この章で扱うこと

統計学では、データを「偶然に得られた値」として扱います。 その偶然を数学的に表すための道具が確率です。

この章では、次の流れで確率を整理します。

  • 標本空間と事象
  • 確率の公理
  • 確率の基本公式
  • 条件付き確率
  • 独立性
  • ベイズの定理
  • 確率変数と分布

統計検定1級では、確率を「なんとなく起こりやすい割合」ではなく、集合に対して定義された関数として理解することが重要です。

まずは「全体」と「注目する一部」だけ考える

最初から難しい記号を覚える必要はありません。 例えば、同じ条件で10個のウェルを観察し、そのうち3個で目的の反応が見られたとします。

  • 考えている結果の全体が標本空間 Ω\Omega
  • 「目的の反応が見られる」という注目部分が事象 AA
  • 全ウェルを同程度に扱える単純なモデルなら、その割合は P(A)=3/10P(A)=3/10

という順に整理します。 確率の式は、まず「何を全体とし、その中のどこを数えているか」を書き直すと読みやすくなります。

記号最初の読み方
Ω\Omega起こりうる結果の全体
AA注目している出来事
AcA^cAA が起こらない
ABA\cap BAABB が両方起こる
ABA\cup BAA または BB が少なくとも一方起こる
P(A)P(A)AA が起こる確率
初めて読むときの順番

1周目は「標本空間と事象」「集合の基本操作」「条件付き確率」「ベイズの定理」を優先してください。劣加法性やBonferroniの不等式は、基本公式が読めるようになってから戻れば大丈夫です。

標本空間と事象

偶然に起こりうるすべての結果を集めた集合を 標本空間 といい、Ω\Omega と書きます。 標本空間の部分集合を 事象 といいます。

例えば、サイコロを1回振る場合、

Ω={1,2,3,4,5,6}\Omega=\{1,2,3,4,5,6\}

です。

偶数が出る事象を AA とすると、

A={2,4,6}A=\{2,4,6\}

と書けます。

このように、事象は「文章で表された出来事」を集合として表したものです。

薬学や生命科学では、標本空間と事象を次のように置き換えると考えやすくなります。

場面標本空間 Ω\Omega事象の例
細胞実験測定された全ウェルの反応A=A=「細胞生存率が 80%80\% 以上」
酵素阻害試験試験した全化合物の結果B=B=「阻害率が 50%50\% 以上」
副作用調査観察した全患者の転帰C=C=「眠気が出た」
AI創薬の予測モデルが評価した全候補化合物D=D=「活性ありと予測された」

ここで大事なのは、確率を学ぶと「何が起こったか」を数えるだけでなく、そこから研究上の判断に進めることです。 例えば、細胞生存率のデータからは「この濃度は安全そうか」、服薬アドヒアランスと血中濃度のデータからは「介入が必要そうか」、AI創薬モデルのスコアからは「どの化合物を次に実験するか」を考えられます。

実験情報から事象、確率、研究判断へ進む流れを示した模式図
確率は、実験・臨床・AI予測から得た情報を、事象、確率、研究判断へ変換するための言語です。

例えば、化合物スクリーニングで

A={活性がある化合物},B={細胞毒性が低い化合物}A=\{\text{活性がある化合物}\},\quad B=\{\text{細胞毒性が低い化合物}\}

とおくと、

ABA\cap B

は「活性があり、かつ細胞毒性が低い化合物」を表します。 これは創薬の初期探索で本当に欲しい候補集合です。 つまり、集合の記号は抽象的に見えますが、実際には「どの候補を残すか」「どの条件を危険とみなすか」を明確にする道具です。

集合の基本操作

2つの事象 A,BA,B に対して、よく使う集合の操作は次の3つです。

まず、和集合です。

ABA\cup B

これは「AA または BB が起こる」ことを表します。

次に、共通部分です。

ABA\cap B

これは「AABB が同時に起こる」ことを表します。

最後に、補集合です。

AcA^c

これは「AA が起こらない」ことを表します。

例えば、サイコロで

A={2,4,6},B={4,5,6}A=\{2,4,6\},\quad B=\{4,5,6\}

なら、

AB={4,6}A\cap B=\{4,6\}

です。

集合 A と集合 B の和集合、共通部分、補集合のイメージ A B 共通 左の円: A 右の円: B 重なり: A∩B
Venn 図で見る和集合と共通部分。確率の加法公式では、重なり A∩B を二重に数えないことが重要です。

