この章で学ぶこと

第二章では、確率関数・確率密度関数・期待値・母関数など、確率分布を扱うための道具を学びました。 第三章では、道具を実際の分布に当てはめます。

大切なのは、分布名と公式をばらばらに暗記することではありません。

どんな情報を観測したかどんな仕組みで値が生じたかどの分布が候補になるか何を学べるか\text{どんな情報を観測したか} \longrightarrow \text{どんな仕組みで値が生じたか} \longrightarrow \text{どの分布が候補になるか} \longrightarrow \text{何を学べるか}

という流れで考えることです。

例えば「10人中3人に副作用が出た」という情報からは、副作用の発現確率を考えられます。 「1週間に有害事象報告が4件あった」という情報からは、単位時間当たりの発生率を考えられます。 同じ「4」という数でも、値が生じた仕組みが違えば、候補となる分布も違います。

この章を読み終えると、次のことができるようになることを目指します。

  • データの種類と発生過程から、候補となる分布を選ぶ
  • 分布の平均・分散・形から、現象について何が分かるかを説明する
  • 分布同士の和、変換、極限、近似の関係を使う
  • 統計検定1級で頻出の標本分布を導出の流れから理解する
  • 薬学・生命科学のデータに、確率モデルを対応させる

まずはデータの形を見る

最初の手掛かりは、観測値がどこを動くかです。

観測する情報値の範囲生じる仕組み主な候補そこから学べること
成功・失敗0, 11回の試行ベルヌーイ分布成功確率、発現確率
nn回中の成功数0,1,,n0,1,\ldots,n独立な反復試行二項分布成功率、ばらつき
一定区間内の発生数0,1,2,0,1,2,\ldotsまれな事象の独立発生ポアソン分布発生率、イベント負荷
初成功までの回数1,2,1,2,\ldots成功まで反復幾何分布発見までの試行回数
正の待ち時間x>0x>0ポアソン過程の待ち時間指数・ガンマ分布発生率、待ち時間
測定値・誤差<x<-\infty<x<\infty多数の小要因の和正規分布中心、個体差、測定誤差
濃度・AUC・IC50x>0x>0乗法的な個体差対数正規分布幾何平均、倍率のばらつき
割合・確率0<x<10<x<10と1の間の連続量ベータ分布奏効率などの不確実性
標本分散x>0x>0正規標本の平方和カイ二乗分布母分散の不確実性
標準化した標本平均実数全体分散を標本から推定tt分布小標本での平均推論
2つの分散の比x>0x>0平方和の比FF分布分散比、分散分析
分布はデータに貼り付いた事実ではありません。

「独立か」「成功確率は一定か」「発生率は一定か」といった仮定を置いたモデルです。同じデータ型でも仮定が崩れれば、別の分布が必要になります。

分布同士はどうつながるか

代表的な分布は、反復、和、待ち時間、変数変換、標準化によってつながっています。

ベルヌーイ分布1回の成功・失敗
独立に n 回足す →
二項分布n回中の成功数
二項分布nが大きく、pが小さい
np = λ を固定して極限 →
ポアソン分布まれな事象の発生数
ポアソン過程時間内の発生数
次の1回まで待つ →
指数分布最初の発生までの時間
指数分布独立な待ち時間
r 個足す →
ガンマ分布r回目の発生までの時間
標準正規分布Zの平方
独立に足す →
カイ二乗分布平方和と標本分散
正規 ÷ カイ二乗分散を標本から推定
標準化 →
t分布・F分布平均と分散比の推論

この関係図は、そのまま統計検定1級の出題の骨格です。 特に「どの分布の和か」「何で割って標準化したか」「どの極限を取ったか」を問う問題がよく出ます。

グラフを動かして分布の形をつかむ

公式を読む前に、20種類の分布を切り替え、パラメータを動かして形の変化を見てみましょう。 例えば二項分布で nn を大きくすると滑らかな形に近づき、pp を動かすと山の位置と左右の歪みが変わります。

INTERACTIVE

確率分布を動かして比べる

分布とパラメータを変えると、グラフ、平均、分散が同時に変化します。

モデル
平均
分散
選択した確率分布のグラフ

この形が現れる場面:

グラフの赤い破線は平均です。 平均は「分布の中心」を表しますが、最頻値や中央値と一致するとは限りません。 ガンマ分布やベータ分布のように歪んだ分布では、この違いが特に見やすくなります。

各分布で確認する6項目

これ以降は、それぞれの分布について、できるだけ同じ順番で整理します。

  1. XX が取りうる値
  2. 確率関数または確率密度関数:各値・各区間の起こりやすさ
  3. 分布関数F(x)=P(Xx)F(x)=P(X\leq x)
  4. 母関数:離散型では確率母関数 GX(s)G_X(s)、一般には積率母関数 MX(t)M_X(t)
  5. 期待値と分散:理論上の平均とばらつき
  6. 現象との対応:何の情報から何を学べるか

緑色の 「発展」 が付いた項目は、統計検定1級の理解をさらに広げる内容です。 最初は飛ばしても章の基本的な流れを追えるようにしています。

期待値 E[X]E[X] は確率分布が持つ理論上の平均です。 実際のデータから計算する標本平均 Xˉ\bar X とは区別します。

また、ポアソン分布と指数分布の母数は、本文・数式・グラフを通して λ\lambda(ラムダ) と表記します。 画面上でも英字綴りではなく λ を用います。

離散型分布

1. ベルヌーイ分布

1回の試行について、成功を1、失敗を0とする確率変数を XX とします。

P(X=1)=p,P(X=0)=1pP(X=1)=p,\qquad P(X=0)=1-p

のとき、

XBernoulli(p)X\sim \mathrm{Bernoulli}(p)

と書きます。

薬学では、1人の患者に副作用が発現したか、1ウェルが陽性になったか、1つの化合物がヒットしたか、などが例です。

平均は定義から、

E[X]=0(1p)+1p=pE[X]=0\cdot(1-p)+1\cdot p=p

です。また XX は0か1しか取らないので、常に X2=XX^2=X です。したがって、

E[X2]=E[X]=pE[X^2]=E[X]=p

となり、

Var(X)=E[X2]{E[X]}2=pp2=p(1p)\mathrm{Var}(X) =E[X^2]-\{E[X]\}^2 =p-p^2 =p(1-p)

です。

分布関数は、台が 0,10,1 なので段階的に、

FX(x)={0(x<0)1p(0x<1)1(x1)F_X(x)= \begin{cases} 0 & (x<0)\\ 1-p & (0\leq x<1)\\ 1 & (x\geq1) \end{cases}

となります。

確率母関数は定義から、

GX(s)=E[sX]=(1p)s0+ps1=1p+psG_X(s)=E[s^X] =(1-p)s^0+ps^1 =1-p+ps

です。積率母関数は s=ets=e^t を代入して、

MX(t)=GX(et)=1p+petM_X(t)=G_X(e^t)=1-p+pe^t

です。微分すると、

MX(0)=p=E[X]M_X'(0)=p=E[X] MX(0)=p=E[X2]M_X''(0)=p=E[X^2]

となり、先ほど直接求めた結果と一致します。

ベルヌーイ分布は、他の多くの離散分布の出発点です。

2. 二項分布

独立なベルヌーイ確率変数 X1,,XnX_1,\ldots,X_n が、すべて成功確率 pp を持つとします。

X=X1++XnX=X_1+\cdots+X_n

とおけば、XXnn 回中の成功回数です。このとき、

XBin(n,p)X\sim \mathrm{Bin}(n,p)

であり、確率関数は、

P(X=x)=(nx)px(1p)nx(x=0,1,,n)P(X=x)=\binom{n}{x}p^x(1-p)^{n-x} \qquad (x=0,1,\ldots,n)

です。

平均と分散は、独立な和を使うと短く導けます。

E[X]=E[X1]++E[Xn]=npE[X] =E[X_1]+\cdots+E[X_n] =np

独立性より共分散が0なので、

Var(X)=Var(X1)++Var(Xn)=np(1p)\mathrm{Var}(X) =\mathrm{Var}(X_1)+\cdots+\mathrm{Var}(X_n) =np(1-p)

です。

確率関数も、ベルヌーイ試行から導けます。 X=xX=x となるには nn 回のうち xx 回が成功し、その並び方は (nx)\binom nx 通りです。 各並びの確率は独立性より px(1p)nxp^x(1-p)^{n-x} なので、

P(X=x)=(nx)px(1p)nxP(X=x)=\binom nx p^x(1-p)^{n-x}

です。

分布関数は、整数 xx に対して確率関数を累積して、

FX(x)=P(Xx)=k=0x(nk)pk(1p)nkF_X(x) =P(X\leq x) =\sum_{k=0}^{\lfloor x\rfloor} \binom nk p^k(1-p)^{n-k}

です。x\lfloor x\rfloorxx 以下の最大の整数です。

確率母関数は、X=X1++XnX=X_1+\cdots+X_n と独立性を使うと、

GX(s)=E[sX1++Xn]=i=1nE[sXi]G_X(s) =E[s^{X_1+\cdots+X_n}] =\prod_{i=1}^n E[s^{X_i}]

です。ベルヌーイ分布の確率母関数は 1p+ps1-p+ps なので、

GX(s)=(1p+ps)nG_X(s)=(1-p+ps)^n

となります。したがって積率母関数は、

MX(t)=GX(et)=(1p+pet)nM_X(t)=G_X(e^t) =(1-p+pe^t)^n

です。

GX(s)G_X(s) を二項定理で展開すると、

GX(s)=x=0n(nx)(1p)nxpxsxG_X(s) =\sum_{x=0}^n \binom nx(1-p)^{n-x}p^x s^x

となります。sxs^x の係数がそのまま P(X=x)P(X=x) であり、母関数から確率関数を読み出せることが分かります。

何の情報から何が学べるか

例えば n=100n=100 人中 x=8x=8 人に副作用が出たとします。 観測した情報は「100回の二値試行で8回成功した」です。 二項分布を置けば、未知の発現確率 pp を推定したり、次の100人で何人程度に発現するかを予測したりできます。

ただし、次の仮定が必要です。

  • 患者ごとの発現を成功・失敗に分けられる
  • 各患者の発現確率が同じとみなせる
  • 患者間がおおむね独立である
  • 観察人数 nn が事前に決まっている

施設ごとに発現確率が違う、同じ患者を繰り返し数える、家族やクラスター内で相関がある、といった場合は単純な二項分布では足りません。

頻出:再生性

XBin(n,p)X\sim\mathrm{Bin}(n,p)YBin(m,p)Y\sim\mathrm{Bin}(m,p) が独立で、成功確率が同じなら X+YBin(n+m,p)X+Y\sim\mathrm{Bin}(n+m,p) です。成功確率が異なる場合、和は一般に二項分布にはなりません。

3. 多項分布

1回の試行の結果が2種類ではなく、kk 種類ある場合を考えます。 各カテゴリの確率を p1,,pkp_1,\ldots,p_k とし、

p1++pk=1p_1+\cdots+p_k=1

とします。nn 回の独立試行でカテゴリ jj が現れた回数を XjX_j とすると、

(X1,,Xk)Multinomial(n;p1,,pk)(X_1,\ldots,X_k)\sim\mathrm{Multinomial}(n;p_1,\ldots,p_k)

です。

P(X1=x1,,Xk=xk)=n!x1!xk!p1x1pkxkP(X_1=x_1,\ldots,X_k=x_k) =\frac{n!}{x_1!\cdots x_k!} p_1^{x_1}\cdots p_k^{x_k}

ただし、

x1++xk=nx_1+\cdots+x_k=n

です。

この確率関数の係数は、nn 個の結果をカテゴリごとに並べる方法の数です。 カテゴリ1の場所を x1x_1 個、カテゴリ2の場所を x2x_2 個と順に選ぶと、並び方は、

(nx1)(nx1x2)=n!x1!xk!\binom{n}{x_1} \binom{n-x_1}{x_2}\cdots =\frac{n!}{x_1!\cdots x_k!}

となります。特定の並びの確率 p1x1pkxkp_1^{x_1}\cdots p_k^{x_k} を掛ければ、多項分布の確率関数が得られます。

同時確率母関数は、

G(s1,,sk)=E[s1X1skXk]=(p1s1++pksk)nG(s_1,\ldots,s_k) =E[s_1^{X_1}\cdots s_k^{X_k}] =(p_1s_1+\cdots+p_ks_k)^n

です。多項定理で展開した s1x1skxks_1^{x_1}\cdots s_k^{x_k} の係数が、上の同時確率になります。

XjX_j だけを見れば二項分布なので、

E[Xj]=npj,Var(Xj)=npj(1pj)E[X_j]=np_j,\qquad \mathrm{Var}(X_j)=np_j(1-p_j)

です。一方、異なるカテゴリの個数には、

Cov(Xi,Xj)=npipj(ij)\mathrm{Cov}(X_i,X_j)=-np_ip_j\qquad(i\neq j)

という負の相関があります。

合計が nn に固定されているため、あるカテゴリが1つ増えると、他のカテゴリの合計は1つ減るからです。

薬学・生命科学では、副作用を「なし・軽度・中等度・重度」に分類する場合、遺伝子型を AA,Aa,aaAA,Aa,aa に分類する場合、細胞を複数の表現型に分類する場合に現れます。

