この章で目指すこと
推定は「もっともらしい母数を数で表す」作業でした。統計的仮説検定は、「ある主張をひとまず基準として置いたとき、今のデータはその主張と両立するか」を定量的に調べる仕組みです。
重要なのは、検定が「仮説が真だと証明する」方法ではないことです。帰無仮説が正しいと仮定した場合に、観測結果以上に極端な結果がどれほど起こりにくいかを測り、あらかじめ決めた規則で判断します。
| 研究で得られた情報 | 知りたい問い | 代表的な検定 | 何を判断するか |
|---|
| 連続測定値、既知の分散 | 平均は基準値と異なるか | Z検定 | 標準化平均との差 |
| 連続測定値、未知の分散 | 平均は基準値と異なるか | t検定 | 標本平均と標本分散 |
| 2群のばらつき | 分散は等しいか | F検定 | 分散比 |
| 分類・頻度表 | 観測度数はモデルと合うか | カイ二乗適合度検定 | 観測度数と期待度数のずれ |
| 二値の結果 | 母比率や2群の割合に差があるか | 二項・比率の検定 | 成功数と標本数 |
| 2つのカテゴリ変数 | 2変数は独立か | カイ二乗・Fisher検定 | クロス表のずれ |
| 同じ対象を2回測定 | 判定が変化したか | McNemar検定 | 不一致対の差 |
| 発生数と観察時間 | 発生率が異なるか | Poisson率の検定 | 人時間あたりの発生数 |
| 疫学デザインと2×2表 | 要因と結果の関連をどう表すか | OR・RR・RD・Mantel–Haenszel | 研究デザインに合った効果指標 |
| 小さい発生数・基準集団 | 標準集団より多いか | 正確Poisson・SMR | 期待発生数との比較 |
| 順序カテゴリの2群 | 分布の位置がずれているか | Wilcoxon順位和検定 | 順位の偏り |
| 一般の統計モデル | 制約付きモデルで十分か | 尤度比・Wald・スコア | 推定値、尤度、局所勾配 |
初めて読むときの順番最初は 1〜4 節で、帰無仮説・対立仮説・有意水準・p値と、Z/t/F検定の使い分けを身に付けます。次に 5〜7 節で尤度比・Wald・スコア、カイ二乗検定、検出力を学びます。9節では、割合・率・2×2表に加えて、OR・RR・RD、研究デザイン、マッチング、SMR、Wilcoxon順位和を、実際の医薬データに近い形で練習します。Neyman–Pearson補題、一様最強力検定、不偏検定の一般論は最後に進んでください。
この章を通す小さな例
ある化合物を投与した細胞の生存率(%)を n=16 ウェルで測定し、標本平均 Xˉ=74.0、不偏標準偏差 S=8.0 を得たとします。基準条件の平均生存率は 70% とします。
「この化合物は生存率を変えるか」という問いを、まず両側の仮説
H0:μ=70,H1:μ=70
として書きます。母分散は未知なので、後で
T=S/nXˉ−70=8/474−70=2.00
という t 統計量を使います。この例を通じて、「どの量を標準化するか」「片側・両側で何が変わるか」「p値をどう報告するか」を確認します。
仮説を置くH0 と H1、片側・両側
標準化する →
検定統計量Z、t、F、尤度比、カイ二乗
確率へ戻す →
有意水準・p値第1種過誤と判断規則
設計へ戻す →
検出力第2種過誤、効果量、標本数
1. 仮説検定の言葉を整理する
1.1 帰無仮説と対立仮説
帰無仮説 H0 は、比較の基準となる仮説です。「差がない」「効果がない」「既存モデルからずれていない」という形に置くことが多く、等号を含みます。対立仮説 H1 は、研究上検出したいずれを表します。
| 研究上の問い | 帰無仮説 H0 | 対立仮説 H1 | 検定 |
|---|
| 平均が基準と異なるか | μ=μ0 | μ=μ0 | 両側検定 |
| 平均が基準より高いか | μ≤μ0 | μ>μ0 | 右片側検定 |
| 平均が基準より低いか | μ≥μ0 | μ<μ0 | 左片側検定 |
片側か両側かは、データを見る前に研究目的から決めます。「有意になった方向だけ片側にする」のは、第1種過誤を大きくするため不適切です。
1.2 検定方式、棄却域、検定統計量
標本 X=(X1,…,Xn) を受け取ったとき、帰無仮説を棄却するかを 0 または 1 で返す規則を
φ(X)={10H0 を棄却するH0 を棄却しない
と書き、検定方式と呼びます。φ(X)=1 となる標本値の集合が棄却域です。
実際には、データを1つの数にまとめた検定統計量 T(X) を作り、T が大きい、小さい、または絶対値が大きいときに棄却します。
| 対立仮説 | 極端な値 | 棄却域の典型 |
|---|
| H1:μ>μ0 | T が大きい | T>c |
| H1:μ<μ0 | T が小さい | T<c |
| H1:μ=μ0 | $ | T |
1.3 第1種過誤、第2種過誤、有意水準
帰無仮説が正しいのに棄却する誤りが第1種過誤、対立仮説が正しいのに棄却しない誤りが第2種過誤です。
α=PH0(H0 を棄却),β(θ)=Pθ(H0 を棄却しない)(θ∈Θ1).