確率の公理

確率 PP は、事象 AA に対して数 P(A)P(A) を対応させる関数です。

P:F[0,1]P:\mathcal{F}\to [0,1]

ここで F\mathcal{F} は、確率を考える対象となる事象の集まりです。 統計検定1級では、Ω\OmegaF\mathcal{F}PP をまとめて

(Ω,F,P)(\Omega,\mathcal{F},P)

と書き、これを 確率空間 と呼ぶことを押さえておくとよいです。

確率は次の3つの性質を満たします。

1つ目は、確率は負にならないことです。

P(A)0P(A)\geq 0

2つ目は、全体の確率が 1 であることです。

P(Ω)=1P(\Omega)=1

3つ目は、互いに重ならない事象は確率を足せることです。 事象 A1,A2,A_1,A_2,\dots が互いに排反、つまり

AiAj=(ij)A_i\cap A_j=\emptyset \quad (i\neq j)

であるなら、

P(i=1Ai)=i=1P(Ai)P\left(\bigcup_{i=1}^{\infty}A_i\right) = \sum_{i=1}^{\infty}P(A_i)

が成り立ちます。

この3つが確率の出発点です。

確率の基本公式

確率の公理から、よく使う公式が導かれます。

まず、補集合の確率は、

P(Ac)=1P(A)P(A^c)=1-P(A)

です。

また、2つの事象 A,BA,B について、

P(AB)=P(A)+P(B)P(AB)P(A\cup B)=P(A)+P(B)-P(A\cap B)

が成り立ちます。

P(A)+P(B)P(A)+P(B) と足すだけでは、AABB の両方に含まれる部分を二重に数えてしまいます。 そのため、重なりである P(AB)P(A\cap B) を一度引きます。

特に AABB が排反なら、

AB=A\cap B=\emptyset

なので、

P(AB)=P(A)+P(B)P(A\cup B)=P(A)+P(B)

となります。

劣加法性と Bonferroni の不等式

事象が重なっているかどうか分からないときでも、和集合の確率には上からの評価があります。 2つの事象 A,BA,B について、

P(AB)P(A)+P(B)P(A\cup B)\leq P(A)+P(B)

が成り立ちます。 これを 劣加法性 といいます。

理由は、正確には

P(AB)=P(A)+P(B)P(AB)P(A\cup B)=P(A)+P(B)-P(A\cap B)

であり、

P(AB)0P(A\cap B)\geq 0

だからです。

一般に、事象 A1,,AnA_1,\dots,A_n について、

P(i=1nAi)i=1nP(Ai)P\left(\bigcup_{i=1}^{n}A_i\right) \leq \sum_{i=1}^{n}P(A_i)

が成り立ちます。 これは、複数の「失敗」や「副作用」のうち少なくとも1つが起こる確率を、簡単に上から押さえるときに使えます。

一方、共通部分の確率を下から評価する不等式も重要です。 2つの事象について、

P(AB)=1P(AcBc)P(A\cap B) = 1-P(A^c\cup B^c)

です。 劣加法性より、

P(AcBc)P(Ac)+P(Bc)P(A^c\cup B^c)\leq P(A^c)+P(B^c)

なので、

P(AB)1P(Ac)P(Bc)P(A\cap B)\geq 1-P(A^c)-P(B^c)

となります。 これを Bonferroni の不等式 といいます。

同じ式は、

P(AB)P(A)+P(B)1P(A\cap B)\geq P(A)+P(B)-1

とも書けます。

例えば、ある薬で「有効である」確率が 0.80.8、「重い副作用が出ない」確率が 0.90.9 だとします。 この2つが独立かどうか分からなくても、

P(有効重い副作用なし)0.8+0.91=0.7P(\text{有効}\cap \text{重い副作用なし}) \geq 0.8+0.9-1 =0.7

と下から評価できます。 独立性を仮定しなくても言える、という点が大事です。

Bonferroni の不等式のイメージ 有効 安全 両方 下限: P(A∩B) ≥ P(A)+P(B)-1
Bonferroni の不等式は、独立性が不明でも「両方起こる確率」を下から評価できます。

条件付き確率

条件付き確率は、「BB が起きたと分かっているときに、AA が起こる確率」です。

P(AB)=P(AB)P(B)P(A\mid B)=\frac{P(A\cap B)}{P(B)}

ただし、

P(B)>0P(B)>0

とします。

この式は、標本空間を Ω\Omega から BB に狭めて考えている、と見ると理解しやすいです。 つまり、条件 BB の中で AA も起こっている部分の割合を見ています。