4. 超幾何分布

有限個の集団から、元に戻さずに標本を取る場合の成功数です。

全体 NN 個のうち成功が KK 個あり、そこから nn 個を非復元抽出します。 標本中の成功数を XX とすると、

P(X=x)=(Kx)(NKnx)(Nn)P(X=x) =\frac{\binom{K}{x}\binom{N-K}{n-x}}{\binom{N}{n}}

です。分母は全体 NN 個から nn 個を選ぶ方法の数、分子は成功 KK 個から xx 個、失敗 NKN-K 個から nxn-x 個を選ぶ方法の数です。

平均と分散は、

E[X]=nKNE[X]=n\frac{K}{N} Var(X)=nKN(1KN)NnN1\mathrm{Var}(X) =n\frac{K}{N}\left(1-\frac{K}{N}\right) \frac{N-n}{N-1}

です。最後の、

NnN1\frac{N-n}{N-1}

を有限母集団修正といいます。 非復元抽出では、1個取るたびに集団の構成が変わるため、二項分布より分散が小さくなります。

平均は指示変数を使って導けます。 ii 回目の抽出が成功なら Ii=1I_i=1、失敗なら Ii=0I_i=0 とすると、

X=I1++InX=I_1+\cdots+I_n

です。どの抽出位置でも周辺成功確率は K/NK/N なので、

E[Ii]=KNE[I_i]=\frac KN

したがって、

E[X]=i=1nE[Ii]=nKNE[X] =\sum_{i=1}^nE[I_i] =n\frac KN

です。

分散で有限母集団修正が現れる理由は、非復元抽出では IiI_iIjI_j が負に相関するからです。 iji\neq j について、

E[IiIj]=P(Ii=1,Ij=1)=KNK1N1E[I_iI_j] =P(I_i=1,I_j=1) =\frac KN\frac{K-1}{N-1}

なので、

Cov(Ii,Ij)=K(NK)N2(N1)\mathrm{Cov}(I_i,I_j) =-\frac{K(N-K)}{N^2(N-1)}

です。Var(X)\mathrm{Var}(X) を各分散と共分散に分けて足すと、上の有限母集団修正付きの式になります。

例えば96ウェルプレートに陽性対照が12ウェルあり、位置を知らずに10ウェルを選ぶとき、その中の陽性対照数は超幾何分布です。

二項分布超幾何分布
復元抽出、または事実上無限の母集団有限母集団から非復元抽出
各試行の成功確率が一定抽出するたび成功確率が変わる
試行を独立とみなす抽出結果は独立ではない

5. 幾何分布と負の二項分布

成功確率 pp の独立試行を、初めて成功するまで繰り返します。 成功までに必要な試行回数を XX とすると、

P(X=x)=(1p)x1p(x=1,2,)P(X=x)=(1-p)^{x-1}p \qquad(x=1,2,\ldots)

です。最初の x1x-1 回が失敗し、xx 回目に成功する確率だからです。

E[X]=1p,Var(X)=1pp2E[X]=\frac{1}{p},\qquad \mathrm{Var}(X)=\frac{1-p}{p^2}

です。

分布関数は余事象から求めると簡単です。 X>xX>x は最初の x\lfloor x\rfloor 回がすべて失敗することなので、

FX(x)=1P(X>x)=1(1p)x(x1)F_X(x) =1-P(X>x) =1-(1-p)^{\lfloor x\rfloor} \qquad(x\geq1)

です。

確率母関数は等比級数を使って、

GX(s)=x=1sx(1p)x1pG_X(s) =\sum_{x=1}^{\infty}s^x(1-p)^{x-1}p =psj=0{(1p)s}j=ps1(1p)s=ps\sum_{j=0}^{\infty}\{(1-p)s\}^j =\frac{ps}{1-(1-p)s}

です。ただし (1p)s<1|(1-p)s|<1 です。

平均を母関数から導くと、

GX(s)=p{1(1p)s}2G_X'(s) =\frac{p}{\{1-(1-p)s\}^2}

なので、

E[X]=GX(1)=1pE[X]=G_X'(1)=\frac1p

です。さらに、

GX(1)=E[X(X1)]=2(1p)p2G_X''(1)=E[X(X-1)] =\frac{2(1-p)}{p^2}

より、

Var(X)=GX(1)+GX(1){GX(1)}2=1pp2\mathrm{Var}(X) =G_X''(1)+G_X'(1)-\{G_X'(1)\}^2 =\frac{1-p}{p^2}

と導けます。

幾何分布には無記憶性があります。正の整数 s,ts,t に対して、

P(X>s+tX>s)=P(X>t)P(X>s+t\mid X>s)=P(X>t)

です。条件付き確率の定義から、

P(X>s+tX>s)=P(X>s+t)P(X>s)P(X>s+t\mid X>s) =\frac{P(X>s+t)}{P(X>s)}

となります。幾何分布では、最初の mm 回がすべて失敗する確率が、

P(X>m)=(1p)mP(X>m)=(1-p)^m

なので、

(1p)s+t(1p)s=(1p)t=P(X>t)\frac{(1-p)^{s+t}}{(1-p)^s} =(1-p)^t =P(X>t)

と導けます。

目的化合物が見つかるまでのスクリーニング回数、目的変異が得られるまでの培養回数などが候補です。ただし、学習効果やバッチ差で成功確率が変わるなら無記憶性は成立しません。

rr 回目の成功までに必要な試行回数を XX とすると、負の二項分布です。

P(X=x)=(x1r1)pr(1p)xr(x=r,r+1,)P(X=x) =\binom{x-1}{r-1}p^r(1-p)^{x-r} \qquad(x=r,r+1,\ldots)

最後の xx 回目は成功で固定され、最初の x1x-1 回の中から残りの r1r-1 回の成功位置を選ぶため、組合せは (x1r1)\binom{x-1}{r-1} です。

この定義では、

E[X]=rp,Var(X)=r(1p)p2E[X]=\frac{r}{p},\qquad \mathrm{Var}(X)=\frac{r(1-p)}{p^2}

です。

rr 回目の成功までの総試行回数は、独立な幾何分布 Y1,,YrY_1,\ldots,Y_r の和と考えられます。

X=Y1++YrX=Y_1+\cdots+Y_r

したがって確率母関数は、

GX(s)={ps1(1p)s}rG_X(s) =\left\{\frac{ps}{1-(1-p)s}\right\}^r

です。独立な和では母関数が積になるためです。 同じ理由で、

E[X]=rE[Y1]=rpE[X]=rE[Y_1]=\frac rp Var(X)=rVar(Y1)=r(1p)p2\mathrm{Var}(X) =r\mathrm{Var}(Y_1) =\frac{r(1-p)}{p^2}

と導けます。

分布関数は、

FX(x)=k=rx(k1r1)pr(1p)krF_X(x) =\sum_{k=r}^{\lfloor x\rfloor} \binom{k-1}{r-1}p^r(1-p)^{k-r}

です。閉じた初等関数にはなりませんが、確率関数を台の左端 rr から累積すれば求められます。

注意:負の二項分布には複数の定義があります。

rr回成功するまでの総試行回数」を数える定義と、「rr回成功するまでの失敗回数」を数える定義では、確率変数の値が rr だけずれます。問題文の台と確率関数を必ず確認します。

6. ポアソン分布

一定の時間・面積・体積内に起こる事象の回数を表します。

P(X=x)=eλλxx!(x=0,1,2,)P(X=x)=e^{-\lambda}\frac{\lambda^x}{x!} \qquad(x=0,1,2,\ldots)

であり、

E[X]=λ,Var(X)=λE[X]=\lambda,\qquad \mathrm{Var}(X)=\lambda

です。平均と分散が等しいことが重要です。

分布関数は、

FX(x)=eλk=0xλkk!F_X(x) =e^{-\lambda} \sum_{k=0}^{\lfloor x\rfloor}\frac{\lambda^k}{k!}

です。

確率母関数は、指数関数のマクローリン展開、

eu=x=0uxx!e^u=\sum_{x=0}^{\infty}\frac{u^x}{x!}

を使って、

GX(s)=x=0sxeλλxx!G_X(s) =\sum_{x=0}^{\infty}s^x e^{-\lambda}\frac{\lambda^x}{x!} =eλx=0(λs)xx!=eλeλs=exp{λ(s1)}=e^{-\lambda} \sum_{x=0}^{\infty}\frac{(\lambda s)^x}{x!} =e^{-\lambda}e^{\lambda s} =\exp\{\lambda(s-1)\}

となります。したがって、

GX(s)=λexp{λ(s1)}G_X'(s)=\lambda\exp\{\lambda(s-1)\}

より、

E[X]=GX(1)=λE[X]=G_X'(1)=\lambda

です。また、

GX(1)=E[X(X1)]=λ2G_X''(1)=E[X(X-1)]=\lambda^2

なので、

E[X2]=E[X(X1)]+E[X]=λ2+λE[X^2]=E[X(X-1)]+E[X]=\lambda^2+\lambda Var(X)=E[X2]{E[X]}2=λ\mathrm{Var}(X) =E[X^2]-\{E[X]\}^2 =\lambda

と導けます。

積率母関数は s=ets=e^t として、

MX(t)=exp{λ(et1)}M_X(t)=\exp\{\lambda(e^t-1)\}

です。

二項分布からポアソン分布を導く

XnBin(n,pn)X_n\sim\mathrm{Bin}(n,p_n) とし、nn を大きく、pnp_n を小さくしながら、

npn=λnp_n=\lambda

を一定に保ちます。つまり、

pn=λnp_n=\frac{\lambda}{n}

です。固定した xx に対して、

P(Xn=x)=(nx)(λn)x(1λn)nxP(X_n=x) =\binom{n}{x} \left(\frac{\lambda}{n}\right)^x \left(1-\frac{\lambda}{n}\right)^{n-x}

を変形します。

P(Xn=x)=n(n1)(nx+1)x!λxnx(1λn)n(1λn)xP(X_n=x) =\frac{n(n-1)\cdots(n-x+1)}{x!} \frac{\lambda^x}{n^x} \left(1-\frac{\lambda}{n}\right)^n \left(1-\frac{\lambda}{n}\right)^{-x}

nn\to\infty のとき、

n(n1)(nx+1)nx=1(11n)(1x1n)1\frac{n(n-1)\cdots(n-x+1)}{n^x} =1\left(1-\frac1n\right)\cdots \left(1-\frac{x-1}{n}\right) \to1

です。また、指数関数の定義に現れる極限、

(1λn)neλ\left(1-\frac{\lambda}{n}\right)^n\to e^{-\lambda}

と、

(1λn)x1\left(1-\frac{\lambda}{n}\right)^{-x}\to1

を使うと、

P(Xn=x)eλλxx!P(X_n=x) \to e^{-\lambda}\frac{\lambda^x}{x!}

となります。これがポアソン分布です。

薬学・生命科学での見方

  • 1日当たりの有害事象報告数から、報告発生率 λ\lambda を学ぶ
  • 顕微鏡の一定視野内のコロニー数から、平均密度を学ぶ
  • 一定長のDNA領域に生じる変異数から、変異率を学ぶ
  • 一定時間に起こる分子結合イベント数から、イベント率を学ぶ

観測分散が観測平均よりかなり大きいときは、過分散です。 細胞や患者の異質性、クラスター、時間変動が考えられ、負の二項分布や階層モデルが候補になります。

独立な、

XPoisson(λ1),YPoisson(λ2)X\sim\mathrm{Poisson}(\lambda_1),\qquad Y\sim\mathrm{Poisson}(\lambda_2)

に対して、

X+YPoisson(λ1+λ2)X+Y\sim\mathrm{Poisson}(\lambda_1+\lambda_2)

です。異なる観察時間の発生数を足し合わせると、平均発生数も足し合わされます。

連続型分布

7. 一様分布

区間 (a,b)(a,b) のどこでも密度が同じ分布です。

f(x)={1ba(a<x<b)0(それ以外)f(x)= \begin{cases} \dfrac{1}{b-a} & (a<x<b)\\ 0 & (\text{それ以外}) \end{cases}

密度の高さが 1/(ba)1/(b-a) なのは、長方形の面積を1にするためです。

(ba)×1ba=1(b-a)\times\frac{1}{b-a}=1

期待値は、

E[X]=abx1badx=1ba[x22]ab=a+b2E[X] =\int_a^b x\frac{1}{b-a}\,dx =\frac{1}{b-a}\left[\frac{x^2}{2}\right]_a^b =\frac{a+b}{2}

です。さらに、

E[X2]=1ba[x33]ab=a2+ab+b23E[X^2] =\frac{1}{b-a}\left[\frac{x^3}{3}\right]_a^b =\frac{a^2+ab+b^2}{3}

なので、

Var(X)=E[X2]{E[X]}2=(ba)212\mathrm{Var}(X) =E[X^2]-\{E[X]\}^2 =\frac{(b-a)^2}{12}

となります。

分布関数は密度を積分して、

FX(x)={0(xa)xaba(a<x<b)1(xb)F_X(x)= \begin{cases} 0 & (x\leq a)\\ \dfrac{x-a}{b-a} & (a<x<b)\\ 1 & (x\geq b) \end{cases}

です。

積率母関数は t0t\neq0 のとき、

MX(t)=1baabetxdxM_X(t) =\frac{1}{b-a}\int_a^b e^{tx}\,dx =1ba[etxt]ab=etbetat(ba)=\frac{1}{b-a} \left[\frac{e^{tx}}{t}\right]_a^b =\frac{e^{tb}-e^{ta}}{t(b-a)}

