などを考えることがあります。
この対応を研究の言葉に直すと、次のようになります。
| 観測する情報 | 学べること | 研究上の使い道 |
|---|
| 副作用が出たかどうか | 副作用リスク、群間差 | 用量設定、安全性シグナルの検討 |
| 細胞が生存したかどうか | 生存率、毒性確率 | 濃度範囲の絞り込み |
| コロニー数、スポット数 | 発生率、過分散、細胞間の不均一性 | 処理効果や耐性出現の評価 |
| 血中濃度、AUC、Cmax | 平均的な曝露量、個体差 | 薬物動態、TDM、用量調整 |
| IC50、EC50 | 典型的な効力、倍率差 | 化合物比較、構造活性相関 |
| AIモデルのスコア | 真のヒット確率、優先順位 | 実験する候補化合物の選定 |
このように、確率分布を選ぶことは「データをきれいな数式に押し込む」ことではありません。
自分の研究で知りたい量を、観測できる情報から取り出すための設計です。
ここから少し抽象的になります
母関数は、新しい現象を表す分布ではありません。1つの分布が持つ確率や積率を、あとで取り出しやすい形にまとめた「分布の指紋」のような道具です。最初は定義を暗記せず、「微分すると平均や分散が出る」「独立な和では積になる」の2点を目標にしてください。
確率母関数
確率母関数 は、非負整数値をとる離散型確率変数に対して使う道具です。
確率変数 X が 0,1,2,… をとるとき、
GX(s)=E[sX]
と定義します。
確率関数を使うと、
GX(s)=x=0∑∞P(X=x)sx
です。
つまり、確率母関数は、確率 P(X=x) を係数として並べた関数です。
係数を読めば分布が分かります。
また、
GX(1)=1
であり、
GX′(1)=E[X]
が成り立ちます。
さらに、
GX′′(1)=E[X(X−1)]
です。
なぜ微分で期待値が出るかも見ておきます。
GX(s)=x=0∑∞P(X=x)sx
を s で微分すると、
GX′(s)=x=1∑∞xP(X=x)sx−1
です。
ここで s=1 を代入すると、
GX′(1)=x=1∑∞xP(X=x)=E[X]
となります。
同じように2回微分すると、
GX′′(s)=x=2∑∞x(x−1)P(X=x)sx−2
なので、
GX′′(1)=x=2∑∞x(x−1)P(X=x)=E[X(X−1)]
です。
ここで X2=X(X−1)+X だから、
E[X2]=GX′′(1)+GX′(1)
です。
したがって分散は、
Var(X)=GX′′(1)+GX′(1)−{GX′(1)}2
と計算できます。
例として、X∼Bin(n,π) のとき、
GX(s)={(1−π)+πs}n
です。
これは二項定理から導けます。
GX(s)=x=0∑nsx(xn)πx(1−π)n−x
右辺を少し並べ替えると、
GX(s)=x=0∑n(xn)(πs)x(1−π)n−x
です。
二項定理
(a+b)n=x=0∑n(xn)axbn−x
に a=πs, b=1−π を代入すると、
GX(s)={πs+(1−π)}n
となります。
これは、二項分布の期待値や分散を計算する強力な近道になります。
積率母関数
積率母関数 は、
MX(t)=E[etX]
で定義されます。
名前の通り、積率、つまり E[X], E[X2], E[X3] などを取り出せます。
条件がよい場合、
MX(r)(0)=E[Xr]
が成り立ちます。
この関係も、指数関数の性質から確認できます。
まず、
etX
を t で微分すると、
dtdetX=XetX
です。
したがって、
MX′(t)=dtdE[etX]=E[XetX]
と考えられます。
ここで t=0 を代入すると e0=1 なので、
MX′(0)=E[X]
です。
同じように2回微分すると、
MX′′(t)=E[X2etX]
であり、
MX′′(0)=E[X2]
となります。
一般に r 回微分すれば Xr が前に出るので、
MX(r)(0)=E[Xr]
が得られます。
特に、
MX′(0)=E[X]
MX′′(0)=E[X2]
です。
積率母関数の大事な性質は、独立な確率変数の和に強いことです。
X と Y が独立なら、
MX+Y(t)=MX(t)MY(t)
となります。
これも途中式で確認します。
MX+Y(t)=E[et(X+Y)]
指数法則より、
et(X+Y)=etXetY
なので、
MX+Y(t)=E[etXetY]
です。
X と Y が独立なら、etX と etY も独立なので、
E[etXetY]=E[etX]E[etY]=MX(t)MY(t)
となります。
例えば、独立な副作用発現の指標 X1,…,Xn を足した人数 S=X1+⋯+Xn の分布を考えるとき、母関数は計算を整理してくれます。
特性関数
特性関数 は、
φX(t)=E[eitX]
で定義されます。
ここで i は虚数単位です。
積率母関数と似ていますが、特性関数はより広い範囲で必ず存在します。
なぜなら、
∣eitX∣=1
なので、期待値が発散しにくいからです。
統計検定1級では、特性関数について次の点を押さえておくとよいです。
- 特性関数は分布を一意に決める
- 独立な和では特性関数が積になる
- 中心極限定理の証明で重要な役割を持つ
X と Y が独立なら、
φX+Y(t)=φX(t)φY(t)
です。
ここで「必ず存在する」とは、期待値として有限な値が定まるという意味です。
連続型なら、
φX(t)=∫−∞∞eitxf(x)dx
ですが、絶対値を取ると
∣eitxf(x)∣=f(x)
です。
密度関数は全体で積分すると 1 なので、
∫−∞∞∣eitxf(x)∣dx=∫−∞∞f(x)dx=1
となります。
このため、積率母関数が発散する分布でも、特性関数は扱えることがあります。
積率母関数が「使えるときに便利な道具」だとすると、特性関数は「理論上かなり頼れる道具」です。
キュムラント母関数