有意水準 α は、第1種過誤を許す上限として実験前に決めます。通常の 0.05 は「5%の確率で誤って棄却してよい」という意味ではなく、同じ規則を何度も使ったときの誤棄却率を5%以下に制御する設計値です。
「棄却しない」は「帰無仮説が正しい」とは違う棄却できなかった理由は、帰無仮説が正しいことのほか、標本数が少ない、ばらつきが大きい、効果が小さい可能性もあります。答案では「H0を採択」よりも「H0を棄却しない」と書く方が正確です。
2. サイズ、レベル、有意確率(p値)
2.1 サイズ α の検定とレベル α の検定
帰無仮説が複数の母数値を含むとき、検定方式のサイズは
size(φ)=θ∈Θ0supPθ{φ(X)=1}
です。帰無仮説の中で最も棄却されやすい母数値でも、誤棄却確率がちょうど α ならサイズ α の検定です。
θ∈Θ0supPθ{φ(X)=1}≤α
ならレベル α の検定です。サイズは実際の最大値、レベルは許容上限です。単純帰無仮説 H0:θ=θ0 では両者は同じ意味になります。
2.2 p値は「H0の下での極端さ」
観測統計量を tobs とします。右片側検定なら、p値は
p=PH0{T≥tobs}
です。両側検定で帰無分布が0対称なら
p=PH0{∣T∣≥∣tobs∣}=2PH0{T≥∣tobs∣}
です。p値は「H0が正しい確率」でも、「結果が偶然である確率」でもありません。H0を仮定したときに、今回以上にH0と合いにくいデータが得られる確率です。
2.3 有意確率の読み方
有意水準5%で p=0.032 なら、事前に決めた規則に従えばH0を棄却します。ただし、効果の大きさ、信頼区間、研究デザイン、複数比較、臨床的な重要性は別に確認します。
| 結果 | 正しい読み方 | 誤った読み方 |
|---|
| p<0.05 | H0の下ではこの結果は比較的まれ | H0が5%未満の確率で正しい |
| p≥0.05 | 指定した水準では棄却できない | 効果がないことが証明された |
| 小さいp値 | データとH0の整合性が低い | 効果が大きい |
3. 正規母集団に関する検定
3.1 Z検定:母分散が既知の平均検定
X1,…,Xn∼iidN(μ,σ2)
で σ2 が既知とします。H0:μ=μ0 の下で、第五章の結果より
Z=σ/nXˉ−μ0∼N(0,1).
右片側 H1:μ>μ0 のレベル α 検定は
Z>z1−α
で棄却します。両側なら左右に α/2 ずつ配り、
∣Z∣>z1−α/2
です。zq は標準正規分布の q 分位点です。
3.2 t検定:母分散が未知の平均検定
現実には σ2 は未知なので、標本標準偏差
S2=n−11i=1∑n(Xi−Xˉ)2
で置き換えます。正規母集団なら
σ/nXˉ−μ0∼N(0,1),σ2(n−1)S2∼χn−12
が独立なので、比
T=S/nXˉ−μ0=V/(n−1)Z∼tn−1
を得ます。したがって通し例では自由度15の t 分布で T=2.00 を評価します。
2標本t検定では、比較の単位と分散仮定を最初に確認します。対応のある測定なら各ペアの差 Di に対する1標本t検定です。独立2群かつ等分散を仮定するならプールした分散を使い、等分散を仮定しにくいならWelchのt検定を使います。
3.3 F検定:正規母集団の分散比
独立な正規標本から得た不偏分散 S12,S22 に対し、H0:σ12=σ22 の下で
F=S22S12∼Fn1−1,n2−1.