です。t=0t=0 では定義から MX(0)=1M_X(0)=1 です。

UU(0,1)U\sim U(0,1) は乱数生成の出発点です。 分布関数の逆関数を使うと、他の分布に従う乱数を作れます。

8. 指数分布

ポアソン過程において、次のイベントまでの待ち時間を表します。

f(x)=λeλx(x>0)f(x)=\lambda e^{-\lambda x} \qquad(x>0)

分布関数と生存関数は、

F(x)=1eλxF(x)=1-e^{-\lambda x} S(x)=P(X>x)=eλxS(x)=P(X>x)=e^{-\lambda x}

です。

ポアソン過程で時間 xx までイベントが起こらないことは、その間の発生数 N(x)N(x) が0であることと同じです。

P(X>x)=P(N(x)=0)P(X>x)=P(N(x)=0)

N(x)Poisson(λx)N(x)\sim\mathrm{Poisson}(\lambda x) だから、

P(N(x)=0)=eλx(λx)00!=eλxP(N(x)=0) =e^{-\lambda x}\frac{(\lambda x)^0}{0!} =e^{-\lambda x}

となり、指数分布が導かれます。

平均と分散は、

E[X]=1λ,Var(X)=1λ2E[X]=\frac{1}{\lambda},\qquad \mathrm{Var}(X)=\frac{1}{\lambda^2}

です。

期待値を密度から導きます。

E[X]=0xλeλxdxE[X] =\int_0^\infty x\lambda e^{-\lambda x}\,dx

u=xu=xdv=λeλxdxdv=\lambda e^{-\lambda x}dx と置くと、du=dxdu=dxv=eλxv=-e^{-\lambda x} です。部分積分より、

E[X]=[xeλx]0+0eλxdx=1λE[X] =\left[-xe^{-\lambda x}\right]_0^\infty +\int_0^\infty e^{-\lambda x}\,dx =\frac1\lambda

です。

同様に、または部分積分をもう一度使うと、

E[X2]=2λ2E[X^2]=\frac{2}{\lambda^2}

なので、

Var(X)=2λ21λ2=1λ2\mathrm{Var}(X) =\frac{2}{\lambda^2}-\frac{1}{\lambda^2} =\frac{1}{\lambda^2}

です。

積率母関数は、

MX(t)=0etxλeλxdx=λ0e(λt)xdxM_X(t) =\int_0^\infty e^{tx}\lambda e^{-\lambda x}\,dx =\lambda\int_0^\infty e^{-(\lambda-t)x}\,dx

より、t<λt<\lambda のとき、

MX(t)=λλtM_X(t)=\frac{\lambda}{\lambda-t}

となります。母関数には存在範囲がある点も重要です。

指数分布にも無記憶性があります。

P(X>s+tX>s)=eλ(s+t)eλs=eλt=P(X>t)P(X>s+t\mid X>s) =\frac{e^{-\lambda(s+t)}}{e^{-\lambda s}} =e^{-\lambda t} =P(X>t)

ハザード関数は、時刻 tt まで起こらなかったという条件の下での瞬間的な発生率です。

h(t)=f(t)S(t)h(t)=\frac{f(t)}{S(t)}

指数分布では、

h(t)=λeλteλt=λh(t)=\frac{\lambda e^{-\lambda t}}{e^{-\lambda t}}=\lambda

と一定です。

薬物の分解・消失を指数関数で表すことは多いですが、「濃度の時間変化」と「個体間の待ち時間分布」は別の概念です。 式の形が似ていても、何を確率変数としているかを区別します。

9. ガンマ分布

正の連続量を表す柔軟な分布です。 ここでは形状母数 α\alpha、尺度母数 θ\theta を用いて、

f(x)=1Γ(α)θαxα1ex/θ(x>0)f(x) =\frac{1}{\Gamma(\alpha)\theta^\alpha} x^{\alpha-1}e^{-x/\theta} \qquad(x>0)

と定義します。

ガンマ関数は、

Γ(α)=0xα1exdx\Gamma(\alpha) =\int_0^\infty x^{\alpha-1}e^{-x}\,dx

です。部分積分を使うと、

Γ(α+1)=0xαexdx\Gamma(\alpha+1) =\int_0^\infty x^\alpha e^{-x}\,dx

に対し、u=xαu=x^\alphadv=exdxdv=e^{-x}dx とおいて、

du=αxα1dx,v=exdu=\alpha x^{\alpha-1}dx,\qquad v=-e^{-x}

ですから、

Γ(α+1)=[xαex]0+α0xα1exdx=αΓ(α)\Gamma(\alpha+1) =\left[-x^\alpha e^{-x}\right]_0^\infty +\alpha\int_0^\infty x^{\alpha-1}e^{-x}\,dx =\alpha\Gamma(\alpha)

となります。特に正の整数 nn について、

Γ(n)=(n1)!\Gamma(n)=(n-1)!

です。

ガンマ分布の積率は、変数変換 u=x/θu=x/\theta を使って、

E[Xm]=θmΓ(α+m)Γ(α)E[X^m] =\theta^m\frac{\Gamma(\alpha+m)}{\Gamma(\alpha)}

と求まります。m=1m=1 なら、

E[X]=θΓ(α+1)Γ(α)=αθE[X] =\theta\frac{\Gamma(\alpha+1)}{\Gamma(\alpha)} =\alpha\theta

です。m=2m=2 なら、

E[X2]=θ2Γ(α+2)Γ(α)=α(α+1)θ2E[X^2] =\theta^2\frac{\Gamma(\alpha+2)}{\Gamma(\alpha)} =\alpha(\alpha+1)\theta^2

なので、

Var(X)=E[X2]{E[X]}2=αθ2\mathrm{Var}(X) =E[X^2]-\{E[X]\}^2 =\alpha\theta^2

です。

分布関数は密度を0から xx まで積分して、

FX(x)=1Γ(α)0x/θuα1euduF_X(x) =\frac{1}{\Gamma(\alpha)} \int_0^{x/\theta}u^{\alpha-1}e^{-u}\,du

です。この積分を正規化不完全ガンマ関数と呼びます。 一般の α\alpha では初等関数だけで表せません。

ただし α=r\alpha=r が正の整数なら、ポアソン過程との関係から、

FX(x)=1ex/θk=0r1(x/θ)kk!F_X(x) =1-e^{-x/\theta} \sum_{k=0}^{r-1}\frac{(x/\theta)^k}{k!}

と書けます。

積率母関数は、

MX(t)=1Γ(α)θα0xα1ex(1/θt)dxM_X(t) =\frac{1}{\Gamma(\alpha)\theta^\alpha} \int_0^\infty x^{\alpha-1} e^{-x(1/\theta-t)}\,dx

です。u=x(1/θt)u=x(1/\theta-t) と変数変換すると、t<1/θt<1/\theta のとき、

MX(t)=(1θt)αM_X(t)=(1-\theta t)^{-\alpha}

となります。

対数を取ったキュムラント母関数は、

KX(t)=αlog(1θt)K_X(t)=-\alpha\log(1-\theta t)

です。微分して t=0t=0 を代入すると、

KX(0)=αθ,KX(0)=αθ2K_X'(0)=\alpha\theta, \qquad K_X''(0)=\alpha\theta^2

となり、平均と分散が一度に得られます。

形状 α=1\alpha=1 のとき、ガンマ分布は指数分布になります。 同じ尺度 θ\theta を持つ独立なガンマ分布の和は、形状母数を足したガンマ分布です。

XGamma(α1,θ),YGamma(α2,θ)X\sim\mathrm{Gamma}(\alpha_1,\theta),\quad Y\sim\mathrm{Gamma}(\alpha_2,\theta)

なら、

X+YGamma(α1+α2,θ)X+Y\sim\mathrm{Gamma}(\alpha_1+\alpha_2,\theta)

です。したがって、独立な指数分布の待ち時間を rr 個足したものは、形状 rr のガンマ分布です。

注意:尺度母数と率母数

率母数を β=1/θ\beta=1/\theta とする本もあります。このとき平均は α/β\alpha/\beta、分散は α/β2\alpha/\beta^2 です。問題文の密度関数を見て判断します。

10. ベータ分布

0と1の間を動く連続量を表します。

f(x)=1B(α,β)xα1(1x)β1(0<x<1)f(x) =\frac{1}{B(\alpha,\beta)} x^{\alpha-1}(1-x)^{\beta-1} \qquad(0<x<1)

ここで、ベータ関数は、

B(α,β)=01xα1(1x)β1dxB(\alpha,\beta) =\int_0^1 x^{\alpha-1}(1-x)^{\beta-1}\,dx

であり、

B(α,β)=Γ(α)Γ(β)Γ(α+β)B(\alpha,\beta) =\frac{\Gamma(\alpha)\Gamma(\beta)}{\Gamma(\alpha+\beta)}

という関係があります。

期待値の定義から、

E[X]=1B(α,β)01xα(1x)β1dx=B(α+1,β)B(α,β)E[X] =\frac{1}{B(\alpha,\beta)} \int_0^1 x^\alpha(1-x)^{\beta-1}\,dx =\frac{B(\alpha+1,\beta)}{B(\alpha,\beta)}

です。ガンマ関数の関係を代入すると、

E[X]=Γ(α+1)Γ(β)Γ(α+β+1)Γ(α+β)Γ(α)Γ(β)=αα+βE[X] =\frac{\Gamma(\alpha+1)\Gamma(\beta)}{\Gamma(\alpha+\beta+1)} \frac{\Gamma(\alpha+\beta)}{\Gamma(\alpha)\Gamma(\beta)} =\frac{\alpha}{\alpha+\beta}

となります。同様に計算すると、

Var(X)=αβ(α+β)2(α+β+1)\mathrm{Var}(X) =\frac{\alpha\beta} {(\alpha+\beta)^2(\alpha+\beta+1)}

です。

分散も途中を確認します。2次積率は、

E[X2]=B(α+2,β)B(α,β)=α(α+1)(α+β)(α+β+1)E[X^2] =\frac{B(\alpha+2,\beta)}{B(\alpha,\beta)} =\frac{\alpha(\alpha+1)} {(\alpha+\beta)(\alpha+\beta+1)}

です。したがって、

Var(X)=E[X2]{E[X]}2\mathrm{Var}(X) =E[X^2]-\{E[X]\}^2

に代入し、通分すると上の分散式が得られます。

分布関数は、

FX(x)=1B(α,β)0xuα1(1u)β1duF_X(x) =\frac{1}{B(\alpha,\beta)} \int_0^x u^{\alpha-1}(1-u)^{\beta-1}\,du

です。この関数を正規化不完全ベータ関数 Ix(α,β)I_x(\alpha,\beta) と書きます。

ベータ分布の積率母関数

一般の積率母関数は初等関数では表しにくく、合流型超幾何関数を使って MX(t)=1F1(α;α+β;t)M_X(t)={}_1F_1(\alpha;\alpha+\beta;t) と書きます。統計検定1級では、この形の丸暗記より E[Xm]=B(α+m,β)/B(α,β)E[X^m]=B(\alpha+m,\beta)/B(\alpha,\beta) から必要な積率を求める方が重要です。

α,β\alpha,\beta を変えると、左右対称、右に偏る、左に偏る、U字型など、多様な形を取ります。

薬学では、未知の副作用発現確率 pp、奏効率、陽性率、細胞生存率についての不確実性を表すのに使えます。 二項分布とベータ分布は共役な関係にあります。

事前に、

pBeta(α,β)p\sim\mathrm{Beta}(\alpha,\beta)

とし、nn 人中 xx 人に副作用が出たとします。 尤度の pp に関係する部分は、

px(1p)nxp^x(1-p)^{n-x}

です。事前密度の pp に関係する部分は、

pα1(1p)β1p^{\alpha-1}(1-p)^{\beta-1}

なので、掛けると、

pα+x1(1p)β+nx1p^{\alpha+x-1}(1-p)^{\beta+n-x-1}

となります。これはベータ分布の形です。したがって事後分布は、

pxBeta(α+x,β+nx)p\mid x\sim\mathrm{Beta}(\alpha+x,\beta+n-x)

です。

「観測前の情報」と「新しい二項データ」を、成功数と失敗数として足し合わせられる点が便利です。

11. 正規分布

平均 μ\mu、分散 σ2\sigma^2 の正規分布は、

f(x)=12πσexp{(xμ)22σ2}f(x) =\frac{1}{\sqrt{2\pi}\sigma} \exp\left\{-\frac{(x-\mu)^2}{2\sigma^2}\right\}

です。

XN(μ,σ2)X\sim N(\mu,\sigma^2)

と書きます。標準化すると、

Z=XμσN(0,1)Z=\frac{X-\mu}{\sigma}\sim N(0,1)

です。

分布関数は標準正規分布の分布関数 Φ\Phi を用いて、

FX(x)=P(Xx)=Φ(xμσ)F_X(x) =P(X\leq x) =\Phi\left(\frac{x-\mu}{\sigma}\right)

です。ここで、

Φ(z)=12πzeu2/2du\Phi(z) =\frac{1}{\sqrt{2\pi}} \int_{-\infty}^{z}e^{-u^2/2}\,du

です。この積分は初等関数では表せないため、分布表や数値計算を使います。

正規分布が重要な理由は、次の3つです。

  • 独立な正規分布の線形結合が正規分布になる
  • 多数の独立な小さな影響の和として現れやすい
  • 中心極限定理により、標本平均が近似的に正規分布になる

独立な XiN(μi,σi2)X_i\sim N(\mu_i,\sigma_i^2) に対して、

Y=a1X1++anXnY=a_1X_1+\cdots+a_nX_n

とすると、

YN(i=1naiμi,i=1nai2σi2)Y\sim N\left( \sum_{i=1}^n a_i\mu_i, \sum_{i=1}^n a_i^2\sigma_i^2 \right)