キュムラント母関数 は、積率母関数の対数で定義されます。
KX(t)=logMX(t)
この関数を微分すると、平均や分散に対応する量が出てきます。
KX′(0)=E[X]
KX′′(0)=Var(X)
この2つも導出しておきます。
まず、
KX(t)=logMX(t)
なので、合成関数の微分より、
KX′(t)=MX(t)MX′(t)
です。
MX(0)=E[e0]=1、MX′(0)=E[X] だから、
KX′(0)=MX(0)MX′(0)=E[X]
です。
次にもう一度微分します。
KX′′(t)={MX(t)}2MX′′(t)MX(t)−{MX′(t)}2
です。
t=0 を代入すると、
KX′′(0)=MX′′(0)−{MX′(0)}2
となります。
ここで MX′′(0)=E[X2]、MX′(0)=E[X] なので、
KX′′(0)=E[X2]−(E[X])2=Var(X)
です。
一般に、r 回微分した値
κr=KX(r)(0)
を第 r キュムラントといいます。
キュムラントの便利な点は、独立な和に対して足し算になることです。
X と Y が独立なら、
KX+Y(t)=KX(t)+KY(t)
です。
これは、対数を取ることで積が和に変わるからです。
標本和や標本平均の分布を考えるとき、キュムラントは「平均や分散がどう積み上がるか」を見やすくしてくれます。
母関数の比較
母関数は名前が似ていて混乱しやすいので、役割を表で整理します。
| 名前 | 定義 | 主な用途 |
|---|
| 確率母関数 | GX(s)=E[sX] | 非負整数値の分布、個数データ |
| 積率母関数 | MX(t)=E[etX] | 積率の計算、独立な和 |
| 特性関数 | φX(t)=E[eitX] | 分布の一意性、極限定理 |
| キュムラント母関数 | KX(t)=logMX(t) | 平均、分散、高次キュムラント |
薬学の例でいうと、コロニー数や副作用発現人数のような個数データでは確率母関数が自然です。
血中濃度やAUCのような連続量では、積率母関数や特性関数を通じて平均、分散、近似分布を調べます。
変数変換
確率変数 X から新しい確率変数
Y=g(X)
を作ることを 変数変換 といいます。
薬学では、濃度を対数変換したり、用量を体重あたりに換算したり、血中濃度からAUCを計算したりします。
これらはすべて、元の変数から新しい変数を作る操作です。
離散型の変数変換
離散型では、同じ Y の値を作る X の値を集めて足します。
P(Y=y)=x:g(x)=y∑P(X=x)
例えば、X を1日の服薬忘れ回数、Y を「服薬忘れがあったかどうか」とします。
Y={01(X=0)(X≥1)
なら、
P(Y=1)=P(X≥1)=1−P(X=0)
です。
連続型の変数変換
連続型で Y=g(X) とし、g が単調で逆関数を持つとします。
x=g−1(y) とおくと、
fY(y)=fX(g−1(y))dydg−1(y)
です。
この絶対値の部分を ヤコビアン と呼びます。
密度は「面積が確率」なので、横軸を伸ばしたり縮めたりした分を補正する必要があります。
導出も確認します。
まず、g が単調増加だとします。
このとき、
FY(y)=P(Y≤y)
です。
Y=g(X) なので、
FY(y)=P(g(X)≤y)
です。
単調増加なら、両辺に逆関数を使って、
g(X)≤y⟺X≤g−1(y)
です。
したがって、
FY(y)=P(X≤g−1(y))=FX(g−1(y))
となります。
両辺を y で微分すると、
fY(y)=fX(g−1(y))dydg−1(y)
です。
単調減少の場合は不等号の向きが変わるため符号が反対になります。
密度は負になれないので、単調増加と単調減少をまとめて、
fY(y)=fX(g−1(y))dydg−1(y)
と書きます。
変数変換では、値だけでなく密度の形も変わります。連続型ではヤコビアンで面積を保ちます。
例:対数正規分布
薬物動態では、血中濃度やAUCが右に長い分布を持つことがあります。
このとき、
Y=logX
が正規分布に近いなら、X は対数正規分布に従うと考えられます。
Y∼N(μ,σ2) で X=eY とすると、X の密度は
fX(x)=xσ2π1exp{−2σ2(logx−μ)2}(x>0)
です。
ここで x1 がヤコビアンに対応します。
対数変換は、薬学データでとてもよく出てくる変数変換です。
情報科学・機械学習との接続
機械学習は、観測したデータから予測規則 f を選ぶ問題です。
その中心には、予測の誤りを確率変数として表し、平均的な損失を小さくするという期待値の考え方があります。
期待値は「将来の平均損失」を表す
入力を X、正解を Y、予測を f(X)、損失関数を L とすると、母集団上の予測リスクは、
R(f)=E[L{Y,f(X)}]
です。しかし母集団分布は分からないため、手元のデータ (xi,yi) で、
Rn(f)=n1i=1∑nL{yi,f(xi)}
を計算します。これが経験リスクです。
「標本平均で母集団の期待値を近似する」という考え方であり、第五章の大数の法則へつながります。
二乗誤差なら平均、絶対誤差なら中央値
入力 X=x が与えられたとき、予測値を定数 a とします。
二乗誤差の条件付き期待値、
E[(Y−a)2∣X=x]
を最小にする a は条件付き平均です。
a∗(x)=E[Y∣X=x]
一方、
E[∣Y−a∣∣X=x]
を最小にするのは条件付き中央値です。
したがって損失関数を変えると、モデルが学習しようとする分布の位置も変わります。
| 損失 | 最適な予測 | 特徴 |
|---|
| 二乗誤差 | 条件付き平均 | 大きな誤差を強く罰する |
| 絶対誤差 | 条件付き中央値 | 外れ値の影響を受けにくい |
| pinball損失 | 条件付き分位点 | 予測区間や上側リスクを学べる |