式を変形すると、

P(AB)=P(AB)P(B)P(A\cap B)=P(A\mid B)P(B)

となります。 これは積の公式と呼ばれます。

同様に、

P(AB)=P(BA)P(A)P(A\cap B)=P(B\mid A)P(A)

も成り立ちます。

条件付き確率のイメージ 全体 Ω B A∩B 分子 条件付き確率 = B の中で A∩B が占める割合 P(A|B) = P(A∩B) / P(B)
条件付き確率では、見ている全体を Ω ではなく B に狭めます。

独立性

事象 AABB が独立であるとは、BB が起きたことを知っても AA の確率が変わらないことです。

P(AB)=P(A)P(A\mid B)=P(A)

これを積の公式に代入すると、

P(AB)=P(A)P(B)P(A\cap B)=P(A)P(B)

となります。

統計では、独立性はとても重要です。 例えば、独立な確率変数 X1,,XnX_1,\dots,X_n を仮定すると、標本平均や分散の性質をきれいに計算できます。

ただし、「排反」と「独立」は別物です。 排反は同時に起こらないこと、独立は一方の情報がもう一方の確率を変えないことです。

薬学では、独立性を安易に仮定しないことが大切です。 例えば、

A={服薬アドヒアランスが良い},T={血中濃度が治療域に入る}A=\{\text{服薬アドヒアランスが良い}\},\quad T=\{\text{血中濃度が治療域に入る}\}

とすると、ふつう AATT は独立ではありません。 服薬できているという情報は、血中濃度が治療域に入る確率を変えるからです。

一方で、実験デザイン上は「独立に近い」とみなしたい場面もあります。 例えば、同じプレート上の隣り合うウェルでは位置効果が出ることがあるため、ウェルをランダム化して処理群を割り付けます。 これは、測定値どうしの不要な依存を減らすための工夫です。

全確率の公式

事象 B1,,BkB_1,\dots,B_k が標本空間 Ω\Omega を重ならずに分けているとします。 つまり、

BiBj=(ij)B_i\cap B_j=\emptyset \quad (i\neq j)

かつ、

i=1kBi=Ω\bigcup_{i=1}^{k}B_i=\Omega

であるとします。

このとき、任意の事象 AA について、

P(A)=i=1kP(ABi)P(Bi)P(A)=\sum_{i=1}^{k}P(A\mid B_i)P(B_i)

が成り立ちます。

これは、AA が起こる確率を、場合分けして足し合わせる公式です。

全確率の公式の分割イメージ B1 B2 B3 A A を B1, B2, B3 の中に分けて足す
全確率の公式は、標本空間を B1, B2, B3 に分割してから A の確率を足し合わせる考え方です。

ベイズの定理

ベイズの定理は、条件付き確率の向きを入れ替える公式です。

P(BjA)=P(ABj)P(Bj)i=1kP(ABi)P(Bi)P(B_j\mid A) = \frac{P(A\mid B_j)P(B_j)} {\sum_{i=1}^{k}P(A\mid B_i)P(B_i)}

分子は「BjB_j が原因で AA が起こる確率の重み」です。 分母は、すべての場合を足し合わせた AA の確率です。

検査の例なら、AA を「検査陽性」、BjB_j を「病気である」と考えると、

P(病気陽性)P(\text{病気}\mid \text{陽性})

のような確率を計算できます。

ここで大事なのは、検査が陽性になる確率と、陽性だった人が本当に病気である確率は違うという点です。

確率変数

確率変数とは、標本空間の結果を数値に変換する関数です。

X:ΩRX:\Omega\to\mathbb{R}

例えば、サイコロの出た目をそのまま数値にするなら、

X(1)=1,X(2)=2,,X(6)=6X(1)=1,\quad X(2)=2,\quad \dots,\quad X(6)=6

です。

確率変数を使うと、

P(X3)P(X\leq 3)

のように、数値の範囲で確率を表せます。

サイコロなら、

P(X3)=P({1,2,3})=36=12P(X\leq 3)=P(\{1,2,3\})=\frac{3}{6}=\frac{1}{2}

です。

分布関数

確率変数 XX に対して、

F(x)=P(Xx)F(x)=P(X\leq x)