分子・分母を入れ替えると逆数になるため、両側検定では片側に寄せず、両端の棄却域または適切な両側p値を使います。F検定は正規性からの逸脱に影響を受けやすく、実データでは分散の確認を可視化やロバストな方法と合わせます。
Z・t・Fの使い分け平均を検定し母分散が既知ならZ、未知ならt、分散比ならFです。t検定の分母は「標本標準偏差」ではなく「標準誤差 S/n」であることを必ず書きます。
4. 一般のモデルを検定する:尤度比、Wald、スコア
一般のパラメトリックモデルでは、同じ帰無仮説を3つの角度から検定できます。大標本では、適切な正則条件の下で3者はいずれもカイ二乗分布に近づきます。
| 検定 | 比べる場所 | 直感 |
|---|
| 尤度比検定 | H0の最尤値と全体の最尤値 | 制約を外すと尤度はどれだけ改善するか |
| Wald検定 | 推定値とH0の距離 | 推定値はH0から標準誤差何個分離れているか |
| スコア検定 | H0での尤度の傾き | H0の場所で尤度はまだ改善する方向を持つか |
4.1 尤度比検定
制約なしの最尤推定値を θ^、H0 の制約下での最尤推定値を θ~ とします。尤度比は
Λ=L(θ^)L(θ~),0<Λ≤1
です。制約を付けると最大尤度は上がらないので、Λ が小さいほどH0と合いません。
G2=−2logΛ=2{ℓ(θ^)−ℓ(θ~)}.
Wilksの定理より、H0の下で制約の個数を q とすると
G2dχq2.
正規平均での導出
σ2 既知、H0:μ=μ0 のとき、定数を除く対数尤度は
ℓ(μ)=−2σ21i=1∑n(xi−μ)2.
恒等式
i=1∑n(xi−μ0)2=i=1∑n(xi−xˉ)2+n(xˉ−μ0)2
を使うと、
G2=σ2n(xˉ−μ0)2=Z2.
両側Z検定が、尤度比検定と同じ検定統計量に到達することが分かります。
4.2 Wald検定
1母数のH0を H0:θ=θ0 とすると、
W=Var(θ^)(θ^−θ0)2
です。H0からの距離を推定標準誤差で割って2乗した量で、H0の下で Wdχ12 です。多母数なら
W=(θ^−θ0)TVar(θ^)−1(θ^−θ0)
となります。単変量の「差÷標準誤差」の二乗が、行列版ではマハラノビス距離になっただけです。
4.3 スコア検定
スコア関数を
U(θ)=∂θ∂ℓ(θ)
とします。H0の値 θ0 では、まだ最尤推定を計算せず、そこでの傾きと情報量だけを使って
R=I(θ0)U(θ0)2dχ12
を作ります。大規模なモデルで制約なし推定が重いときに便利です。
詳細な証明・一般化を開くここを閉じたままでも、統計検定1級の本線は学べます
3検定が漸近的に一致する理由
H0の近くで対数尤度を2次Taylor展開すると、尤度の差、推定値の距離、H0での傾きは、同じ二次形式で近似されます。1母数では
ℓ(θ^)−ℓ(θ0)≈21I(θ0)(θ^−θ0)2,かつ U(θ0)≈I(θ0)(θ^−θ0) なので、尤度比、Wald、スコアはいずれも I(θ0)(θ^−θ0)2 に近づきます。有限標本や境界付近、強く歪んだ尤度では差が出るため、3者が常に同じp値を返すわけではありません。
5. カイ二乗適合度検定と独立性検定
5.1 適合度検定
k 区分の観測度数を O1,…,Ok、H0の下での期待度数を E1,…,Ek とします。Pearsonのカイ二乗統計量は
X2=j=1∑kEj(Oj−Ej)2
です。各区分の「ずれ」を期待度数で標準化して二乗し、全区分で足しています。H0で母数を r 個推定したなら、漸近自由度は
df=k−1−r
です。−1 は度数和が標本サイズ n に固定される制約、−r はデータから推定した母数の分です。
期待度数が小さい区分が多いとカイ二乗近似が悪くなります。隣接する区分を理論的に妥当な形で併合するか、正確検定・シミュレーションを検討します。
5.2 クロス表における独立性検定
r×c クロス表で、行和を Ri、列和を Cj、総数を n とします。行と列が独立なら、セル (i,j) の期待度数は
Eij=nRiCj
です。これは「行i に入る確率 Ri/n」と「列j に入る確率 Cj/n」を掛けて n 倍したものです。
X2=i=1∑rj=1∑cEij(Oij−Eij)2dχ(r−1)(c−1)2.