薬物濃度の点予測でも、平均濃度を当てたいのか、典型的な中央値を当てたいのか、毒性側の上位分位点を当てたいのかで損失を選びます。
交差エントロピーは負の対数尤度である
二値ラベル Y∈{0,1} に対し、モデルが P(Y=1∣X=x)=p(x) を出すとします。
ベルヌーイ分布の対数尤度は、
ℓ=Ylogp(X)+(1−Y)log{1−p(X)}
です。これにマイナスを付けたものがbinary cross-entropyです。
LmathrmBCE=−Ylogp(X)−(1−Y)log{1−p(X)}
したがって、交差エントロピー最小化は、仮定したベルヌーイモデルの尤度最大化と同じです。
多クラス分類のsoftmax cross-entropyも、カテゴリ分布の負の対数尤度として理解できます。
変数変換は生成モデルにも現れる
簡単な乱数 Z を可逆変換 X=g(Z) で複雑な分布へ移すと、密度は、
fX(x)=fZ{g−1(x)}dxdg−1(x)
と変わります。多次元ではヤコビアン行列式を使います。
単変量の微分と多変量のJacobianの対応
単変量なら、密度の補正は逆変換の微分の絶対値 |dz/dx| です。多変量では、各出力を各入力で偏微分して表にしたものがJacobian行列で、その行列式の絶対値が面積・体積の倍率になります。
- 変換後の値域を決める。
- 逆変換を求める。
- 単変量なら微分、多変量なら偏微分の行列を作る。
- 絶対値を取り、元の密度へ掛ける。
つまり、行列式は新しい規則ではなく、1変数で使った「目盛りの伸び縮み」を面積や体積へ拡張したものです。
この原理を、可逆なニューラルネットワークで何段も行う生成モデルがnormalizing flowです。
第二章の「台を決める → 逆変換を求める → ヤコビアンを掛ける」という手順が、そのまま対数尤度の計算になります。
母関数とキュムラントは誤差の集中を調べる
積率母関数 MX(t)=E[etX] は、平均や分散を取り出すだけでなく、Markovの不等式と組み合わせて、
P(X≥a)=P(etX≥eta)≤e−taMX(t)
という上界を作れます。t>0 を最適化するとChernoff型の上界になります。
機械学習では、訓練誤差と真のリスクの差がどの程度大きくなり得るかを考える基礎になります。
損失関数は計算上の好みだけで選びません。
出力変数の分布、外れ値への感度、平均・中央値・分位点のどれを予測したいかを先に決めます。確率分布の仮定と損失関数が対応しているかを確認します。
演習で重点的に確認すること
ここまでの内容を問題演習で確認するときは、問題文を丸ごと覚えるよりも、「何を問われている問題か」を分類しておく方が再利用しやすくなります。
特に変数変換を含む章では、次の論点を押さえると見通しがよくなります。
| 論点 | まず確認すること | よくあるミス |
|---|
| 密度関数の正規化 | 全範囲で積分して1になるか | 定数を決めた後に台を書き忘れる |
| 分布関数と密度関数 | F(x)=P(X≤x) と f(x)=F′(x) | 区間外の F(x) や f(x) を書かない |
| 条件付き密度 | 残した範囲の確率で割っているか | 切り取った密度の面積が1でないままにする |
| 平均と中央値の最適性 | 二乗誤差は平均、絶対誤差は中央値 | 絶対値を左右に分けずに微分する |
| 裾確率表示 | E[X] を P(X>t) で表せるか | 非負の場合と一般の場合を混同する |
| 母関数 | 何の母関数かを区別する | 確率母関数、積率母関数、特性関数を混ぜる |
| 変数変換 | 値域、逆像、ヤコビアンを確認する | 逆像の個数や定義域を落とす |
| キュムラント | logMX(t) を微分する | 第4キュムラントを第4中心モーメントと同一視する |
変数変換は3段階で見る
変数変換の問題では、公式をいきなり当てはめるより、次の順番で考えます。
- 変換後の値域を決める
- y=g(x) を満たす x をすべて列挙する
- 各逆像の寄与をヤコビアン付きで足す
連続型で Y=g(X) とおくと、単調な場合は、
fY(y)=fX(g−1(y))dydg−1(y)
です。
ただし、全体で単調でない場合はこのままでは不十分です。
y=g(x) を満たす解が x1(y),x2(y),… と複数あるなら、
fY(y)=i∑fX(xi(y))dydxi
と足し合わせます。
例えば二乗変換では、X が正の範囲だけを動くなら逆像は y の1つです。
一方で、X が正負の両方を取りうるなら、逆像は y と −y の2つになります。
さらに元の X の台が左右非対称な区間なら、y の範囲によって逆像の個数が変わります。
この「逆像の個数が途中で変わる」場合分けが、変数変換で最も落としやすい点です。
問題文を公開ノートに写す必要はありません。
著作権の観点では、問題集の設問をそのまま再掲するのではなく、「単調変換」「複数の逆像」「条件付き密度」「母関数」といった論点名、自作の短い例、解法手順として整理するのが安全です。
答案で使う最小テンプレート
変数変換の答案では、次の形まで書けると安定します。
値域を確認→逆変換を求める→dydxを計算→密度に代入
単調でない変換では、
逆像をすべて列挙→元の台に入るものだけ残す→各寄与を足す
と書き換えます。
特に答案では、最後に
fY(y)=0(otherwise)
を付ける習慣をつけてください。
密度関数は式そのものだけでなく、どの範囲で成り立つかまで含めて答えです。
答案で使える計算Tips
演習では、難しい公式を新しく覚えるよりも、よく出る変形を短い型として持っておくと解答が安定します。
ライプニッツの積分微分公式
t が積分範囲や integrand に入っているときは、積分をそのまま微分できません。
次の形で処理します。