で定義される関数を 分布関数 といいます。

分布関数は、xx 以下の値をとる確率を表します。 離散型でも連続型でも使える、確率変数の基本的な表現です。

分布関数は次の性質をもちます。

0F(x)10\leq F(x)\leq 1 xyF(x)F(y)x\leq y \Rightarrow F(x)\leq F(y)

また、

limxF(x)=0,limxF(x)=1\lim_{x\to -\infty}F(x)=0,\quad \lim_{x\to \infty}F(x)=1

です。

情報科学・機械学習との接続

情報科学では、0と1、正常と異常、活性ありとなしのような状態を扱います。 これは第一章の「事象」を、コンピュータで扱えるラベルへ置き換えたものです。

確率の言葉情報科学・機械学習での読み替え薬学・生命科学の例
事象 AA予測したいクラス化合物が活性を示す
P(A)P(A)予測前のクラス頻度、事前確率スクリーニング全体のヒット率
P(AX=x)P(A\mid X=x)特徴量を見た後の予測確率構造記述子を見た後の活性確率
独立性2つの情報が互いに追加情報を持たない2つの測定誤差が独立か
全確率の公式複数の経路・群を足して全体を求める施設別リスクから全患者のリスクを求める
ベイズの定理観測後にクラス確率を更新する陽性判定後の真の毒性確率

混同行列は同時確率表である

二値分類器では、真のラベル YY と予測ラベル Y^\widehat Y の組を数えます。

予測陽性 Y^=1\widehat Y=1予測陰性 Y^=0\widehat Y=0
真に陽性 Y=1Y=1真陽性 TP偽陰性 FN
真に陰性 Y=0Y=0偽陽性 FP真陰性 TN

これは (Y,Y^)(Y,\widehat Y) の同時確率表を、標本中の個数で表したものです。 感度、特異度、適合率は条件付き確率として読めます。

「混同行列」を単変量へ読み替える

ここでの行列は計算を行う変換行列ではなく、4種類の個数を2行2列に整理した表です。 単変量なら、正解か不正解かを1列の0/1で記録し、その合計を数えることに当たります。2変量では「真のラベル」と「予測ラベル」を同時に見るため、行と列が必要になります。

  1. 行で真の状態を固定する。
  2. 列で予測結果を固定する。
  3. 条件付き確率では、条件として固定した行または列の合計を分母にする。
Sensitivity=P(Y^=1Y=1)=TPTP+FN\mathrm{Sensitivity} =P(\widehat Y=1\mid Y=1) =\frac{TP}{TP+FN} Specificity=P(Y^=0Y=0)=TNTN+FP\mathrm{Specificity} =P(\widehat Y=0\mid Y=0) =\frac{TN}{TN+FP} Precision=P(Y=1Y^=1)=TPTP+FP\mathrm{Precision} =P(Y=1\mid \widehat Y=1) =\frac{TP}{TP+FP}

感度と適合率では、条件に置いている事象が逆です。 毒性予測や疾患スクリーニングでは、陽性例が少ないと、感度と特異度が高くても適合率が低くなることがあります。これはベイズの定理と同じ基準率の問題です。

Naive Bayesは条件付き独立を仮定する

クラスを CC、特徴量を X1,,XpX_1,\ldots,X_p とします。 Naive Bayes分類器では、クラスを固定したときに特徴量が条件付き独立だと仮定し、

P(CX1=x1,,Xp=xp)P(C)j=1pP(Xj=xjC)P(C\mid X_1=x_1,\ldots,X_p=x_p) \propto P(C)\prod_{j=1}^pP(X_j=x_j\mid C)

と計算します。 多次元の同時確率を1次元の積へ分けられるため計算は軽くなりますが、遺伝子発現量や分子記述子には強い相関があるため、仮定は現実には近似です。

「独立」と「条件付き独立」は別です。

全体では相関していても、クラスを固定すると独立になる場合があります。逆に、クラスを固定しても相関が残るならNaive Bayesの積への分解は厳密には成り立ちません。

AIの出力確率は校正されているか

分類モデルが0.8を出したとき、それを「80%の確率」と呼ぶには校正が必要です。 予測値が0.8付近の標本を多数集めたとき、実際に約80%が陽性なら校正が良いといえます。