有意でも、どのセルが差を主に作ったか、効果量(オッズ比、リスク比、CramérのVなど)、研究上の交絡は別に確認します。
6. 検出力関数と研究デザイン
6.1 検出力関数
母数が θ のときにH0を棄却する確率
π(θ)=Pθ{φ(X)=1}
を検出力関数といいます。θ∈Θ0 では誤棄却確率、θ∈Θ1 では真の効果を検出する確率です。
右片側Z検定で、真の平均との差を標準誤差で割った標準化効果を
δ=σ/nμ−μ0
とします。H1の下では Z∼N(δ,1) なので、臨界値 z1−α に対して
π(μ)=Pμ(Z>z1−α)=1−Φ(z1−α−δ).
標本数 n を増やすと δ は n に比例して大きくなり、検出力が上がります。
6.2 有意水準と検出力のトレードオフ
標本数と効果が固定なら、α を小さくするほど臨界値は遠くなり、第1種過誤は減りますが検出力も下がります。研究計画では、偽陽性のコスト、見逃しのコスト、実現可能な標本数を合わせて決めます。
医薬研究で「統計的に有意でなかった」結果を解釈するときは、p値だけでなく、事前に設定した検出力、信頼区間の幅、臨床的に意味のある最小効果を確認します。
7. Neyman–Pearson補題と一様最強力検定
7.1 最強力検定
単純仮説
H0:θ=θ0,H1:θ=θ1
について、同じサイズ α の検定の中で、θ1 における検出力が最大の検定を最強力検定といいます。
Neyman–Pearson補題は、尤度比
fθ0(x)fθ1(x)
が大きいときに棄却する検定が、サイズ α の最強力検定であることを示します。H1の下でより起こりやすく、H0の下で起こりにくい標本を優先して棄却する、という素直な規則です。
7.2 単調尤度比と一様最強力(UMP)検定
複合対立仮説 H1:θ>θ0 の全ての θ に対して最強力なら、一様最強力(UMP)検定です。
統計量 T(X) に関して尤度比が単調に増える、すなわち単調尤度比を持つ1母数指数型分布族では、T が大きいときに棄却する片側検定がUMPになることがあります。
例えば Xi∼N(μ,σ2)(σ2既知)で H1:μ>μ0 なら、Xˉ が大きいほど大きな平均を支持するため、Xˉ>c 型のZ検定はUMPです。
7.3 不偏検定
標準用語では、対立仮説のどの点でも検出力がサイズ以上である検定を不偏検定といいます。
π(θ)≥α(θ∈Θ1).
両側検定では一般にUMP検定が存在しないため、対称性などの条件の下で一様最強力不偏(UMPU)検定を考えます。「普遍検定」という表現は標準的な専門用語ではないため、この章では不偏検定として整理します。
最強力性を問われたら単に「尤度比が大きい方を棄却」と書かず、(1) H0とH1、(2) 尤度比、(3) サイズがαになる臨界値、(4) 単調尤度比なら片側UMP、の順に書きます。両側検定でUMPを安易に主張しないことが大切です。
8. 医薬・生命科学と情報科学での読み方
8.1 有効性、安全性、バイオマーカー
有効性の主要評価項目だけでなく、安全性、有効性の部分集団、複数バイオマーカーを同時に調べると、検定回数が増えます。各検定を5%で行っても、研究全体の偽陽性率は5%ではありません。主要評価項目、探索的解析、事前規定したサブグループを区別し、多重性調整や外部検証を検討します。
バイオマーカー研究では、p値が小さくても予測性能や臨床的有用性は保証されません。効果量、信頼区間、キャリブレーション、外部データでの再現性を併記します。
8.2 機械学習での仮説検定
モデルAとBの精度差を同じテストデータで比較すると、2つの精度は独立ではありません。各症例での予測の組を使うMcNemar検定のように、対応を保った検定が必要になる場合があります。
さらに、特徴選択・ハイパーパラメータ探索・モデル選択をテストデータで何度も行うと、テストセットが実質的に学習へ使われ、p値や性能推定が楽観的になります。検定以前に、訓練・検証・最終テストの役割を分けることが重要です。
9. 頻度データの推測:割合、率、分割表
頻度データでは、まず「分母が何か」を確認します。同じ「10%」でも、120人中12人という割合と、400人年で8件という率は意味も分布も異なります。
9.1 割合と率を分ける
ある期間の終わりに、対象者が「病気あり/なし」「反応あり/なし」のどちらかに分かれるなら、母比率を p とし、観測された成功数を X、標本数を n とします。このとき
X∼Bin(n,p),p^=nX.