dtd∫atg(x,t)dx=g(t,t)+∫at∂t∂g(x,t)dx
下端が t の場合は符号が変わります。
dtd∫tbg(x,t)dx=−g(t,t)+∫tb∂t∂g(x,t)dx
絶対値誤差
h(t)=E[∣X−t∣]
を扱うときは、
h(t)=∫−∞t(t−x)f(x)dx+∫t∞(x−t)f(x)dx
と分けます。
このとき第1項の微分は、
dtd∫−∞t(t−x)f(x)dx=F(t)
です。
理由は、g(x,t)=(t−x)f(x) とおくと、
g(t,t)=(t−t)f(t)=0
であり、
∂t∂{(t−x)f(x)}=f(x)
だからです。
第2項は、
dtd∫t∞(x−t)f(x)dx=−(1−F(t))
です。
こちらは下端が t なので境界項にマイナスが付きます。
さらに、
∂t∂{(x−t)f(x)}=−f(x)
なので、
∫t∞−f(x)dx=−(1−F(t))
となります。
したがって、
h′(t)=F(t)−(1−F(t))=2F(t)−1
です。
最小点では h′(t)=0 なので、
F(t)=21
となります。
つまり、絶対値誤差を最小にする t は中央値です。
答案では「左右に分ける → ライプニッツで微分 → 2F(t) - 1」まで書ければ十分です。
直感だけで「中央値」と書くと証明になりません。絶対値を外すために積分範囲を分けるところが答案の出発点です。
部分積分
部分積分は、
∫udv=uv−∫vdu
です。
統計では、指数分布やガンマ分布型の積分でよく使います。
例えば、
∫0∞xe−xdx
では、
u=x,dv=e−xdx
と置くと、
du=dx,v=−e−x
なので、
∫0∞xe−xdx=[−xe−x]0∞+∫0∞e−xdx=1
です。
より一般に、
∫0∞xke−xdx=k!
が出てきます。
これは指数分布の k 次モーメントやガンマ分布の計算につながります。
条件付き密度は「残った面積で割る」
ある範囲だけを残した密度は、そのままでは面積が1になりません。
条件 X≥a のもとでの密度は、
g(x)=P(X≥a)f(x)=1−F(a)f(x)(x≥a)
です。
答案では、
∫a∞g(x)dx=1−F(a)1∫a∞f(x)dx=1
まで確認すると、密度関数であることも示せます。
絶対値はまず場合分けする
∣X−t∣ や ∣X∣ が出てきたら、まず絶対値を外せる範囲に分けます。
∣x−t∣={t−xx−t(x<t)(x≥t)
です。
変数変換で Y=∣X∣ や Y=−log∣X∣ を扱う場合も同じで、正負の2つの逆像を考えます。
∣x∣=e−y⇒x=e−y, −e−y
のように、逆像を落とさないことが重要です。
端点と定義域外を必ず書く
連続分布では、端点を < で書くか ≤ で書くかは密度の値には通常影響しません。
ただし、答案では範囲を明示する必要があります。
fY(y)={計算した式0(取りうる範囲)(otherwise)
の形にすると、採点者に「台を把握している」ことが伝わります。
演習の優先順位
この章の演習を解くときは、次の順に固めると効率的です。
- 密度関数・分布関数の基本:正規化、積分、微分の確認
- 期待値の基本性質:平均・分散、平均と中央値の最適性、裾確率表示
- 単調な変数変換:線形変換、対数変換、指数変換
- 単調でない変数変換:二乗、絶対値、複数の逆像
- 台による場合分け:逆像が途中で増減する問題
- 母関数とキュムラント:分布の特徴量を関数から取り出す問題
- 存在しない期待値・分散:重い裾を持つ分布の扱い
最初から重い証明問題まで完全に解こうとすると、変数変換の基本手順がぼやけます。
まずは、値域、逆像、ヤコビアン、定義域外で0、という4点を確実に書ける状態を目標にします。
数理統計問題
試験答案として解くとき
総合問題集の模範解答版では、全問を「台 → 定義・定理 → 計算 → 結論 → 注意」の順に書き直しています。密度・変数変換・母関数は、台を答案の最初か最後に必ず残します。
ここでは薬学の文脈を外して、確率分布と期待値の標準問題を確認します。
統計検定1級では、具体例を読めることに加えて、抽象的な確率変数をそのまま計算できることも必要です。
問題1:離散型確率変数の期待値と分散
確率変数 X の確率関数が次で与えられているとします。
| x | 0 | 1 | 2 | 3 |
|---|
| P(X=x) | 0.1 | 0.2 | 0.4 | 0.3 |
- E[X] を求めてください。
- Var(X) を求めてください。
解答
期待値は、
E[X]=x∑xP(X=x)
です。
したがって、
E[X]=0⋅0.1+1⋅0.2+2⋅0.4+3⋅0.3
です。
計算すると、
E[X]=0+0.2+0.8+0.9=1.9
です。
分散は、
Var(X)=E[X2]−(E[X])2
で求めます。
まず、
E[X2]=x∑x2P(X=x)
なので、
E[X2]=02⋅0.1+12⋅0.2+22⋅0.4+32⋅0.3
です。
計算すると、
E[X2]=0+0.2+1.6+2.7=4.5
です。
したがって、
Var(X)=4.5−(1.9)2
です。
(1.9)2=3.61
なので、
Var(X)=4.5−3.61=0.89
となります。
問題2:密度関数の定数を決める
連続型確率変数 X の密度関数が、
f(x)={cx0(0≤x≤2)(otherwise)
で与えられているとします。
- 定数 c を求めてください。
- P(1≤X≤2) を求めてください。
- E[X] を求めてください。
解答
密度関数なので、全体の面積が 1 です。
∫−∞∞f(x)dx=1
です。
ここでは 0≤x≤2 の範囲だけで正なので、
∫02cxdx=1
です。
積分すると、
c∫02xdx=c[2x2]02=c⋅24=2c
です。
したがって、
2c=1
より、
c=21
です。
次に、
P(1≤X≤2)=∫1221xdx