モデルの順位付け能力と確率の正しさは異なります。

  • 識別:陽性例を陰性例より高く順位付けできるか
  • 校正:出力した確率と実際の頻度が一致するか

深層学習のsigmoidやsoftmaxの出力も、数値が0から1に収まるだけで、自動的に信頼できる確率になるわけではありません。学習集団と実運用集団で陽性率が変わる場合は、事前確率の変化も考える必要があります。

数理統計問題

試験答案として解くとき

問題文は変えず、総合問題集の模範解答版では各問を「試験での指示 → 方針 → 定義・定理 → 計算 → 結論 → 答案での注意」の順に整理しています。

  1. 事象を記号で置き、求める確率を最初に明記する。
  2. 全確率・条件付き確率・独立性のどれを使うかを書く。
  3. 分母と条件、最後の確率の意味を確認して結論を書く。

ここでは、応用文脈に依存しない確率の標準問題をまとめます。条件付き確率、独立性、全確率、ベイズの定理を、事象と仮定から組み立てる練習です。

問題1:0,1 の送信と受信

0 または 1 を送信する通信を考えます。 送信される値は 0 のほうが多く、次の確率で選ばれるとします。

P(X=0)=0.7,P(X=1)=0.3P(X=0)=0.7,\quad P(X=1)=0.3

受信では、0 を 1 と誤る確率が 0.050.05、1 を 0 と誤る確率が 0.100.10 だとします。

P(Y=1X=0)=0.05,P(Y=0X=1)=0.10P(Y=1\mid X=0)=0.05,\quad P(Y=0\mid X=1)=0.10

このとき、受信値が 1 である確率 P(Y=1)P(Y=1) を求めます。 また、受信値が 1 だったとき、本当に 1 が送られていた確率 P(X=1Y=1)P(X=1\mid Y=1) を求めます。

送信値受信値が 0受信値が 1
X=00.950.05
X=10.100.90

解答

全確率の公式より、

P(Y=1)=P(Y=1X=0)P(X=0)+P(Y=1X=1)P(X=1)P(Y=1) = P(Y=1\mid X=0)P(X=0) + P(Y=1\mid X=1)P(X=1)

です。 ここで、

P(Y=1X=0)=0.05,P(Y=1X=1)=0.90P(Y=1\mid X=0)=0.05,\quad P(Y=1\mid X=1)=0.90

なので、

P(Y=1)=0.050.7+(0.90)0.3=0.035+0.270=0.305P(Y=1) = 0.05\cdot 0.7 + (0.90)\cdot 0.3 = 0.035+0.270 =0.305

です。

次に、ベイズの定理より、

P(X=1Y=1)=P(Y=1X=1)P(X=1)P(Y=1)P(X=1\mid Y=1) = \frac{P(Y=1\mid X=1)P(X=1)}{P(Y=1)}

です。 したがって、

P(X=1Y=1)=0.900.30.305=0.2700.3050.885P(X=1\mid Y=1) = \frac{0.90\cdot 0.3}{0.305} = \frac{0.270}{0.305} \approx 0.885

となります。 受信値が 1 だったとき、本当に 1 が送られていた確率は約 88.5%88.5\% です。 送信前には 1 が送られる確率は 30%30\% でしたが、受信値 1 という情報を得ると確率が大きく更新されます。

問題2:和集合と共通部分

2つの事象 A,BA,B について、

P(A)=0.45,P(B)=0.30,P(AB)=0.12P(A)=0.45,\quad P(B)=0.30,\quad P(A\cap B)=0.12

とします。 次を求めてください。

  1. P(AB)P(A\cup B)
  2. P(AcB)P(A^c\cap B)
  3. P(AB)P(A\mid B)

解答

まず、和集合の公式を使います。

P(AB)=P(A)+P(B)P(AB)P(A\cup B)=P(A)+P(B)-P(A\cap B)

なので、

P(AB)=0.45+0.300.12=0.63P(A\cup B)=0.45+0.30-0.12=0.63

です。

次に、AcBA^c\cap B は「BB は起こるが AA は起こらない」部分です。 BB は、

B=(AB)(AcB)B=(A\cap B)\cup(A^c\cap B)

と分けられ、この2つは排反です。 したがって、

P(B)=P(AB)+P(AcB)P(B)=P(A\cap B)+P(A^c\cap B)