です。

積率母関数の導出

正規分布の積率母関数は、

MX(t)=E[etX]M_X(t)=E[e^{tX}]

です。指数部分を平方完成します。

tx(xμ)22σ2={x(μ+σ2t)}22σ2+μt+σ2t22tx-\frac{(x-\mu)^2}{2\sigma^2} =-\frac{\{x-(\mu+\sigma^2t)\}^2}{2\sigma^2} +\mu t+\frac{\sigma^2t^2}{2}

したがって、

MX(t)=exp(μt+σ2t22)12πσexp[{x(μ+σ2t)}22σ2]dxM_X(t) =\exp\left(\mu t+\frac{\sigma^2t^2}{2}\right) \int_{-\infty}^{\infty} \frac{1}{\sqrt{2\pi}\sigma} \exp\left[ -\frac{\{x-(\mu+\sigma^2t)\}^2}{2\sigma^2} \right]dx

です。積分の部分は、平均 μ+σ2t\mu+\sigma^2t、分散 σ2\sigma^2 の正規密度を全範囲で積分したものなので1です。よって、

MX(t)=exp(μt+σ2t22)M_X(t) =\exp\left(\mu t+\frac{\sigma^2t^2}{2}\right)

となります。

この母関数を微分すると、

MX(t)=(μ+σ2t)exp(μt+σ2t22)M_X'(t) =(\mu+\sigma^2t) \exp\left(\mu t+\frac{\sigma^2t^2}{2}\right)

なので、

E[X]=MX(0)=μE[X]=M_X'(0)=\mu

です。2回微分して t=0t=0 を代入すると、

E[X2]=MX(0)=μ2+σ2E[X^2]=M_X''(0)=\mu^2+\sigma^2

したがって、

Var(X)=E[X2]{E[X]}2=σ2\mathrm{Var}(X) =E[X^2]-\{E[X]\}^2 =\sigma^2

となります。

薬学では、測定誤差、製剤含量のばらつき、十分大きな標本の平均値などに使われます。 ただし、濃度やAUCの生データは0未満にならず右に歪みやすいため、正規分布より対数正規分布が自然なことがあります。

12. 対数正規分布

Y=logXN(μ,σ2)Y=\log X\sim N(\mu,\sigma^2)

のとき、XX は対数正規分布に従います。

x=eyx=e^y なので、変数変換のヤコビアンは、

dydx=1x\left|\frac{dy}{dx}\right|=\frac{1}{x}

です。したがって、

fX(x)=1xσ2πexp{(logxμ)22σ2}(x>0)f_X(x) =\frac{1}{x\sigma\sqrt{2\pi}} \exp\left\{-\frac{(\log x-\mu)^2}{2\sigma^2}\right\} \qquad(x>0)

となります。

中央値と平均は異なり、

Median(X)=eμ\mathrm{Median}(X)=e^\mu E[X]=eμ+σ2/2E[X]=e^{\mu+\sigma^2/2}

です。平均の導出は、正規分布の積率母関数に t=1t=1 を代入して、

E[X]=E[eY]=MY(1)=eμ+σ2/2E[X]=E[e^Y]=M_Y(1)=e^{\mu+\sigma^2/2}

とできます。

分布関数は単調変換を使って、

FX(x)=P(Xx)=P(Ylogx)F_X(x) =P(X\leq x) =P(Y\leq\log x) =Φ(logxμσ)(x>0)=\Phi\left(\frac{\log x-\mu}{\sigma}\right) \qquad(x>0)

です。

また、

E[X2]=E[e2Y]=MY(2)=e2μ+2σ2E[X^2] =E[e^{2Y}] =M_Y(2) =e^{2\mu+2\sigma^2}

なので、

Var(X)=e2μ+2σ2e2μ+σ2\mathrm{Var}(X) =e^{2\mu+2\sigma^2} -e^{2\mu+\sigma^2} ={eσ21}e2μ+σ2=\{e^{\sigma^2}-1\} e^{2\mu+\sigma^2}

です。

すべての積率があっても積率母関数がない例

対数正規分布では E[Xm]E[X^m] はすべての正整数 mm で有限ですが、t>0t>0 に対する E[etX]E[e^{tX}] は発散します。したがって積率母関数は0の右近傍で存在しません。「積率が全部ある」ことと「積率母関数が存在する」ことは同じではありません。

血中濃度、AUC、クリアランス、IC50、遺伝子発現量など、比率として変動する正の量に現れます。 対数尺度では加法的、生の尺度では乗法的な変動になります。

13. カイ二乗分布

独立な標準正規確率変数 Z1,,ZνZ_1,\ldots,Z_\nu に対して、

V=Z12++Zν2V=Z_1^2+\cdots+Z_\nu^2

とおくと、

Vχν2V\sim\chi^2_\nu

です。ν\nu を自由度といいます。

カイ二乗分布は、

χν2=Gamma(ν2,2)\chi^2_\nu =\mathrm{Gamma}\left(\frac{\nu}{2},2\right)

というガンマ分布の特別な場合です。したがって、

E[V]=ν,Var(V)=2νE[V]=\nu, \qquad \mathrm{Var}(V)=2\nu

です。

ガンマ分布の式に α=ν/2\alpha=\nu/2θ=2\theta=2 を代入すると、密度は、

fV(v)=12ν/2Γ(ν/2)vν/21ev/2(v>0)f_V(v) =\frac{1}{2^{\nu/2}\Gamma(\nu/2)} v^{\nu/2-1}e^{-v/2} \qquad(v>0)

です。分布関数は、

FV(v)=1Γ(ν/2)0v/2uν/21euduF_V(v) =\frac{1}{\Gamma(\nu/2)} \int_0^{v/2}u^{\nu/2-1}e^{-u}\,du

で、不完全ガンマ関数を使います。

積率母関数もガンマ分布から、

MV(t)=(12t)ν/2(t<1/2)M_V(t)=(1-2t)^{-\nu/2} \qquad(t<1/2)

です。独立なカイ二乗分布の和について、母関数を掛けると自由度が足されるため、

Uχν12,Vχν22,UVU\sim\chi^2_{\nu_1},\quad V\sim\chi^2_{\nu_2},\quad U\perp V

なら、

U+Vχν1+ν22U+V\sim\chi^2_{\nu_1+\nu_2}

です。

正規母集団からの標本 X1,,XnX_1,\ldots,X_n に対して、標本分散を、

S2=1n1i=1n(XiXˉ)2S^2=\frac{1}{n-1}\sum_{i=1}^n(X_i-\bar X)^2

と定義すると、

(n1)S2σ2χn12\frac{(n-1)S^2}{\sigma^2} \sim\chi^2_{n-1}

です。

自由度が nn ではなく n1n-1 なのは、偏差に、

i=1n(XiXˉ)=0\sum_{i=1}^n(X_i-\bar X)=0

という1本の制約があるためです。

製剤含量や分析値の母分散を評価する場面で、この標本分布が推論の土台になります。

14. t分布

ZN(0,1)Z\sim N(0,1)Vχν2V\sim\chi^2_\nu が独立のとき、

T=ZV/νT=\frac{Z}{\sqrt{V/\nu}}

は自由度 ν\nutt 分布に従います。

TtνT\sim t_\nu

正規分布と似た左右対称の形ですが、分母も確率変数なので裾が厚くなります。 自由度が大きくなると分母の V/νV/\nu が1に集中し、標準正規分布に近づきます。

密度関数は、

fT(t)=Γ{(ν+1)/2}νπΓ(ν/2)(1+t2ν)(ν+1)/2f_T(t) =\frac{\Gamma\{(\nu+1)/2\}} {\sqrt{\nu\pi}\,\Gamma(\nu/2)} \left(1+\frac{t^2}{\nu}\right)^{-(\nu+1)/2}

です。分布関数はこの密度を -\infty から積分したもので、不完全ベータ関数を使って表されます。

正規母集団からの標本について、

XˉμS/ntn1\frac{\bar X-\mu}{S/\sqrt n} \sim t_{n-1}

です。母標準偏差 σ\sigma が未知で、標本標準偏差 SS に置き換えたため tt 分布が現れます。

平均は ν>1\nu>1 で0、分散は ν>2\nu>2 で、

Var(T)=νν2\mathrm{Var}(T)=\frac{\nu}{\nu-2}

です。自由度1の tt 分布はコーシー分布で、平均も分散も存在しません。

t分布の積率母関数

t分布は裾が多項式の速さで減るため、t0t\neq0 の積率母関数 E[etT]E[e^{tT}] は存在しません。一方、特性関数は常に存在します。低自由度では通常の積率そのものも存在しないことに注意します。

15. F分布

独立な、

Uχν12,Vχν22U\sim\chi^2_{\nu_1},\qquad V\sim\chi^2_{\nu_2}

に対して、

F=U/ν1V/ν2F=\frac{U/\nu_1}{V/\nu_2}

は自由度 (ν1,ν2)(\nu_1,\nu_2)FF 分布に従います。

FFν1,ν2F\sim F_{\nu_1,\nu_2}

分散の比や、分散分析の「群間変動÷群内変動」に現れます。

密度関数は、x>0x>0 で、

fF(x)=(ν1/ν2)ν1/2B(ν1/2,ν2/2)xν1/21(1+ν1ν2x)(ν1+ν2)/2f_F(x) =\frac{(\nu_1/\nu_2)^{\nu_1/2}} {B(\nu_1/2,\nu_2/2)} x^{\nu_1/2-1} \left(1+\frac{\nu_1}{\nu_2}x\right)^{-(\nu_1+\nu_2)/2}

です。分布関数は正規化不完全ベータ関数を使って、

FF(x)=Iν1x/(ν1x+ν2)(ν12,ν22)F_F(x) =I_{\nu_1x/(\nu_1x+\nu_2)} \left(\frac{\nu_1}{2},\frac{\nu_2}{2}\right)

と書けます。

平均は ν2>2\nu_2>2 のとき、

E[F]=ν2ν22E[F]=\frac{\nu_2}{\nu_2-2}

分散は ν2>4\nu_2>4 のとき、

Var(F)=2ν22(ν1+ν22)ν1(ν22)2(ν24)\mathrm{Var}(F) =\frac{2\nu_2^2(\nu_1+\nu_2-2)} {\nu_1(\nu_2-2)^2(\nu_2-4)}

です。 また、

TtνT2F1,νT\sim t_\nu \quad\Longrightarrow\quad T^2\sim F_{1,\nu}

という重要な関係があります。実際、

T2=Z2/1V/νT^2 =\frac{Z^2/1}{V/\nu}

であり、Z2χ12Z^2\sim\chi^2_1 だからです。

さらに、

FFν1,ν21FFν2,ν1F\sim F_{\nu_1,\nu_2} \quad\Longrightarrow\quad \frac{1}{F}\sim F_{\nu_2,\nu_1}

です。分子と分母を入れ替えると、自由度の順番も入れ替わります。

16. ワイブル分布

生存時間、故障時間、安定性試験の時間を柔軟に表せます。 形状母数 kk、尺度母数 η\eta として、

f(t)=kη(tη)k1exp{(tη)k}(t>0)f(t) =\frac{k}{\eta} \left(\frac{t}{\eta}\right)^{k-1} \exp\left\{-\left(\frac{t}{\eta}\right)^k\right\} \qquad(t>0)

です。生存関数は、

S(t)=exp{(tη)k}S(t) =\exp\left\{-\left(\frac{t}{\eta}\right)^k\right\}

なので、ハザードは、

h(t)=f(t)S(t)=kη(tη)k1h(t)=\frac{f(t)}{S(t)} =\frac{k}{\eta}\left(\frac{t}{\eta}\right)^{k-1}

です。

分布関数は、

F(t)=1S(t)=1exp{(tη)k}F(t)=1-S(t) =1-\exp\left\{-\left(\frac{t}{\eta}\right)^k\right\}

です。

mm 次積率は u=(t/η)ku=(t/\eta)^k と変数変換して、

E[Tm]=ηmΓ(1+mk)E[T^m] =\eta^m\Gamma\left(1+\frac{m}{k}\right)

となります。したがって、

E[T]=ηΓ(1+1k)E[T] =\eta\Gamma\left(1+\frac1k\right) Var(T)=η2[Γ(1+2k){Γ(1+1k)}2]\mathrm{Var}(T) =\eta^2\left[ \Gamma\left(1+\frac2k\right) -\left\{\Gamma\left(1+\frac1k\right)\right\}^2 \right]

です。

積率母関数は一般には簡単な閉じた形を持ちません。 k=1k=1 なら指数分布となり、MT(t)=1/(1ηt)M_T(t)=1/(1-\eta t) です。

  • k=1k=1:ハザード一定で指数分布
  • k>1k>1:時間とともにハザードが増加
  • 0<k<10<k<1:時間とともにハザードが減少

例えば、保存時間が長いほど製剤不良の起こりやすさが増えるなら k>1k>1 が候補です。 初期不良が減って安定する現象なら k<1k<1 が候補になります。

17. 離散一様分布

1,2,,m1,2,\ldots,m の各整数を同じ確率で取る分布です。

P(X=x)=1m(x=1,2,,m)P(X=x)=\frac1m \qquad(x=1,2,\ldots,m)