です。
計算すると、
∫1221xdx=21[2x2]12=41(4−1)=43
です。
最後に期待値です。
E[X]=∫−∞∞xf(x)dx
なので、
E[X]=∫02x⋅21xdx=21∫02x2dx
です。
積分すると、
21[3x3]02=21⋅38=34
です。
したがって、
E[X]=34
となります。
問題3:積率母関数から平均と分散を求める
確率変数 X の積率母関数が、
MX(t)=exp(2t+3t2)
で与えられているとします。
E[X] と Var(X) を求めてください。
解答
積率母関数から直接求める方法もありますが、この形ではキュムラント母関数を使うと早いです。
KX(t)=logMX(t)
なので、
KX(t)=log{exp(2t+3t2)}=2t+3t2
です。
キュムラント母関数では、
KX′(0)=E[X]
KX′′(0)=Var(X)
です。
まず1回微分します。
KX′(t)=2+6t
したがって、
KX′(0)=2
です。
よって、
E[X]=2
です。
次に2回微分します。
KX′′(t)=6
なので、
KX′′(0)=6
です。
したがって、
Var(X)=6
となります。
問題4:変数変換
確率変数 X が区間 (0,1) 上の一様分布に従うとします。
つまり、
fX(x)={10(0<x<1)(otherwise)
です。
Y=−logX とおきます。
Y の密度関数を求めてください。
解答
まず、変換式を逆に解きます。
Y=−logX
なので、
logX=−Y
です。
両辺の指数を取ると、
X=e−Y
です。
したがって、逆変換は、
x=e−y
です。
0<X<1 なので、Y=−logX は 0<Y<∞ を動きます。
連続型の変数変換公式より、
fY(y)=fX(e−y)dyde−y
です。
ここで、
dyde−y=−e−y
なので、
dyde−y=e−y
です。
また、y>0 のとき e−y は (0,1) に入るので、
fX(e−y)=1
です。
したがって、
fY(y)=e−y(y>0)
です。
それ以外では 0 なので、
fY(y)={e−y0(y>0)(otherwise)
となります。
これはパラメータ 1 の指数分布の密度です。
問題5:裾確率表示から期待値を求める
非負整数値確率変数 X について、
P(X≥1)=0.80,P(X≥2)=0.35,P(X≥3)=0.10,P(X≥4)=0
とします。E[X] を求めてください。
解答
非負整数値確率変数の裾確率表示、
E[X]=k=1∑∞P(X≥k)
を使います。k≥4 の項は0なので、
E[X]=0.80+0.35+0.10=1.25
です。
問題6:分布関数から密度・平均・分散を復元する
確率変数 X の分布関数が、
FX(x)={01−(1+x)−3(x<0),(x≥0)
で与えられています。
- これが分布関数の条件を満たすことを確認してください。
- 確率密度関数を求めてください。
- 裾確率表示を用いて E[X] と Var(X) を求めてください。
解答6
分布関数には、単調非減少、右連続、x→−∞ で0、x→∞ で1という条件が必要です。
x≥0 では、
FX′(x)=3(1+x)−4>0
なので単調増加です。また、FX(0)=0 で左側とつながり、
x→∞limFX(x)=1
です。したがって分布関数の条件を満たします。
密度は分布関数を微分して、
fX(x)={3(1+x)−40(x>0),(otherwise)
となります。
非負確率変数の裾確率表示より、
E[X]=∫0∞P(X>x)dx
です。ここで、P(X>x)=1−FX(x)=(1+x)−3 なので、
E[X]=∫0∞(1+x)−3dx=[−21(1+x)−2]0∞=21.
同様に、X≥0 なら、
E[X2]=2∫0∞xP(X>x)dx
です。したがって、
E[X2]=2∫0∞(1+x)3xdx=2∫1∞(u−2−u−3)du=2(1−21)=1.
よって、
Var(X)=E[X2]−{E[X]}2=1−41=43.
答案で気をつけること分布関数は微分する前に、単調性・右連続性・両端の極限を確認します。密度には必ず台を書き、分散では $E[X^2]-E[X]^2$ の第2項を落とさないようにします。
問題7:切断分布を条件付き分布として扱う
X∼Exp(2) とします。X≥3/2 であった個体だけを解析対象にしたとき、条件付き確率変数
Y=X∣X≥23
の密度、平均、分散を求めてください。
解答7
切断後の密度は、条件付き確率の定義から、
fY(y)=P(X≥3/2)fX(y)(y≥23)
です。指数分布では、
fX(y)=2e−2y,P(X≥3/2)=e−3
なので、
fY(y)={2e−2(y−3/2)0(y≥3/2),(otherwise)
です。これは、
Y=d23+Z,Z∼Exp(2)
を意味します。指数分布の無記憶性を使えば、
E[Y]=23+21=2,Var(Y)=Var(Z)=221=41
です。
答案で気をつけること切断後の密度は元の密度をそのまま使わず、残った確率 $P(X\geq a)$ で正規化します。また、左切断後の平均は残余時間の平均だけでなく、すでに経過した $a$ も加えます。
問題8:二乗誤差は平均、絶対誤差は中央値を選ぶ
E[X2]<∞ とします。実数 t に対して、
L2(t)=E[(X−t)2],L1(t)=E[∣X−t∣]
とおきます。
- L2(t) を最小にする t は平均 E[X] であることを示してください。
- X が連続分布に従うとき、L1(t) を最小にする t は中央値であることを示してください。
解答8
μ=E[X] とおくと、
X−t=(X−μ)+(μ−t)
です。二乗して期待値を取れば、E[X−μ]=0 より、
L2(t)=E[(X−μ)2]+2(μ−t)E[X−μ]+(μ−t)2=Var(X)+(μ−t)2.