p^ は母比率の推定量です。X の期待値と分散から
E[p^]=nE[X]=p,
Var(p^)=n2Var(X)=n2np(1−p)=np(1−p)
を得ます。したがって標準誤差は、未知の p を p^ で置き換えて
SE(p^)=np^(1−p^)
と近似します。
一方、発生した件数と観察時間が問題になるときは、率を使います。総観察人時間を T、発生件数を D とすると、発生率の推定値は
I^=TD
です。人年あたり、100人年あたりなどの単位を必ず添えます。割合は分母が人数、率は分母が人時間です。率は1を超えることもあり、確率そのものではありません。
| 指標 | 分母 | 例 | 代表的なモデル |
|---|
| 有病割合・有効率 | その時点または期間の対象者数 | 200人中40人 | 二項分布 |
| 累積発生割合 | 追跡開始時の対象者数 | 100人中10件 | 二項分布 |
| 発生率 | 人時間 | 400人年で8件 | Poisson分布 |
| 死亡率 | 人口または人時間 | 10万人年あたりの死亡数 | Poisson分布 |
割合と率の取り違えに注意「100人中10人」は10%ですが、「100人年で10件」は0.10件/人年です。後者をそのまま10%と解釈するには、1人あたりの発生が高くないなど、追加の近似が必要です。
9.2 1標本の母比率の検定と信頼区間
母比率について
H0:p=p0,H1:p=p0
を検定します。X∼Bin(n,p) で、n が十分大きいとき、中心極限定理により
p(1−p)/np^−pdN(0,1)
です。H0の下では分母の p を p0 とできるので、検定統計量は
Z=p0(1−p0)/np^−p0dN(0,1)
となります。両側検定では ∣Z∣>z1−α/2 で棄却します。
例えば、120例中16例に反応があり、基準反応率を10%とします。
p^=12016=0.1333,SE0=1200.1×0.9=0.0274
なので
Z=0.02740.1333−0.1=1.22.
両側5%の臨界値1.96を超えないため、基準率10%との差は有意とはいえません。これは「反応率が10%と等しい」と証明したのではなく、今回の標本では差を検出できなかったという意味です。
正規近似による95%信頼区間は
p^±z0.975np^(1−p^)
ですが、p^ が0や1に近い、または期待成功数・失敗数が小さいときは不安定です。その場合はWilson区間、Clopper–Pearson区間、正確二項検定などを検討します。
発展:正規近似の連続修正1級の基本答案では、二項分布の条件確認を先に書けば十分です
二項分布は整数値をとりますが、正規分布は連続値をとります。P(X≥x) を正規近似するとき、境界を x−1/2 に移す連続修正を使うことがあります。ただし、小標本では連続修正を足せば必ず正確になるわけではありません。正確二項検定と結果を比較し、方法を明記します。
9.3 2群の母比率の差
独立な2群について、群 j の成功数を Xj、標本数を nj、母比率を pj とします。
Xj∼Bin(nj,pj),p^j=njXj(j=1,2).
独立性から
E[p^1−p^2]=p1−p2
および
Var(p^1−p^2)=n1p1(1−p1)+n2p2(1−p2)
です。したがって、差の推定では各群の標本比率を使った標準誤差
SEunpooled=n1p^1(1−p^1)+n2p^2(1−p^2)
を使います。
検定では
H0:p1=p2=p
と置くため、共通の p の推定量として両群をまとめたプール推定量
p^pool=n1+n2X1+X2
を使います。よって検定統計量は
Z=p^pool(1−p^pool)(n11+n21)p^1−p^2dN(0,1).
ここで大切なのは、検定ではプール標準誤差、信頼区間では通常プールしない標準誤差を使うことです。目的が異なるためです。
薬剤群110例中15例、対照群105例中7例に毒性が出たとします。
p^1=11015=0.1364,p^2=1057=0.0667,
p^pool=110+10515+7=0.1023.