です。 よって、

P(AcB)=P(B)P(AB)=0.300.12=0.18P(A^c\cap B)=P(B)-P(A\cap B)=0.30-0.12=0.18

となります。

最後に条件付き確率です。

P(AB)=P(AB)P(B)P(A\mid B)=\frac{P(A\cap B)}{P(B)}

なので、

P(AB)=0.120.30=0.40P(A\mid B)=\frac{0.12}{0.30}=0.40

です。

問題3:独立性の判定

2つの事象 A,BA,B について、

P(A)=0.6,P(B)=0.5,P(AB)=0.3P(A)=0.6,\quad P(B)=0.5,\quad P(A\cap B)=0.3

とします。 AABB は独立ですか。

解答

独立であるための条件は、

P(AB)=P(A)P(B)P(A\cap B)=P(A)P(B)

です。 右辺を計算すると、

P(A)P(B)=0.6×0.5=0.3P(A)P(B)=0.6\times 0.5=0.3

です。 これは与えられた

P(AB)=0.3P(A\cap B)=0.3

と一致します。 したがって、AABB は独立です。

同じことは条件付き確率でも確認できます。

P(AB)=P(AB)P(B)=0.30.5=0.6P(A\mid B)=\frac{P(A\cap B)}{P(B)} =\frac{0.3}{0.5} =0.6

であり、

P(AB)=P(A)P(A\mid B)=P(A)

なので、やはり独立です。

問題4:全確率の公式

事象 B1,B2,B3B_1,B_2,B_3 が標本空間を排反に分割しているとします。

P(B1)=0.2,P(B2)=0.5,P(B3)=0.3P(B_1)=0.2,\quad P(B_2)=0.5,\quad P(B_3)=0.3

また、事象 AA について、

P(AB1)=0.1,P(AB2)=0.4,P(AB3)=0.7P(A\mid B_1)=0.1,\quad P(A\mid B_2)=0.4,\quad P(A\mid B_3)=0.7

とします。 P(A)P(A) を求めてください。

解答

全確率の公式より、

P(A)=i=13P(ABi)P(Bi)P(A)=\sum_{i=1}^{3}P(A\mid B_i)P(B_i)

です。 それぞれ代入すると、

P(A)=0.10.2+0.40.5+0.70.3P(A) =0.1\cdot 0.2+0.4\cdot 0.5+0.7\cdot 0.3

です。 計算すると、

P(A)=0.02+0.20+0.21=0.43P(A)=0.02+0.20+0.21=0.43

となります。

問題5:ベイズの定理

事象 B1,B2B_1,B_2 が標本空間を排反に分割しており、

P(B1)=0.7,P(B2)=0.3P(B_1)=0.7,\quad P(B_2)=0.3

とします。 また、

P(AB1)=0.2,P(AB2)=0.6P(A\mid B_1)=0.2,\quad P(A\mid B_2)=0.6

です。 AA が起こったとき、それが B2B_2 側から来た確率 P(B2A)P(B_2\mid A) を求めてください。

解答

まず、分母となる P(A)P(A) を全確率の公式で求めます。

P(A)=P(AB1)P(B1)+P(AB2)P(B2)P(A)=P(A\mid B_1)P(B_1)+P(A\mid B_2)P(B_2)

なので、

P(A)=0.20.7+0.60.3=0.14+0.18=0.32P(A)=0.2\cdot 0.7+0.6\cdot 0.3=0.14+0.18=0.32

です。 ベイズの定理より、

P(B2A)=P(AB2)P(B2)P(A)P(B_2\mid A) = \frac{P(A\mid B_2)P(B_2)}{P(A)}

です。 したがって、

P(B2A)=0.60.30.32=0.180.32=0.5625P(B_2\mid A) = \frac{0.6\cdot 0.3}{0.32} = \frac{0.18}{0.32} =0.5625

となります。

応用統計問題(医薬・生命科学)

試験答案として解くとき

検査・安全性の問題も、総合問題集の模範解答版で全問を実戦形式にしています。陽性的中率などでは、疾患あり・なしと検査陽性・陰性を混同しないことが最優先です。

ここでは、検査、薬効・安全性、服薬アドヒアランス、創薬スクリーニングを題材に、得られた情報から確率を更新して解釈します。

問題1:病気と検査

ある病気の有病率を 1%1\% とします。 病気である事象を DD、検査陽性である事象を ++ とします。

P(D)=0.01P(D)=0.01

検査の感度を 95%95\% とします。 感度とは、病気の人を陽性と判定する確率です。

P(+D)=0.95P(+\mid D)=0.95

検査の特異度を 90%90\% とします。 特異度とは、病気でない人を陰性と判定する確率です。

P(Dc)=0.90P(-\mid D^c)=0.90

したがって、病気でない人が陽性になる確率は、

P(+Dc)=0.10P(+\mid D^c)=0.10

です。 検査で陽性だった人が本当に病気である確率を求めます。

状態確率陽性になる確率全体に占める陽性
病気 D0.010.950.0095
病気でない D^c0.990.100.099
合計10.1085

解答

求めたいのは、

P(D+)P(D\mid +)