第1項は t によらず、第2項は t=μ で最小になるので、二乗誤差を最小にする点は平均です。
次に、密度を f、分布関数を F とすると、
L1(t)=∫−∞t(t−x)f(x)dx+∫t∞(x−t)f(x)dx
です。積分区間の端点も t に依存するので、Leibnizの公式を用いて微分します。端点では被積分関数が0になるため、
L1′(t)=∫−∞tf(x)dx−∫t∞f(x)dx=F(t)−{1−F(t)}=2F(t)−1.
したがって L1′(t)=0 となるのは、
F(t)=21
を満たす中央値です。F が狭義単調なら最小点は一意です。
答案で気をつけること「微分して0」だけで終えず、二乗誤差では平方項が非負であること、絶対誤差では導関数が負から正へ変わることを示します。離散分布では中央値が区間になる場合があるため、$P(X\leq m)\geq1/2$ かつ $P(X\geq m)\geq1/2$ と書くのが安全です。
問題9:非単調な変数変換では逆像を足し合わせる
X∼Unif(−3,1) とし、Y=X2 とします。
Y の確率密度関数、平均、分散を求めてください。
解答9
まず値域は、
0≤Y<9
です。y>0 に対する逆像は x=±y ですが、両方が常に X の台 (−3,1) に入るわけではありません。
- 0<y<1 では、y と −y の両方が台に入る
- 1≤y<9 では、−y だけが台に入る
各枝のJacobianは、
dydx=2y1
で、fX(x)=1/4 です。したがって、
fY(y)=⎩⎨⎧4y18y10(0<y<1),(1≤y<9),(otherwise)
となります。
積率は Y=X2 を直接用いると簡単です。
E[Y]=E[X2]=41∫−31x2dx=37
であり、
E[Y2]=E[X4]=41∫−31x4dx=561
です。よって、
Var(Y)=561−(37)2=45304.
答案で気をつけること$x\mapsto x^2$ は単調でないため、公式を1本の逆関数だけに適用してはいけません。最初に $Y$ の台を求め、各 $y$ で台に入る逆像を列挙し、その密度寄与を足します。
発展問題10:裾確率と分位点から期待値を表す
E[∣X∣]<∞ とします。次を示してください。
E[X]=∫0∞{1−FX(x)}dx−∫−∞0FX(x)dx
また、連続な分布関数に対して、
E[X]=∫01FX−1(u)du
が成り立つ理由を説明してください。最後に、非負確率変数 Z の生存関数が P(Z>x)=(1+x)−2 のとき、E[Z] を求めてください。
解答10
X+=max(X,0)、X−=max(−X,0) とすると、X=X+−X− です。非負確率変数の裾確率表示より、
E[X+]=∫0∞P(X>x)dx=∫0∞{1−FX(x)}dx
です。また、
E[X−]=∫0∞P(X<−x)dx=∫−∞0FX(x)dx
なので、差を取れば最初の式を得ます。
一方、U∼Unif(0,1) とすると、逆変換法により、
FX−1(U)=dX
です。したがって、
E[X]=E[FX−1(U)]=∫01FX−1(u)du.
最後に、
E[Z]=∫0∞(1+x)−2dx=[−(1+x)−1]0∞=1.