分布関数は、

FX(x)={0(x<1)xm(1x<m)1(xm)F_X(x)= \begin{cases} 0 & (x<1)\\ \dfrac{\lfloor x\rfloor}{m} & (1\leq x<m)\\ 1 & (x\geq m) \end{cases}

です。

確率母関数は有限等比級数から、

GX(s)=1mx=1msx=s(1sm)m(1s)G_X(s) =\frac1m\sum_{x=1}^m s^x =\frac{s(1-s^m)}{m(1-s)}

です。期待値は、

E[X]=1mx=1mx=1mm(m+1)2=m+12E[X] =\frac1m\sum_{x=1}^m x =\frac1m\frac{m(m+1)}2 =\frac{m+1}{2}

です。また、

x=1mx2=m(m+1)(2m+1)6\sum_{x=1}^m x^2 =\frac{m(m+1)(2m+1)}6

を使うと、

Var(X)=m2112\mathrm{Var}(X)=\frac{m^2-1}{12}

となります。

公平なサイコロ、候補化合物への無作為な番号付け、ブロック内の等確率な割付位置などが例です。

18. ラプラス分布とロジスティック分布

ラプラス分布

位置母数 μ\mu、尺度母数 b>0b>0 のラプラス分布は、

f(x)=12bexp(xμb)f(x)=\frac{1}{2b} \exp\left(-\frac{|x-\mu|}{b}\right)

です。分布関数は、

F(x)={12exp{(xμ)/b}(x<μ)112exp{(xμ)/b}(xμ)F(x)= \begin{cases} \dfrac12\exp\{(x-\mu)/b\} & (x<\mu)\\ 1-\dfrac12\exp\{-(x-\mu)/b\} & (x\geq\mu) \end{cases}

です。

積率母関数は t<1/b|t|<1/b で、

MX(t)=eμt1b2t2M_X(t)=\frac{e^{\mu t}}{1-b^2t^2}

となります。対称性または母関数の微分から、

E[X]=μ,Var(X)=2b2E[X]=\mu, \qquad \mathrm{Var}(X)=2b^2

です。正規分布より頂点が尖り、裾が厚いため、外れ値がやや多い左右対称な測定誤差の候補になります。

ロジスティック分布

分布関数を先に、

F(x)=11+exp{(xμ)/s}F(x)=\frac{1}{1+\exp\{-(x-\mu)/s\}}

と定義すると、微分して密度が得られます。

f(x)=F(x)=e(xμ)/ss{1+e(xμ)/s}2f(x) =F'(x) =\frac{e^{-(x-\mu)/s}} {s\{1+e^{-(x-\mu)/s}\}^2}

平均と分散は、

E[X]=μ,Var(X)=π2s23E[X]=\mu, \qquad \mathrm{Var}(X)=\frac{\pi^2s^2}{3}

です。正規分布と似た対称形ですが、裾が少し厚くなります。 二値反応のロジスティック回帰では応答変数自体がロジスティック分布になるわけではありませんが、潜在変数の誤差分布としてロジスティック分布を置くとロジットリンクが導かれます。

ロジスティック分布の積率母関数

t<1/s|t|<1/sMX(t)=eμtΓ(1st)Γ(1+st)M_X(t)=e^{\mu t}\Gamma(1-st)\Gamma(1+st) です。ガンマ関数の反射公式を使うと MX(t)=eμtπst/sin(πst)M_X(t)=e^{\mu t}\pi st/\sin(\pi st) とも書けます。

19. コーシー分布とパレート分布

コーシー分布

位置 x0x_0、尺度 γ>0\gamma>0 のコーシー分布は、

f(x)=1πγ11+{(xx0)/γ}2f(x) =\frac{1}{\pi\gamma} \frac{1}{1+\{(x-x_0)/\gamma\}^2}

です。分布関数は、

F(x)=12+1πarctan(xx0γ)F(x) =\frac12+\frac1\pi \arctan\left(\frac{x-x_0}{\gamma}\right)

です。

裾では f(x)f(x)1/x21/x^2 程度でしか減りません。そのため、

E[X]=xf(x)dxE[|X|] =\int_{-\infty}^{\infty}|x|f(x)\,dx

が発散し、平均は存在しません。分散も存在せず、積率母関数も存在しません。

一方、特性関数は、

ϕX(t)=exp(ix0tγt)\phi_X(t) =\exp(ix_0t-\gamma|t|)

です。t1t_1 分布が標準コーシー分布になることも重要です。

パレート分布

最小値 xm>0x_m>0、形状 α>0\alpha>0 として、

f(x)=αxmαxα+1(xxm)f(x) =\frac{\alpha x_m^\alpha}{x^{\alpha+1}} \qquad(x\geq x_m)

です。分布関数は、

F(x)=1(xmx)α(xxm)F(x)=1-\left(\frac{x_m}{x}\right)^\alpha \qquad(x\geq x_m)

です。rr 次積率を積分すると、

E[Xr]=αxmrαr(r<α)E[X^r] =\frac{\alpha x_m^r}{\alpha-r} \qquad(r<\alpha)

となります。したがって平均は α>1\alpha>1、分散は α>2\alpha>2 のときだけ存在します。 極端に大きい値が起こりうる分子クラスターサイズや、非常に不均一な頻度分布を考えるときの重い裾のモデルです。

20. 逆ガウス分布

逆ガウス分布は、ドリフトを伴うランダムな過程が初めて境界へ到達するまでの時間に現れます。 平均母数 μ>0\mu>0、形状母数 λ>0\lambda>0 として、

f(x)=(λ2πx3)1/2exp{λ(xμ)22μ2x}(x>0)f(x) =\left(\frac{\lambda}{2\pi x^3}\right)^{1/2} \exp\left\{-\frac{\lambda(x-\mu)^2}{2\mu^2x}\right\} \qquad(x>0)

です。

平均と分散は、

E[X]=μ,Var(X)=μ3λE[X]=\mu, \qquad \mathrm{Var}(X)=\frac{\mu^3}{\lambda}

です。積率母関数は、

MX(t)=exp[λμ{112μ2tλ}]M_X(t) =\exp\left[ \frac{\lambda}{\mu} \left\{1-\sqrt{1-\frac{2\mu^2t}{\lambda}}\right\} \right]

です。ただし t<λ/(2μ2)t<\lambda/(2\mu^2) です。

薬物がある作用部位の閾値へ初めて到達する時間、粒子や分子のドリフト付き移動時間を表す候補になります。 名称は似ていますが、「正規分布の逆数の分布」ではありません。

21. ポアソン二項分布とゼロ過剰分布

成功確率が異なる和:ポアソン二項分布

独立なベルヌーイ変数 XiBernoulli(pi)X_i\sim\mathrm{Bernoulli}(p_i) の成功確率が患者ごとに異なるとき、

X=i=1nXiX=\sum_{i=1}^nX_i

は一般には二項分布ではなく、ポアソン二項分布に従います。

確率母関数は独立性より、

GX(s)=i=1n(1pi+pis)G_X(s) =\prod_{i=1}^n(1-p_i+p_is)

です。したがって、

E[X]=i=1npiE[X]=\sum_{i=1}^np_i Var(X)=i=1npi(1pi)\mathrm{Var}(X) =\sum_{i=1}^np_i(1-p_i)

です。腎機能や遺伝型によって副作用リスクが異なる患者集団などに対応します。

ゼロが構造的に多い:ゼロ過剰ポアソン分布

確率 π\pi で「必ず0になる状態」、確率 1π1-\piPoisson(λ)\mathrm{Poisson}(\lambda) に従う状態を混ぜます。

P(X=0)=π+(1π)eλP(X=0) =\pi+(1-\pi)e^{-\lambda} P(X=x)=(1π)eλλxx!(x1)P(X=x) =(1-\pi)e^{-\lambda}\frac{\lambda^x}{x!} \qquad(x\geq1)

です。混合を表す指標 ZBernoulli(1π)Z\sim\mathrm{Bernoulli}(1-\pi) を用いて、X=ZYX=ZYYPoisson(λ)Y\sim\mathrm{Poisson}(\lambda) と考えると、

E[X]=E{E[XZ]}=(1π)λE[X] =E\{E[X\mid Z]\} =(1-\pi)\lambda

です。全分散の公式から、

Var(X)=(1π)λ+π(1π)λ2\mathrm{Var}(X) =(1-\pi)\lambda +\pi(1-\pi)\lambda^2

となります。感染が成立しなかったウェルと、成立後の菌数過程が混在する場合などが例です。

22. 多変量正規分布とディリクレ分布

多変量正規分布

pp 次元ベクトル X\mathbf X の平均ベクトルを μ\boldsymbol\mu、共分散行列を Σ\boldsymbol\Sigma とします。

XNp(μ,Σ)\mathbf X\sim N_p(\boldsymbol\mu,\boldsymbol\Sigma)

の密度は、

f(x)=1(2π)p/2Σ1/2exp[12(xμ)TΣ1(xμ)]f(\mathbf x) =\frac{1}{(2\pi)^{p/2}|\boldsymbol\Sigma|^{1/2}} \exp\left[ -\frac12(\mathbf x-\boldsymbol\mu)^\mathsf T \boldsymbol\Sigma^{-1} (\mathbf x-\boldsymbol\mu) \right]

です。

積率母関数は、

MX(t)=exp(tTμ+12tTΣt)M_{\mathbf X}(\mathbf t) =\exp\left( \mathbf t^\mathsf T\boldsymbol\mu +\frac12\mathbf t^\mathsf T \boldsymbol\Sigma\mathbf t \right)

です。任意の定数ベクトル a\mathbf a に対して、

aTXN(aTμ,aTΣa)\mathbf a^\mathsf T\mathbf X \sim N\left( \mathbf a^\mathsf T\boldsymbol\mu, \mathbf a^\mathsf T\boldsymbol\Sigma\mathbf a \right)

となります。複数バイオマーカー、複数時点のPK濃度、遺伝子発現の相関構造を同時に扱う入口です。

ディリクレ分布

kk 個の割合 P1,,PkP_1,\ldots,P_k が、

Pj>0,j=1kPj=1P_j>0, \qquad \sum_{j=1}^kP_j=1

を満たすときの多変量ベータ分布です。

f(p)=Γ(α0)j=1kΓ(αj)j=1kpjαj1f(\mathbf p) =\frac{\Gamma(\alpha_0)} {\prod_{j=1}^k\Gamma(\alpha_j)} \prod_{j=1}^kp_j^{\alpha_j-1}

ただし α0=jαj\alpha_0=\sum_j\alpha_j です。

E[Pj]=αjα0E[P_j]=\frac{\alpha_j}{\alpha_0} Var(Pj)=αj(α0αj)α02(α0+1)\mathrm{Var}(P_j) =\frac{\alpha_j(\alpha_0-\alpha_j)} {\alpha_0^2(\alpha_0+1)} Cov(Pi,Pj)=αiαjα02(α0+1)\mathrm{Cov}(P_i,P_j) =-\frac{\alpha_i\alpha_j} {\alpha_0^2(\alpha_0+1)}

です。多項分布の確率ベクトルに対する共役事前分布で、細胞型組成や副作用重症度の構成比を扱えます。

23. 順序統計量の分布

独立同分布な連続確率変数 X1,,XnX_1,\ldots,X_n を小さい順に、

X(1)X(n)X_{(1)}\leq\cdots\leq X_{(n)}

と並べます。

最大値 X(n)X_{(n)}xx 以下であることは、全データが xx 以下であることなので、独立性より、

P(X(n)x)={F(x)}nP(X_{(n)}\leq x) =\{F(x)\}^n

です。微分すると、

fX(n)(x)=n{F(x)}n1f(x)f_{X_{(n)}}(x) =n\{F(x)\}^{n-1}f(x)

です。

同様に最小値は、

P(X(1)>x)={1F(x)}nP(X_{(1)}>x) =\{1-F(x)\}^n

なので、

FX(1)(x)=1{1F(x)}nF_{X_{(1)}}(x) =1-\{1-F(x)\}^n

です。

一般の kk 番目について、

fX(k)(x)=n!(k1)!(nk)!{F(x)}k1{1F(x)}nkf(x)f_{X_{(k)}}(x) =\frac{n!}{(k-1)!(n-k)!} \{F(x)\}^{k-1} \{1-F(x)\}^{n-k}f(x)

となります。特に UiU(0,1)U_i\sim U(0,1) なら、

U(k)Beta(k,nk+1)U_{(k)}\sim\mathrm{Beta}(k,n-k+1)

です。最小発現濃度、最大毒性値、中央値、分位点の標本分布につながります。

24. 非心カイ二乗・非心t・非心F分布

帰無仮説の下ではカイ二乗、t、F分布が現れますが、真の効果が0でない対立仮説の下では 非心分布 が現れます。

例えば ZiN(μi,1)Z_i\sim N(\mu_i,1) が独立なら、

Q=i=1νZi2Q=\sum_{i=1}^{\nu}Z_i^2

は非心カイ二乗分布に従い、非心度は、

δ=i=1νμi2\delta=\sum_{i=1}^{\nu}\mu_i^2

です。

E[Q]=ν+δ,Var(Q)=2(ν+2δ)E[Q]=\nu+\delta, \qquad \mathrm{Var}(Q)=2(\nu+2\delta)