です。 ベイズの定理より、

P(D+)=P(+D)P(D)P(+D)P(D)+P(+Dc)P(Dc)P(D\mid +) = \frac{P(+\mid D)P(D)} {P(+\mid D)P(D)+P(+\mid D^c)P(D^c)}

です。 数値を代入すると、

P(D+)=0.95×0.010.95×0.01+0.10×0.99P(D\mid +) = \frac{0.95\times 0.01} {0.95\times 0.01+0.10\times 0.99}

分子は、

0.95×0.01=0.00950.95\times 0.01=0.0095

分母は、

0.0095+0.099=0.10850.0095+0.099=0.1085

なので、

P(D+)=0.00950.10850.0876P(D\mid +)=\frac{0.0095}{0.1085}\approx 0.0876

です。 つまり、検査が陽性でも、本当に病気である確率は約 8.8%8.8\% です。 有病率が低い病気では、偽陽性の影響が大きくなります。

問題2:薬と治療効果は独立か

ある臨床試験で、薬を投与された事象を AA、治療効果があった事象を EE とします。 次の確率が分かっているとします。

P(A)=0.5,P(E)=0.4,P(EA)=0.6P(A)=0.5,\quad P(E)=0.4,\quad P(E\mid A)=0.6

薬の投与と治療効果は独立かどうかを、分割表を作って判定します。

解答

まず、薬を投与され、かつ治療効果があった確率を求めます。

P(AE)=P(EA)P(A)=0.6×0.5=0.3P(A\cap E)=P(E\mid A)P(A)=0.6\times 0.5=0.3

次に、治療効果があった全体の確率は P(E)=0.4P(E)=0.4 なので、薬を投与されていないが治療効果があった確率は、

P(AcE)=P(E)P(AE)=0.40.3=0.1P(A^c\cap E)=P(E)-P(A\cap E)=0.4-0.3=0.1

です。 また、P(A)=0.5P(A)=0.5 なので、

P(AEc)=P(A)P(AE)=0.50.3=0.2P(A\cap E^c)=P(A)-P(A\cap E)=0.5-0.3=0.2

です。 残りは、

P(AcEc)=10.30.10.2=0.4P(A^c\cap E^c)=1-0.3-0.1-0.2=0.4

です。 したがって、分割表は次のようになります。

効果あり E効果なし E^c合計
投与あり A0.30.20.5
投与なし A^c0.10.40.5
合計0.40.61

独立なら、

P(AE)=P(A)P(E)P(A\cap E)=P(A)P(E)

が成り立ちます。 しかし、

P(A)P(E)=0.5×0.4=0.2P(A)P(E)=0.5\times 0.4=0.2

である一方、分割表より、

P(AE)=0.3P(A\cap E)=0.3

です。 一致しないので、薬の投与と治療効果は独立ではありません。

同じことは条件付き確率でも確認できます。

P(EA)=0.6,P(E)=0.4P(E\mid A)=0.6,\quad P(E)=0.4

なので、

P(EA)P(E)P(E\mid A)\neq P(E)

です。

問題3:副作用の上限

ある薬について、眠気が出る事象を AA、吐き気が出る事象を BB とします。

P(A)=0.12,P(B)=0.08P(A)=0.12,\quad P(B)=0.08

このとき、眠気または吐き気の少なくとも一方が出る確率の上限を求めます。

解答

劣加法性より、

P(AB)P(A)+P(B)P(A\cup B)\leq P(A)+P(B)