答案で気をつけること符号を持つ確率変数では正部分と負部分を分けます。分位点表示では、一般には一般化逆関数 $F^{-1}(u)=\inf\{x:F(x)\geq u\}$ を使うと、不連続な分布にも拡張できます。
応用統計問題(医薬・生命科学)
試験答案として解くとき
薬物濃度や反応率の問題も、総合問題集の模範解答版で実戦用の解答手順を確認できます。単位換算・対数変換では、変換前後の台と単位を添えます。
ここでは、副作用、服薬、薬物濃度、培養・細胞実験から得られる情報を、確率変数、母関数、変数変換を使って解釈します。
問題1:副作用発現人数の期待値
ある薬剤で、患者1人に軽度の副作用が起こる確率を π=0.08 とします。
20人の患者を独立に観察し、副作用が起きた人数を X とします。
- X の分布を答えてください。
- E[X] と Var(X) を求めてください。
- P(X=0) を求めてください。
解答
各患者について、副作用が起きるかどうかをベルヌーイ試行と見ます。
20人を独立に観察するので、
X∼Bin(20,0.08)
です。
二項分布の期待値と分散は、
E[X]=nπ
Var(X)=nπ(1−π)
です。
ここではこの公式をそのまま使わず、ベルヌーイ変数の和として確認します。
患者 i に副作用が起きたら Xi=1、起きなければ Xi=0 とします。
すると、
X=X1+⋯+X20
です。
各 Xi は、
P(Xi=1)=0.08,P(Xi=0)=0.92
を満たします。
したがって、
E[Xi]=1⋅0.08+0⋅0.92=0.08
です。
期待値の線形性より、
E[X]=E[X1+⋯+X20]=E[X1]+⋯+E[X20]
なので、
E[X]=20⋅0.08=1.6
です。
次に分散を計算します。
Xi は 0 または 1 だけを取るので、Xi2=Xi です。
したがって、
E[Xi2]=E[Xi]=0.08
です。
分散の公式より、
Var(Xi)=E[Xi2]−(E[Xi])2=0.08−(0.08)2
です。
計算すると、
0.08−(0.08)2=0.08−0.0064=0.0736
です。
独立な確率変数の和では分散が足せるので、
Var(X)=20⋅0.0736=1.472
となります。
したがって、
E[X]=20⋅0.08=1.6
Var(X)=20⋅0.08⋅0.92=1.472
です。
また、
P(X=0)=(020)0.080(0.92)20=0.9220≈0.189
です。
副作用確率が8%でも、20人観察して1人も出ない確率は約18.9%あります。
「観察されなかった」ことは「起こらない」ことを意味しない、という点が重要です。
問題2:服薬忘れ回数と確率母関数
ある患者の1週間の服薬忘れ回数 X がポアソン分布
X∼Poisson(λ)
に従うとします。
- 確率母関数 GX(s) を求めてください。
- E[X] を確率母関数から求めてください。
解答
ポアソン分布の確率関数は、
P(X=x)=e−λx!λx(x=0,1,2,…)
です。
したがって、
GX(s)=E[sX]=x=0∑∞sxe−λx!λx
です。
整理すると、
GX(s)=e−λx=0∑∞x!(λs)x=e−λeλs=eλ(s−1)
となります。
途中で使った
x=0∑∞x!(λs)x=eλs
は、指数関数のマクローリン展開
eu=x=0∑∞x!ux
に u=λs を代入したものです。
数IIIの範囲を少し越えて見える場合は、「指数関数はこの無限級数で表せる」と受け取れば大丈夫です。
統計検定1級では、ポアソン分布の母関数計算で頻繁に出てきます。
期待値は、
GX′(1)=E[X]
で求められます。
GX′(s)=λeλ(s−1)
なので、
GX′(1)=λ
です。
よって、
E[X]=λ
となります。
問題3:血中濃度の対数変換
ある薬の投与後血中濃度 X が正の値をとり、
Y=logX
が正規分布 N(μ,σ2) に従うとします。
- X の分布名を答えてください。
- X の密度関数を求めてください。
- なぜ薬物動態で対数変換がよく使われるか説明してください。
解答
logX が正規分布に従うので、X は 対数正規分布 に従います。
Y=logX の逆変換は、
x=ey
です。
密度を求めたい変数は X なので、逆に
y=logx
と書いておきます。
Y の密度は正規分布の密度なので、
fY(y)=σ2π1exp{−2σ2(y−μ)2}
です。
密度を Y から X に変換するときは、
fX(x)=fY(logx)dxdlogx
を使います。
ここで、
dxdlogx=x1
です。
したがって、
fY(logx)=σ2π1exp{−2σ2(logx−μ)2}
であり、これに x1 を掛けるので、
fX(x)=xσ2π1exp{−2σ2(logx−μ)2}(x>0)
となります。
薬物動態で対数変換がよく使われる理由は、濃度やAUCが負にならず、個体差が「足し算」より「倍率」で現れやすいからです。
例えば、ある患者のAUCが別の患者の2倍という違いは、元のスケールでは右に長い分布を作りやすいです。
対数を取ると倍率の違いが加法的な違いになり、正規分布に近づくことがあります。
問題4:キュムラント母関数で二項分布を見る
X∼Bin(n,π) とします。
- 積率母関数 MX(t) を求めてください。
- キュムラント母関数 KX(t) を求めてください。
- KX′(0) と KX′′(0) を確認してください。
解答
二項分布の積率母関数は、
MX(t)={(1−π)+πet}n
です。
したがって、キュムラント母関数は、
KX(t)=logMX(t)=nlog{(1−π)+πet}
です。
積率母関数を導出すると、まず
MX(t)=E[etX]=x=0∑netxP(X=x)
です。
二項分布の確率関数を代入すると、
MX(t)=x=0∑netx(xn)πx(1−π)n−x
となります。
etxπx=(πet)x なので、
MX(t)=x=0∑n(xn)(πet)x(1−π)n−x
です。
二項定理より、
MX(t)={(1−π)+πet}n
が得られます。
1回微分すると、
KX′(t)=n(1−π)+πetπet
なので、
KX′(0)=nπ
です。
これは二項分布の期待値です。
さらに2回微分すると、
KX′′(0)=nπ(1−π)
となります。
この2回微分も省略せずに書くと、まず
KX′(t)=n(1−π)+πetπet
です。
ここで
A(t)=πet,B(t)=(1−π)+πet
とおくと、
KX′(t)=nB(t)A(t)
です。
商の微分より、
KX′′(t)=n{B(t)}2A′(t)B(t)−A(t)B′(t)