となります。

標準正規変数の分子に平均のずれがあると非心t分布、分散分析の群間効果が0でないと非心F分布になります。 検定力や必要標本数を計算するとき、棄却域は帰無分布で決め、対立仮説の下でその領域へ入る確率を非心分布で求めます。

分布のつながりを一枚の表で整理する

出発点操作・条件得られる分布
ベルヌーイ分布同じ pp で独立に nn 個足す二項分布
異なる成功確率のベルヌーイ分布独立に足すポアソン二項分布
多項分布1カテゴリだけを見る二項分布
超幾何分布母集団が十分大きく抽出率が小さい二項分布で近似
二項分布n,p0,np=λn\to\infty,p\to0,np=\lambdaポアソン分布
二項分布np,n(1p)np,n(1-p) が十分大きい正規分布で近似
ポアソン分布λ\lambda が大きい正規分布で近似
幾何分布rr 回目の成功まで拡張負の二項分布
ポアソン過程次の発生までの時間指数分布
指数分布同じ率で独立に rr 個足すガンマ分布
ガンマ分布α=1\alpha=1指数分布
ガンマ分布α=ν/2,θ=2\alpha=\nu/2,\theta=2カイ二乗分布
正規分布指数変換 X=eYX=e^Y対数正規分布
多変量正規分布線形結合 aTX\mathbf a^\mathsf T\mathbf X1変量正規分布
標準正規分布独立な平方を ν\nu 個足すカイ二乗分布
正規とカイ二乗Z/V/νZ/\sqrt{V/\nu}t分布
2つのカイ二乗自由度で割って比を取るF分布
t分布平方するF1,νF_{1,\nu} 分布
t分布自由度 ν=1\nu=1コーシー分布
ワイブル分布k=1k=1指数分布
一様分布の第kk順序統計量小さい順に並べるBeta(k,nk+1)\mathrm{Beta}(k,n-k+1)
同じ尺度を持つ独立なガンマ分布全体の和で割って比率化ディリクレ分布
カイ二乗・t・F分布対立仮説で効果が0でない対応する非心分布

正規近似と連続補正

XBin(n,p)X\sim\mathrm{Bin}(n,p) を、

YN{np,np(1p)}Y\sim N\{np,np(1-p)\}

で近似するとします。 離散値 XxX\leq x は、連続分布では区間の境界を半分広げて、

P(Xx)P(Yx+0.5)P(X\leq x) \approx P(Y\leq x+0.5)

とします。これが連続補正です。

同様に、

P(aXb)P(a0.5Yb+0.5)P(a\leq X\leq b) \approx P(a-0.5\leq Y\leq b+0.5)

です。

目安として二項分布では npnpn(1p)n(1-p) がともに5以上、より慎重には10以上かを確認します。 ただし、これは絶対的な境界ではなく、必要な精度や裾確率によって変わります。

薬学・バイオサイエンスで「何を学べるか」

データ候補となる分布主なパラメータパラメータから学べること仮定が崩れたサイン
副作用の有無ベルヌーイ・二項発現確率 ppリスク、群間差患者・施設で pp が大きく異なる
コロニー数ポアソン・負の二項発生率 λ\lambda平均密度、処理効果分散が平均よりかなり大きい
ヒットまでの試行数幾何・負の二項成功確率 ppスクリーニング効率試行ごとに pp が変わる
イベントまでの時間指数・ワイブルλ\lambda、形状 kk発生速度、時間依存ハザードハザードが一定でない
AUC・Cmax・IC50対数正規対数平均 μ\mu、対数SD σ\sigma幾何平均、個体間倍率対数化後も強い歪みや多峰性
奏効率の不確実性ベータα,β\alpha,\betaもっともらしい確率の範囲集団差、時期差が大きい
標本平均正規・tμ,σ\mu,\sigma、自由度平均効果と不確実性強い外れ値、依存、小標本の強い歪み
標本分散・分散比カイ二乗・Fσ2\sigma^2、自由度測定精度、群間と群内の変動母集団が強く非正規

ここで区別したいのが、観測値の分布統計量の標本分布 です。

例えば個々の血中濃度が対数正規分布でも、十分大きな標本から計算した平均値は中心極限定理により正規分布で近似できることがあります。 一方、少数例の平均を母分散未知で標準化すると tt 分布が現れます。

統計検定1級でよく問われるところ

1. 台を最初に書く

確率関数・密度関数だけでなく、確率変数が取りうる範囲を書きます。 ベータ分布は 0<x<10<x<1、ガンマ・カイ二乗・F分布は x>0x>0、二項分布は x=0,1,,nx=0,1,\ldots,n です。

2. 母数化を確認する

ガンマ分布の尺度と率、幾何分布が試行回数か失敗回数か、正規分布の第2母数が分散か標準偏差かを確認します。

3. 独立性と同じ母数を確認する

「和が同じ分布族になる」という再生性には、独立性に加えて、二項分布なら同じ pp、ガンマ分布なら同じ尺度、などの条件があります。

4. 無記憶性を区別する

離散型では幾何分布、連続型では指数分布が無記憶性を持ちます。 ポアソン分布そのものの性質と混同しないようにします。

5. 自由度を追う

標本分散では平均を推定した分だけ自由度が1減って n1n-1 です。 tt 分布、カイ二乗分布、F分布では、どの平方和から自由度が来たかを確認します。

6. モーメントが存在するとは限らない

コーシー分布では平均・分散が存在しません。 tνt_\nu 分布では平均は ν>1\nu>1、分散は ν>2\nu>2 のときに存在します。 積分が形式的に書けても、絶対収束しなければ期待値は定義できません。

7. 近似では補正と条件を書く

二項分布から正規分布への近似では連続補正を行います。 二項分布からポアソン分布への近似では、nn が大きく pp が小さく、npnp が適度な大きさであることを確認します。

8. 平均と分散だけで分布を決めない

ポアソン分布では平均と分散がともに λ\lambda ですが、「平均と分散が等しい」だけでポアソン分布と断定はできません。 値の範囲と発生過程も必要です。

演習問題

ここからは、一般的な問題と薬学・バイオサイエンスの問題を混ぜて解きます。 まず分布と台を書き、それから式を立てる癖をつけましょう。

問題1:分布を選ぶ

次の確率変数について、第一候補となる分布を答えてください。

  1. 独立な患者50人のうち、特定の副作用が出た人数
  2. 100本のチューブから非復元で10本を選んだとき、不良チューブが含まれる本数
  3. 一定面積の培地に生じたコロニー数
  4. 初めて陽性化合物が見つかるまでの試験回数
  5. 一定発生率の下で、次の有害事象報告までの時間
  6. 正規母集団から得た標本平均を、標本標準偏差で標準化した量

解答1

問い分布判断の中心
1二項分布独立な50回の二値試行における成功数
2超幾何分布有限母集団からの非復元抽出
3ポアソン分布一定領域内の発生回数
4幾何分布初成功までの試行回数
5指数分布一定率のポアソン過程における待ち時間
6tt分布母分散を標本分散で置き換えた標準化平均

ただし、どれも発生過程の仮定を確認する必要があります。 例えば問題3でコロニーが凝集して発生するなら独立発生とは考えにくく、ポアソン分布より負の二項分布が合うことがあります。

問題2:二項分布の基本計算

ある副作用が1人の患者に起こる確率を p=0.10p=0.10 とします。 患者20人を独立に観察し、副作用が出た人数を XX とします。

  1. XX の分布、平均、分散を求めてください。
  2. 副作用が2人以下に出る確率を求めてください。

解答2

20人について、同じ発現確率 0.100.10 の独立な二値試行を考えるので、

XBin(20,0.10)X\sim\mathrm{Bin}(20,0.10)

です。

平均は、

E[X]=np=20×0.10=2E[X]=np=20\times0.10=2

です。分散は、

Var(X)=np(1p)=20×0.10×0.90=1.8\mathrm{Var}(X) =np(1-p) =20\times0.10\times0.90 =1.8

です。

2人以下の確率は、

P(X2)=P(X=0)+P(X=1)+P(X=2)P(X\leq2)=P(X=0)+P(X=1)+P(X=2)

です。それぞれ、

P(X=0)=(200)(0.1)0(0.9)20=(0.9)200.1216P(X=0) =\binom{20}{0}(0.1)^0(0.9)^{20} =(0.9)^{20} \approx0.1216 P(X=1)=(201)(0.1)(0.9)19=20×0.1×(0.9)190.2702P(X=1) =\binom{20}{1}(0.1)(0.9)^{19} =20\times0.1\times(0.9)^{19} \approx0.2702 P(X=2)=(202)(0.1)2(0.9)18=190×0.01×(0.9)180.2852P(X=2) =\binom{20}{2}(0.1)^2(0.9)^{18} =190\times0.01\times(0.9)^{18} \approx0.2852

です。したがって、

P(X2)0.1216+0.2702+0.2852=0.6770P(X\leq2) \approx0.1216+0.2702+0.2852 =0.6770

となります。

問題3:二項分布の正規近似

XBin(200,0.30)X\sim\mathrm{Bin}(200,0.30)

とします。P(50X70)P(50\leq X\leq70) を、連続補正を用いて正規近似してください。

解答3

二項分布の平均と分散は、

μ=np=200×0.30=60\mu=np=200\times0.30=60 σ2=np(1p)=200×0.30×0.70=42\sigma^2=np(1-p) =200\times0.30\times0.70 =42

です。したがって、

σ=426.481\sigma=\sqrt{42}\approx6.481

です。

50X7050\leq X\leq70 に連続補正を行うと、

49.5Y70.549.5\leq Y\leq70.5

とします。ただし、YN(60,42)Y\sim N(60,42) です。

下側を標準化すると、

z1=49.560421.62z_1=\frac{49.5-60}{\sqrt{42}} \approx-1.62

上側は、

z2=70.560421.62z_2=\frac{70.5-60}{\sqrt{42}} \approx1.62

です。標準正規分布表より Φ(1.62)0.9474\Phi(1.62)\approx0.9474 なので、対称性を使って、

P(50X70)Φ(1.62)Φ(1.62)P(50\leq X\leq70) \approx\Phi(1.62)-\Phi(-1.62) =0.9474(10.9474)=0.8948=0.9474-(1-0.9474) =0.8948

となります。

問題4:ポアソン分布と少なくとも1回

ある培養条件で、1視野当たりのコロニー数 XX が平均2.5のポアソン分布に従うとします。

  1. コロニーが少なくとも1個見える確率を求めてください。
  2. 2個以下である確率を求めてください。

解答4

XPoisson(2.5)X\sim\mathrm{Poisson}(2.5)

です。

「少なくとも1個」は、0個でない事象なので、余事象を使います。

P(X1)=1P(X=0)P(X\geq1) =1-P(X=0) =1e2.52.500!=1e2.50.9179=1-e^{-2.5}\frac{2.5^0}{0!} =1-e^{-2.5} \approx0.9179

です。

2個以下の確率は、

P(X2)=e2.5(1+2.5+2.522)P(X\leq2) =e^{-2.5}(1+2.5+\frac{2.5^2}{2})

です。括弧内は、

1+2.5+6.252=6.6251+2.5+\frac{6.25}{2}=6.625

なので、

P(X2)=6.625e2.50.5438P(X\leq2) =6.625e^{-2.5} \approx0.5438

です。

問題5:まれな副作用のポアソン近似

ある副作用の発現確率は1人当たり 0.0020.002 です。 1000人中の発現人数 XX について、誰にも発現しない確率をポアソン近似で求めてください。

解答5

厳密には、

XBin(1000,0.002)X\sim\mathrm{Bin}(1000,0.002)

です。nn が大きく pp が小さいので、

λ=np=1000×0.002=2\lambda=np=1000\times0.002=2

としたポアソン分布で近似します。

XPoisson(2)X\approx\mathrm{Poisson}(2)

したがって、

P(X=0)e2200!=e20.1353P(X=0) \approx e^{-2}\frac{2^0}{0!} =e^{-2} \approx0.1353

です。

厳密値は、

(10.002)1000=0.99810000.1351(1-0.002)^{1000}=0.998^{1000}\approx0.1351

であり、よく近似できています。

問題6:超幾何分布

30本の試料のうち6本が陽性です。ここから5本を非復元で無作為抽出します。 少なくとも1本の陽性試料が含まれる確率を求めてください。

解答6

全体 N=30N=30、陽性 K=6K=6、抽出数 n=5n=5 です。 陽性試料数 XX は超幾何分布に従います。

少なくとも1本を直接足すより、陽性が0本である余事象を使います。

P(X1)=1P(X=0)P(X\geq1)=1-P(X=0)

0本が陽性ということは、陰性24本から5本すべてを選ぶことなので、

P(X=0)=(60)(245)(305)=(245)(305)P(X=0) =\frac{\binom60\binom{24}{5}}{\binom{30}{5}} =\frac{\binom{24}{5}}{\binom{30}{5}}

です。

(245)=42504,(305)=142506\binom{24}{5}=42504, \qquad \binom{30}{5}=142506

より、

P(X1)=1425041425060.7017P(X\geq1) =1-\frac{42504}{142506} \approx0.7017

です。

問題7:幾何分布と無記憶性

1回の化合物スクリーニングで目的活性が見つかる確率を p=0.08p=0.08 とします。 各試行は独立で、成功確率は一定とします。

  1. 初成功までの平均試行回数を求めてください。
  2. 10回試しても見つからない確率を求めてください。
  3. すでに5回失敗したという条件の下で、さらに10回失敗する確率を求めてください。