です。 したがって、

P(AB)0.12+0.08=0.20P(A\cup B)\leq 0.12+0.08=0.20

です。 眠気または吐き気の少なくとも一方が出る確率は、高くても 20%20\% と評価できます。 この評価では、眠気と吐き気が独立かどうかを仮定していません。

問題4:有効かつ安全である確率

ある治療で、有効である事象を AA、重い副作用が出ない事象を BB とします。

P(A)=0.75,P(B)=0.92P(A)=0.75,\quad P(B)=0.92

このとき、「有効であり、かつ重い副作用が出ない」確率の下限を求めます。

解答

Bonferroni の不等式より、

P(AB)P(A)+P(B)1P(A\cap B)\geq P(A)+P(B)-1

です。 したがって、

P(AB)0.75+0.921=0.67P(A\cap B)\geq 0.75+0.92-1=0.67

です。 つまり、有効であり、かつ重い副作用が出ない確率は、少なくとも 67%67\% と評価できます。 ここでも、薬効と副作用の有無が独立であるとは仮定していません。

問題5:服薬アドヒアランスと血中濃度

患者が指示通り服薬している事象を AA、血中濃度が治療域に入る事象を TT とします。 次の確率が分かっているとします。

P(A)=0.8,P(TA)=0.9,P(TAc)=0.3P(A)=0.8,\quad P(T\mid A)=0.9,\quad P(T\mid A^c)=0.3

血中濃度が治療域に入る確率 P(T)P(T) を求めます。

解答

AAAcA^c で場合分けして、全確率の公式を使います。

P(T)=P(TA)P(A)+P(TAc)P(Ac)P(T)=P(T\mid A)P(A)+P(T\mid A^c)P(A^c)

です。 ここで、

P(Ac)=1P(A)=0.2P(A^c)=1-P(A)=0.2

なので、

P(T)=0.9×0.8+0.3×0.2P(T)=0.9\times 0.8+0.3\times 0.2

です。 したがって、

P(T)=0.72+0.06=0.78P(T)=0.72+0.06=0.78

となります。 血中濃度が治療域に入る確率は 78%78\% です。

この例では、服薬アドヒアランスによって血中濃度の分布が変わるため、AATT は一般には独立ではありません。

問題6:AI創薬モデルの陽性的中率

候補化合物の中で、実際に標的タンパク質に強く結合する化合物の割合を 5%5\% とします。 実際に強く結合する事象を AA、AIモデルが「有望」と判定する事象を ++ とします。

P(A)=0.05P(A)=0.05

モデルの感度、つまり実際に強く結合する化合物を有望と判定する確率を 80%80\% とします。

P(+A)=0.80P(+\mid A)=0.80

一方、実際には強く結合しない化合物を誤って有望と判定する確率を 15%15\% とします。

P(+Ac)=0.15P(+\mid A^c)=0.15

モデルが有望と判定した化合物が、実際に強く結合する確率 P(A+)P(A\mid +) を求めます。

AI創薬スクリーニングで事前確率が陽性判定後の事後確率に更新される模式図
AIモデルの陽性判定は、真のヒット率を 5% から約 21.9% に濃縮する情報として解釈できます。

解答

ベイズの定理を使います。

P(A+)=P(+A)P(A)P(+A)P(A)+P(+Ac)P(Ac)P(A\mid +) = \frac{P(+\mid A)P(A)} {P(+\mid A)P(A)+P(+\mid A^c)P(A^c)}

です。 まず、

P(Ac)=1P(A)=0.95P(A^c)=1-P(A)=0.95

です。 分子は、

P(+A)P(A)=0.80×0.05=0.040P(+\mid A)P(A)=0.80\times 0.05=0.040

です。 分母は、

0.80×0.05+0.15×0.95=0.040+0.1425=0.18250.80\times 0.05+0.15\times 0.95 =0.040+0.1425 =0.1825

です。 したがって、

P(A+)=0.0400.18250.219P(A\mid +) = \frac{0.040}{0.1825} \approx 0.219

となります。 有望と判定された化合物でも、実際に強く結合する確率は約 21.9%21.9\% です。

これは低く見えるかもしれませんが、ランダムに選ぶと 5%5\% なので、モデルにより候補化合物はかなり濃縮されています。 創薬スクリーニングでは、「当たる確率そのもの」だけでなく、「ベースラインからどれだけ濃縮できたか」も重要です。

まとめ

確率は、事象に数を対応させる関数です。 その土台は、標本空間、事象、確率測度からなる確率空間

(Ω,F,P)(\Omega,\mathcal{F},P)

です。

条件付き確率、独立性、ベイズの定理は、すべてこの確率空間の上で定義されます。 さらに、確率変数を使うことで、偶然の結果を数値データとして扱えるようになります。

この考え方が、期待値、分散、標本平均、推定、検定へつながります。