です。
A′(t)=πet、B′(t)=πet だから、
KX′′(t)=n{(1−π)+πet}2πet{(1−π)+πet}−(πet)(πet)
です。
分子を整理すると、
πet(1−π)+π2e2t−π2e2t=π(1−π)et
なので、
KX′′(t)=n{(1−π)+πet}2π(1−π)et
です。
t=0 を代入すると e0=1 で、分母は
{(1−π)+π}2=1
なので、
KX′′(0)=nπ(1−π)
となります。
これは二項分布の分散です。
このように、キュムラント母関数は平均と分散を直接取り出せます。
独立な和ではキュムラントが足し算になるため、複数患者の反応数や複数検体の陽性数を合計する場面で考え方が役立ちます。
問題5:コロニー数とポアソン分布
ある抗菌薬処理後のプレートで、一定面積あたりの耐性コロニー数 X がポアソン分布
X∼Poisson(λ)
に従うとします。
平均して1視野あたり 2.4 個のコロニーが観察されるとき、次を求めます。
- P(X=0)
- P(X≥1)
- E[X] と Var(X)
解答
ポアソン分布の確率関数は、
P(X=x)=e−λx!λx(x=0,1,2,…)
です。
ここでは λ=2.4 です。
まず、コロニーが0個の確率は、
P(X=0)=e−2.40!2.40
です。
ここで、
2.40=1,0!=1
なので、
P(X=0)=e−2.4
です。
数値としては、
e−2.4≈0.0907
です。
次に、少なくとも1個観察される確率は、補集合を使って、
P(X≥1)=1−P(X=0)
です。
したがって、
P(X≥1)=1−e−2.4≈1−0.0907=0.9093
となります。
ポアソン分布では、
E[X]=λ,Var(X)=λ
です。
したがって、
E[X]=2.4,Var(X)=2.4
です。
この「平均と分散が等しい」という性質は、生命科学データを見るときの重要な診断点です。
実際のコロニー数データで標本分散が標本平均よりかなり大きいなら、細胞状態のばらつきや局所的な増殖差があり、単純なポアソン分布では足りない可能性があります。
問題6:IC50 の対数スケール
ある化合物の IC50 を X とします。
IC50 は正の値で、実験を繰り返すと倍率方向にばらつくことが多いため、
Y=log10X
を考えます。
ここで、
Y∼N(−6,0.22)
とします。
つまり、log10IC50 の平均が −6、標準偏差が 0.2 です。
- IC50 の中央値を求めてください。
- Y が平均から +1 標準偏差だけ大きいとき、IC50 は中央値の何倍ですか。
- なぜ IC50 は元のスケールより対数スケールで扱いやすいのか説明してください。
解答
まず、
Y=log10X
なので、
X=10Y
です。
対数正規型の分布では、対数を取った変数 Y の中央値が、元の変数 X の中央値に対応します。
ここでは Y の平均も中央値も −6 なので、IC50 の中央値は、
10−6
です。
単位が mol/L なら、
10−6mol/L=1μM
です。
次に、Y が平均から +1 標準偏差だけ大きい値は、
−6+0.2=−5.8
です。
このときの IC50 は、
10−5.8
です。
中央値 10−6 との比を取ると、
10−610−5.8=100.2
です。
数値として、
100.2≈1.58
なので、約 1.58 倍です。
IC50 は濃度なので、0以下にはなりません。
また、実験誤差や生物学的ばらつきは「0.1 μM 増える」という足し算より、「1.5倍になる」「2倍になる」という倍率で現れることがあります。
対数を取ると、倍率の違いが足し算の違いになります。
そのため、正規分布近似、信頼区間、回帰モデルに載せやすくなります。
問題7:細胞生存率の期待値
ある濃度の薬剤を処理したウェルで、細胞が生存する確率を p=0.72 とします。
1ウェル内で独立に観察できる細胞を 100 個とし、生存細胞数を X とします。
- X の分布を答えてください。
- 生存率 R=X/100 の期待値と分散を求めてください。
解答
各細胞について、生存なら 1、非生存なら 0 と考えます。
100個の細胞を独立に観察できると仮定すると、
X∼Bin(100,0.72)
です。
二項分布より、
E[X]=np=100⋅0.72=72
です。
また、
Var(X)=np(1−p)=100⋅0.72⋅0.28
です。
計算すると、
Var(X)=20.16
です。
生存率は、
R=100X
です。
期待値は定数倍の性質より、
E[R]=E[100X]=1001E[X]=10072=0.72
です。
分散では、定数倍するとその定数の2乗が前に出ます。
つまり、
Var(aX)=a2Var(X)
です。
ここで a=1/100 なので、
Var(R)=Var(100X)=10021Var(X)
です。
したがって、
Var(R)=1000020.16=0.002016
です。
この例はシンプルですが、細胞生存率、陽性細胞率、発現細胞割合のようなデータを考える入口になります。
実際の実験では細胞どうしが完全に独立でないことや、ウェル間差があることも多いため、二項分布からのずれを見ることが重要です。
問題8:濃度指標の分位点を単位換算する
ある濃度指標 X の95パーセンタイルが、
q0.95(X)=2.4 mg/L
であるとします。Y=1000X として ng/mL へ単位換算したとき、Y の95パーセンタイルを求めてください。
解答
Y=1000X は正の係数による線形変換です。そのため、観測値の順序は変わらず、同じ確率に対応する分位点も1000倍されます。
q0.95(Y)=1000q0.95(X)=1000×2.4=2400 ng/mL
です。単位換算では代表値だけでなく、中央値や95パーセンタイルなどの分位点も同じ係数で変換されます。
まとめ
この章では、確率変数と確率分布を中心に、統計検定1級で必要になる道具を整理しました。
- 離散型では確率関数 P(X=x) を使う
- 連続型では確率密度関数 f(x) を使い、面積で確率を考える
- 期待値は確率変数の平均的な値であり、分散も期待値で表せる
- 確率母関数は非負整数値の分布に便利
- 積率母関数は積率を取り出す道具
- 特性関数は分布を一意に決め、極限定理で重要
- キュムラント母関数は独立な和を扱うときに強い
- 変数変換では、特に連続型でヤコビアンが重要
確率分布は、単なる公式集ではありません。
副作用人数、服薬忘れ回数、血中濃度、AUC、IC50、細胞生存率、コロニー数のような薬学・生命科学データを、どの確率モデルで表すかを考えるための言語です。