解答7

初成功までの試行回数を XX とすると、

XGeo(0.08)X\sim\mathrm{Geo}(0.08)

です。

平均は、

E[X]=1p=10.08=12.5E[X]=\frac{1}{p}=\frac{1}{0.08}=12.5

回です。

10回試しても見つからないことは X>10X>10 なので、

P(X>10)=(1p)10=0.92100.4344P(X>10) =(1-p)^{10} =0.92^{10} \approx0.4344

です。

3つ目は、すでに5回失敗し、合計15回まで失敗する条件付き確率です。

P(X>15X>5)P(X>15\mid X>5)

幾何分布の無記憶性より、

P(X>15X>5)=P(X>10)=0.92100.4344P(X>15\mid X>5) =P(X>10) =0.92^{10} \approx0.4344

です。過去5回の失敗は、成功確率が一定というモデルの下では、今後の成功確率を変えません。

問題8:多項分布とカテゴリ間の共分散

遺伝子型 AA,Aa,aaAA,Aa,aa の確率が、それぞれ 0.25,0.50,0.250.25,0.50,0.25 である集団から、独立に10個体を観察します。

  1. AAAA が2個体、AaAa が5個体、aaaa が3個体となる確率を求めてください。
  2. AAAA の個体数 XAAX_{AA}AaAa の個体数 XAaX_{Aa} の共分散を求めてください。

解答8

個体数ベクトルは、

(XAA,XAa,Xaa)Multinomial(10;0.25,0.50,0.25)(X_{AA},X_{Aa},X_{aa}) \sim\mathrm{Multinomial}(10;0.25,0.50,0.25)

です。したがって、

P(2,5,3)=10!2!5!3!(0.25)2(0.50)5(0.25)3P(2,5,3) =\frac{10!}{2!5!3!} (0.25)^2(0.50)^5(0.25)^3

です。

10!2!5!3!=2520\frac{10!}{2!5!3!}=2520

なので、

P(2,5,3)=2520(0.25)5(0.50)50.0769P(2,5,3) =2520(0.25)^5(0.50)^5 \approx0.0769

です。

異なるカテゴリ間の共分散は、

Cov(Xi,Xj)=npipj\mathrm{Cov}(X_i,X_j)=-np_ip_j

なので、

Cov(XAA,XAa)=10×0.25×0.50=1.25\mathrm{Cov}(X_{AA},X_{Aa}) =-10\times0.25\times0.50 =-1.25

です。合計10個体という制約のため、カテゴリ個数は負に相関します。

問題9:指数分布と待ち時間

ある有害事象報告までの待ち時間 TT が、1時間当たりの率 λ=0.2\lambda=0.2 の指数分布に従うとします。

  1. 5時間を超えて報告がない確率を求めてください。
  2. 3時間報告がなかったという条件の下で、合計8時間を超えて報告がない確率を求めてください。
  3. 待ち時間の中央値を求めてください。

解答9

指数分布の生存関数は、

P(T>t)=eλtP(T>t)=e^{-\lambda t}

です。したがって、

P(T>5)=e0.2×5=e10.3679P(T>5) =e^{-0.2\times5} =e^{-1} \approx0.3679

です。

無記憶性より、

P(T>8T>3)=P(T>5)0.3679P(T>8\mid T>3) =P(T>5) \approx0.3679

です。

中央値 mm は、半分の確率で mm を超える値なので、

P(T>m)=0.5P(T>m)=0.5

とおけます。

e0.2m=0.5e^{-0.2m}=0.5

両辺の自然対数を取ると、

0.2m=log0.5=log2-0.2m=\log0.5=-\log2

よって、

m=log20.23.466m=\frac{\log2}{0.2} \approx3.466

時間です。

問題10:ポアソン過程とガンマ分布

イベントが1時間当たり λ=0.5\lambda=0.5 のポアソン過程に従って発生します。 3回目のイベントまでの待ち時間を TT とします。

  1. TT の分布、平均、分散を求めてください。
  2. 4時間以内に3回目のイベントが起こる確率を求めてください。

解答10

1回ごとの待ち時間は率 0.50.5 の指数分布です。 3回目までの待ち時間は独立な指数待ち時間3個の和なので、形状3、率0.5のガンマ分布です。

尺度で書けば、

θ=1λ=2\theta=\frac{1}{\lambda}=2

なので、

TGamma(3,2)T\sim\mathrm{Gamma}(3,2)

です。

E[T]=αθ=3×2=6E[T]=\alpha\theta=3\times2=6 Var(T)=αθ2=3×22=12\mathrm{Var}(T)=\alpha\theta^2=3\times2^2=12

です。

4時間以内に3回目が起こることは、4時間以内のイベント数 N(4)N(4) が3以上であることと同じです。

N(4)Poisson(0.5×4)=Poisson(2)N(4)\sim\mathrm{Poisson}(0.5\times4) =\mathrm{Poisson}(2)

したがって、

P(T4)=P{N(4)3}P(T\leq4) =P\{N(4)\geq3\} =1P{N(4)2}=1-P\{N(4)\leq2\} =1e2(1+2+222!)=1-e^{-2}\left( 1+2+\frac{2^2}{2!} \right) =15e20.3233=1-5e^{-2} \approx0.3233

です。待ち時間の問題を発生回数の問題に読み替える関係は頻出です。

問題11:正規分布による分析値の評価

ある分析法による測定値 XX は、平均100、標準偏差4の正規分布に従うとします。 測定値が95以上108以下になる確率を求めてください。

解答11

XN(100,42)X\sim N(100,4^2)

です。下限95を標準化すると、

z1=951004=1.25z_1=\frac{95-100}{4}=-1.25

上限108は、

z2=1081004=2z_2=\frac{108-100}{4}=2

です。したがって、

P(95X108)=P(1.25Z2)P(95\leq X\leq108) =P(-1.25\leq Z\leq2) =Φ(2)Φ(1.25)=\Phi(2)-\Phi(-1.25)

です。標準正規分布表より、

Φ(2)0.9772,Φ(1.25)0.1056\Phi(2)\approx0.9772, \qquad \Phi(-1.25)\approx0.1056

なので、

P(95X108)0.8716P(95\leq X\leq108) \approx0.8716

となります。

問題12:対数正規分布と薬物動態量

薬物動態量 XX について、

logXN(log20,0.32)\log X\sim N(\log20,0.3^2)

とします。対数は自然対数です。

  1. XX の中央値と平均を求めてください。
  2. P(X>30)P(X>30) を求めてください。

解答12

対数正規分布の中央値は、

Median(X)=eμ\mathrm{Median}(X)=e^\mu

なので、

Median(X)=elog20=20\mathrm{Median}(X)=e^{\log20}=20

です。

平均は、

E[X]=eμ+σ2/2E[X]=e^{\mu+\sigma^2/2}

なので、

E[X]=elog20+0.32/2=20e0.04520.92E[X] =e^{\log20+0.3^2/2} =20e^{0.045} \approx20.92

です。右に歪んでいるため、平均は中央値より大きくなります。

次に、

P(X>30)=P(logX>log30)P(X>30) =P(\log X>\log30)

です。標準化すると、

P(X>30)=P(Z>log30log200.3)P(X>30) =P\left( Z>\frac{\log30-\log20}{0.3} \right) =P(Z>log1.50.3)=P\left( Z>\frac{\log1.5}{0.3} \right) log1.50.31.352\frac{\log1.5}{0.3}\approx1.352

より、

P(X>30)1Φ(1.352)0.088P(X>30) \approx1-\Phi(1.352) \approx0.088

です。

問題13:ベータ事前分布と副作用率

未知の副作用発現確率 pp の事前分布を、

pBeta(2,8)p\sim\mathrm{Beta}(2,8)

とします。新たに20人を観察したところ、6人に副作用が出ました。

  1. pp の事後分布を求めてください。
  2. 事後平均を求めてください。
  3. 次の1人に副作用が出る事後予測確率を求めてください。

解答13

ベータ事前分布と二項尤度の共役性より、成功数6を α\alpha に、失敗数14を β\beta に加えます。

pxBeta(2+6,8+14)p\mid x \sim\mathrm{Beta}(2+6,8+14)

したがって、

pxBeta(8,22)p\mid x\sim\mathrm{Beta}(8,22)

です。

事後平均は、

E[px]=88+22=8300.2667E[p\mid x] =\frac{8}{8+22} =\frac{8}{30} \approx0.2667

です。

次の1人の副作用指標を YY とすると、pp が与えられた下では、

P(Y=1p)=pP(Y=1\mid p)=p

です。全期待値の公式より、

P(Y=1x)=E{P(Y=1p,x)x}=E[px]P(Y=1\mid x) =E\{P(Y=1\mid p,x)\mid x\} =E[p\mid x]

なので、事後予測確率も、

P(Y=1x)0.2667P(Y=1\mid x)\approx0.2667

です。

事前平均 2/(2+8)=0.202/(2+8)=0.20 と、データだけの割合 6/20=0.306/20=0.30 の間に入っていることも確認できます。

問題14:ワイブル分布と時間依存ハザード

ある製剤が規格外となるまでの時間 TT が、形状 k=2k=2、尺度 η=100\eta=100 日のワイブル分布に従うとします。

  1. 80日を超えて規格内である確率を求めてください。
  2. 50日目と100日目のハザードを求め、比較してください。

解答14

ワイブル分布の生存関数は、

S(t)=exp{(tη)k}S(t)=\exp\left\{-\left(\frac{t}{\eta}\right)^k\right\}

です。したがって、

P(T>80)=exp{(80100)2}=e0.640.5273P(T>80) =\exp\left\{-\left(\frac{80}{100}\right)^2\right\} =e^{-0.64} \approx0.5273

です。

ハザードは、

h(t)=kη(tη)k1h(t)=\frac{k}{\eta}\left(\frac{t}{\eta}\right)^{k-1}

なので、

h(50)=2100(50100)=0.01h(50) =\frac{2}{100}\left(\frac{50}{100}\right) =0.01 h(100)=2100(100100)=0.02h(100) =\frac{2}{100}\left(\frac{100}{100}\right) =0.02

です。k=2>1k=2>1 なので、規格外となる瞬間的なリスクは時間とともに増加します。 100日目のハザードは50日目の2倍です。

問題15:正規標本から生じる分布

X1,,X9X_1,\ldots,X_9 を、平均 μ\mu、分散 σ2\sigma^2 の正規母集団からの無作為標本とします。

  1. (8S2)/σ2(8S^2)/\sigma^2 は何分布に従いますか。
  2. (Xˉμ)/(S/3)(\bar X-\mu)/(S/3) は何分布に従いますか。
  3. 実現値が S2=4S^2=4、母分散が σ2=2\sigma^2=2 のとき、1の統計量の値を求めてください。

解答15

標本サイズは n=9n=9 なので、標本分散に対応する自由度は、

n1=8n-1=8

です。したがって、

(n1)S2σ2=8S2σ2χ82\frac{(n-1)S^2}{\sigma^2} =\frac{8S^2}{\sigma^2} \sim\chi^2_8

です。

また、

n=9=3\sqrt n=\sqrt9=3

なので、

XˉμS/3=XˉμS/nt8\frac{\bar X-\mu}{S/3} =\frac{\bar X-\mu}{S/\sqrt n} \sim t_8

です。

実現値を代入すると、

8S2σ2=8×42=16\frac{8S^2}{\sigma^2} =\frac{8\times4}{2} =16

です。

同じ標本から標本平均と標本分散を作っていますが、正規標本では Xˉ\bar XS2S^2 が独立になることが、tt 分布の導出で重要です。

問題16:t分布とF分布の関係

Tt12T\sim t_{12}

とします。

  1. T2T^2 の分布を答えてください。
  2. 両側検定の棄却条件が T>2.179|T|>2.179 であるとき、T2T^2 を使った同値な棄却条件を書いてください。

解答16

tt 分布の定義から、

T=ZV/12T=\frac{Z}{\sqrt{V/12}}

ただし、ZN(0,1)Z\sim N(0,1)Vχ122V\sim\chi^2_{12} で独立です。 平方すると、

T2=Z2/1V/12T^2=\frac{Z^2/1}{V/12}

です。Z2χ12Z^2\sim\chi^2_1 なので、

T2F1,12T^2\sim F_{1,12}

です。

また、

T>2.179|T|>2.179

の両辺を平方すると、

T2>(2.179)2T^2>(2.179)^2

です。

(2.179)24.748(2.179)^2\approx4.748

なので、同値な棄却条件は、

F>4.748,F=T2F1,12F>4.748, \qquad F=T^2\sim F_{1,12}

です。2群の平均差を調べる tt 検定と、1自由度の効果を調べる FF 検定が対応する理由です。

問題17:密度関数の正規化とガンマ分布

f(x)=cxex(x>0)f(x)=cxe^{-x}\qquad(x>0)

が確率密度関数となるように定数 cc を決め、E[X]E[X]Var(X)\mathrm{Var}(X) を求めてください。

解答17

密度関数の全積分は1なので、

0cxexdx=1\int_0^\infty cxe^{-x}\,dx=1

です。ガンマ関数を使うと、

0xexdx=Γ(2)=1!=1\int_0^\infty xe^{-x}\,dx =\Gamma(2) =1!=1

なので、

c=1c=1

です。

期待値は、

E[X]=0xxexdx=0x2exdx=Γ(3)=2!=2E[X] =\int_0^\infty x\cdot xe^{-x}\,dx =\int_0^\infty x^2e^{-x}\,dx =\Gamma(3) =2!=2

です。

次に、

E[X2]=0x2xexdx=0x3exdx=Γ(4)=3!=6E[X^2] =\int_0^\infty x^2\cdot xe^{-x}\,dx =\int_0^\infty x^3e^{-x}\,dx =\Gamma(4) =3!=6

です。したがって、

Var(X)=E[X2]{E[X]}2=622=2\mathrm{Var}(X) =E[X^2]-\{E[X]\}^2 =6-2^2 =2

です。

この密度は、

XGamma(2,1)X\sim\mathrm{Gamma}(2,1)

の密度でもあります。公式 E[X]=αθE[X]=\alpha\thetaVar(X)=αθ2\mathrm{Var}(X)=\alpha\theta^2 とも一致します。

問題18:一様分布から指数分布を作る

UU(0,1)U\sim U(0,1)

とし、λ>0\lambda>0 に対して、

X=1λlogUX=-\frac{1}{\lambda}\log U

とおきます。XX の分布関数を導き、分布を特定してください。

解答18

0<U<10<U<1 なので、logU<0\log U<0 です。したがって X>0X>0 です。

x>0x>0 に対して、

FX(x)=P(Xx)F_X(x)=P(X\leq x)

を求めます。

P(1λlogUx)P\left(-\frac{1}{\lambda}\log U\leq x\right)

両辺に正の数 λ\lambda を掛けると、

P(logUλx)P(-\log U\leq\lambda x)

です。両辺に 1-1 を掛けると不等号が逆向きになり、

P(logUλx)P(\log U\geq-\lambda x)

です。指数関数は単調増加なので、

P(Ueλx)P(U\geq e^{-\lambda x})

となります。UU(0,1)(0,1) 上の一様分布なので、

P(Uu)=1uP(U\geq u)=1-u

です。よって、

FX(x)=1eλx(x>0)F_X(x)=1-e^{-\lambda x} \qquad(x>0)

となります。これは率 λ\lambda の指数分布の分布関数です。

XExp(λ)X\sim\mathrm{Exp}(\lambda)

です。この方法を逆関数法といい、一様乱数からさまざまな分布の乱数を作る基本になります。

問題19:過分散からモデルを考える

多数の培養ウェルでコロニー数を数えたところ、標本平均は4、標本分散は12でした。

  1. ポアソン分布を第一候補としたとき、どの点が気になりますか。
  2. 負の二項分布の平均と分散を、
E[X]=μ,Var(X)=μ+μ2rE[X]=\mu, \qquad \mathrm{Var}(X)=\mu+\frac{\mu^2}{r}

と表すとします。μ=4\mu=4、分散12に合う rr を求めてください。

解答19

ポアソン分布では、

E[X]=Var(X)=λE[X]=\mathrm{Var}(X)=\lambda

です。しかしデータでは、

平均=4,分散=12\text{平均}=4, \qquad \text{分散}=12

であり、分散が平均の3倍です。 これは過分散のサインです。

考えられる原因には、ウェル間の細胞密度差、バッチ差、コロニーの凝集、観測されない異質性などがあります。

負の二項分布の分散式に代入すると、

12=4+42r12=4+\frac{4^2}{r}

です。したがって、

8=16r8=\frac{16}{r}

両辺に rr を掛けて8で割ると、

r=2r=2

です。

ただし、標本平均と標本分散だけでモデルを確定はできません。 ヒストグラム、ゼロの個数、外れた大カウント、実験デザインを合わせて確認します。

問題20:分布の関係を言葉で説明する

次の空欄を埋め、その関係を1文で説明してください。

  1. 独立なベルヌーイ分布を nn 個足すと(   )分布になる。
  2. 二項分布で n,p0,np=λn\to\infty,p\to0,np=\lambda とすると(   )分布に近づく。
  3. 独立な標準正規分布の平方を ν\nu 個足すと(   )分布になる。
  4. 自由度 ν\nutt 分布を平方すると(   )分布になる。
  5. ガンマ分布で形状母数を1にすると(   )分布になる。

解答20

  1. 二項分布。各ベルヌーイ変数が1なら成功、0なら失敗なので、和は成功回数になります。
  2. ポアソン分布。多数回の試行における、一定の平均回数を持つまれな成功の極限です。
  3. 自由度 ν\nu のカイ二乗分布。自由度は独立な平方項の個数に対応します。
  4. F1,νF_{1,\nu} 分布tt 分布の分子にある標準正規変数を平方すると、自由度1のカイ二乗分布になります。
  5. 指数分布。ガンマ分布は複数回目までの待ち時間を表し、形状1は最初の1回までの待ち時間です。

問題21:確率母関数から分布を復元する

非負整数値確率変数 XX の確率母関数が、

GX(s)=exp{3(s1)}G_X(s)=\exp\{3(s-1)\}

で与えられています。

  1. XX の確率関数を求め、分布を特定してください。
  2. E[X]E[X]Var(X)\mathrm{Var}(X) を求めてください。

解答21

まず、

GX(s)=e3e3sG_X(s)=e^{-3}e^{3s}

と分けます。指数関数の展開から、

e3s=x=0(3s)xx!e^{3s}=\sum_{x=0}^{\infty}\frac{(3s)^x}{x!}

なので、

GX(s)=x=0(e33xx!)sxG_X(s) =\sum_{x=0}^{\infty} \left(e^{-3}\frac{3^x}{x!}\right)s^x

です。sxs^x の係数が P(X=x)P(X=x) なので、

P(X=x)=e33xx!P(X=x)=e^{-3}\frac{3^x}{x!}

です。したがって、

XPoisson(3)X\sim\mathrm{Poisson}(3)

です。

母関数を微分すると、

GX(s)=3e3(s1)G_X'(s)=3e^{3(s-1)}

より、

E[X]=GX(1)=3E[X]=G_X'(1)=3

です。また、

GX(s)=9e3(s1)G_X''(s)=9e^{3(s-1)}

なので、

E[X(X1)]=GX(1)=9E[X(X-1)]=G_X''(1)=9

です。したがって、

E[X2]=9+3=12E[X^2]=9+3=12 Var(X)=1232=3\mathrm{Var}(X)=12-3^2=3

です。

問題22:積率母関数からガンマ分布の平均と分散を導く

MX(t)=(12t)3M_X(t)=(1-2t)^{-3}

とします。XX の分布を特定し、平均と分散を求めてください。

解答22

形状 α\alpha、尺度 θ\theta のガンマ分布の積率母関数は、

MX(t)=(1θt)αM_X(t)=(1-\theta t)^{-\alpha}

です。比較すると、

α=3,θ=2\alpha=3, \qquad \theta=2

なので、

XGamma(3,2)X\sim\mathrm{Gamma}(3,2)

です。

1回微分すると、

MX(t)=6(12t)4M_X'(t)=6(1-2t)^{-4}

なので、

E[X]=MX(0)=6E[X]=M_X'(0)=6

です。2回微分すると、

MX(t)=48(12t)5M_X''(t)=48(1-2t)^{-5}

より、

E[X2]=MX(0)=48E[X^2]=M_X''(0)=48

です。したがって、

Var(X)=4862=12\mathrm{Var}(X)=48-6^2=12

です。公式 αθ=6\alpha\theta=6αθ2=12\alpha\theta^2=12 と一致します。

問題23:最大反応値の分布

X1,,X5X_1,\ldots,X_5 が独立に U(0,1)U(0,1) に従うとします。 最大値 M=max(X1,,X5)M=\max(X_1,\ldots,X_5) の分布関数、密度関数、期待値を求めてください。

解答23

0<m<10<m<1 に対して、最大値が mm 以下であることは、5個すべてが mm 以下であることです。

FM(m)=P(X1m,,X5m)F_M(m) =P(X_1\leq m,\ldots,X_5\leq m)

独立性と P(Xim)=mP(X_i\leq m)=m より、

FM(m)=m5F_M(m)=m^5

です。したがって、

FM(m)={0(m0)m5(0<m<1)1(m1)F_M(m)= \begin{cases} 0 & (m\leq0)\\ m^5 & (0<m<1)\\ 1 & (m\geq1) \end{cases}

です。微分すると、

fM(m)=5m4(0<m<1)f_M(m)=5m^4 \qquad(0<m<1)

です。これは Beta(5,1)\mathrm{Beta}(5,1) の密度です。期待値は、

E[M]=55+1=56E[M]=\frac{5}{5+1}=\frac56

です。

問題24:ゼロ過剰ポアソン分布

確率 π=0.4\pi=0.4 で構造的に0となり、それ以外では平均 λ=3\lambda=3 のポアソン分布に従うとします。

  1. P(X=0)P(X=0) を求めてください。
  2. E[X]E[X]Var(X)\mathrm{Var}(X) を求めてください。

解答24

0は「構造的な0」と「ポアソン分布から生じる0」の2経路で起こります。

P(X=0)=0.4+0.6e30.4299P(X=0) =0.4+0.6e^{-3} \approx0.4299

です。

平均は、

E[X]=(1π)λ=0.6×3=1.8E[X]=(1-\pi)\lambda =0.6\times3 =1.8

です。分散は、

Var(X)=(1π)λ+π(1π)λ2\mathrm{Var}(X) =(1-\pi)\lambda +\pi(1-\pi)\lambda^2

に代入して、

Var(X)=0.6×3+0.4×0.6×32\mathrm{Var}(X) =0.6\times3 +0.4\times0.6\times3^2 =1.8+2.16=3.96=1.8+2.16 =3.96

です。平均1.8より分散3.96が大きく、ゼロ過剰が過分散を生むことが分かります。

問題25:多変量正規分布の線形結合

(X1X2)N2((1020),(4339))\begin{pmatrix}X_1\\X_2\end{pmatrix} \sim N_2\left( \begin{pmatrix}10\\20\end{pmatrix}, \begin{pmatrix}4&3\\3&9\end{pmatrix} \right)

とします。Y=X1+2X2Y=X_1+2X_2 の分布を求めてください。

解答25

a=(12)\mathbf a= \begin{pmatrix}1\\2\end{pmatrix}

とすると、Y=aTXY=\mathbf a^\mathsf T\mathbf X です。

平均は、

E[Y]=1×10+2×20=50E[Y] =1\times10+2\times20 =50

です。分散は、

Var(Y)=aTΣa\mathrm{Var}(Y) =\mathbf a^\mathsf T \boldsymbol\Sigma\mathbf a

です。成分で計算すると、

Var(Y)=12×4+22×9+2×1×2×3\mathrm{Var}(Y) =1^2\times4 +2^2\times9 +2\times1\times2\times3 =4+36+12=52=4+36+12 =52

です。したがって、

YN(50,52)Y\sim N(50,52)

です。共分散3を無視すると分散を40と誤るため、相関したバイオマーカーの合成では共分散項が重要です。

問題26:非心カイ二乗分布

独立な、

Z1N(1,1),Z2N(2,1),Z3N(0,1)Z_1\sim N(1,1), \qquad Z_2\sim N(2,1), \qquad Z_3\sim N(0,1)

に対し、Q=Z12+Z22+Z32Q=Z_1^2+Z_2^2+Z_3^2 とします。 QQ の自由度、非心度、平均、分散を求めてください。

解答26

独立な正規変数の平方を3個足しているので、自由度は、

ν=3\nu=3

です。非心度は平均の平方和なので、

δ=12+22+02=5\delta=1^2+2^2+0^2=5

です。したがって、QQ は自由度3、非心度5の非心カイ二乗分布に従います。

E[Q]=ν+δ=3+5=8E[Q]=\nu+\delta=3+5=8 Var(Q)=2(ν+2δ)=2(3+10)=26\mathrm{Var}(Q) =2(\nu+2\delta) =2(3+10) =26

です。

まとめ

この章では、代表的な確率分布を、データ型と発生過程から整理しました。

  • 二値データの出発点はベルヌーイ分布、その和が二項分布
  • 非復元抽出では超幾何分布、複数カテゴリでは多項分布
  • まれな発生回数にはポアソン分布、初成功までの回数には幾何分布
  • ポアソン過程の待ち時間が指数分布、待ち時間の和がガンマ分布
  • 0から1の割合の不確実性にはベータ分布
  • 加法的な誤差や標本平均には正規分布、乗法的な正の量には対数正規分布
  • 標本分散からカイ二乗分布、平均の標準化からt分布、分散比からF分布が生じる
  • 生存時間のハザードが時間で変わるとき、ワイブル分布が柔軟に表現する
  • 外れ値や重い裾にはラプラス、コーシー、パレート分布など、正規分布とは異なる選択肢がある
  • 患者ごとに成功確率が異なる場合はポアソン二項、ゼロが構造的に多い場合はゼロ過剰モデルを考える
  • 複数の測定値や割合を同時に扱うとき、多変量正規分布やディリクレ分布へ拡張できる
  • 検定力を考える対立仮説の下では、非心カイ二乗・非心t・非心F分布が現れる

分布を選ぶときは、値の範囲だけでなく、独立性、反復方法、発生率の一定性、復元・非復元、時間依存性を確認します。

最終的に学びたいのは分布名ではありません。 副作用の起こりやすさ、コロニーの発生率、薬物動態量の個体差、製剤の劣化リスク、標本平均や分散の不確実性です。 確率分布は、観測した情報を研究上の量と判断へつなぐためのモデルです。