したがって
SE0=0.1023(1−0.1023)(1101+1051)≈0.0413,
Z=0.04130.1364−0.0667≈1.69.
両側5%では棄却しません。推定された毒性率の差は約6.97ポイントで、プールしない標準誤差を使った95%信頼区間はおおよそ [−0.012,0.151] です。p値だけでなく、差の大きさと不確実性を併記します。
9.4 2×2表とカイ二乗検定
2群と二値結果を表にすると、観測度数は次のようになります。
| 反応あり | 反応なし | 行和 |
|---|
| 群1 | a | b | n1 |
| 群2 | c | d | n2 |
| 列和 | m1 | m2 | N |
独立性を仮定したセル (i,j) の期待度数は
Eij=N(行 i の和)(列 j の和).
観測度数を Oij とすると、Pearson統計量は
X2=i=1∑2j=1∑2Eij(Oij−Eij)2dχ12.
2×2表では、母比率の差を正規近似した検定と、カイ二乗独立性検定が漸近的に同じ情報を使います。連続修正を加える場合は
XYates2=i,j∑Eij(∣Oij−Eij∣−1/2)2
とします。ただし、どの修正を使ったかを答案に書き、期待度数が小さい場合に機械的にカイ二乗近似へ進まないことが重要です。
9.5 Fisherの正確検定
2×2表で周辺度数を固定し、帰無仮説の下でセルの一つを数えると、そのセルは超幾何分布に従います。例えば左上セルが A=a で、周辺度数が固定されているとき
P(A=a)=(n1N)(am1)(n1−am2).
これは「群1に割り当てられた n1 個の位置へ、反応ありの m1 個が入る組合せ」の確率です。観測表と同じ、またはそれ以上に帰無仮説から離れた表の確率を足してp値を作ります。
Fisher検定は、期待度数が小さい小標本でカイ二乗近似を避けられる点が利点です。ただし、周辺度数を条件付ける検定であり、2側p値の定義にも流儀があります。答案や論文では「両側Fisherの正確検定」「p値の定義」を明記します。
9.6 対応のある2値データ:McNemar検定
同じ患者を2つの検査法で判定した場合、2つの結果は独立ではありません。対応表を
| 方法2:陽性 | 方法2:陰性 |
|---|
| 方法1:陽性 | a | b |
| 方法1:陰性 | c | d |
と書くと、方法間の差に情報を持つのは不一致の b,c だけです。一致した a,d は、両方法が同じ判定をしたため差の検定には直接寄与しません。
帰無仮説は不一致の2方向が同じ、すなわち P(b)=P(c) です。不一致数 b+c を条件にすると、b は近似的に
b∣(b+c)∼Bin(b+c,1/2)
に従います。大標本近似では、連続修正つき統計量
XMcNemar2=b+c(∣b−c∣−1)2dχ12
を使います。不一致数が小さいときは、b と c のどちらが多いかを二項分布で調べる正確法を使います。
例えば同じ細胞サンプルを2つの判定法で評価し、方法1だけ陽性が b=9、方法2だけ陽性が c=3 だったとします。
X2=9+3(∣9−3∣−1)2=1225=2.08.
自由度1のカイ二乗分布で評価します。独立2標本の比率検定を使うと、同一対象内の対応を無視して標準誤差を誤るため注意します。
9.7 Poisson分布による発生率の推測
一定の発生率 I で、総人時間 T を観察したとします。発生件数 D は
D∼Poisson(IT)
とモデル化できます。尤度は
L(I;D)=D!(IT)De−IT
です。対数尤度を微分すると
ℓ(I)=DlogI+DlogT−IT−log(D!),
∂I∂ℓ=ID−T=0⟹I^=TD.
Poisson分布の分散は平均に等しいので、
Var(I^)=T2Var(D)=T2IT=TI.
推定値を代入した近似標準誤差は
SE(I^)≈TD.
2群の率を比較する場合、群1・2の件数を D1,D2、人時間を T1,T2 とすると、率比は
IRR=D2/T2D1/T1.
対数率比の近似標準誤差は
SE{log(IRR)}≈D11+D21.
したがって、率比の95%信頼区間は対数尺度で
log(IRR)±1.96D11+D21
を作り、最後に指数関数を取ります。追跡時間が人によって異なる医薬安全性調査では、単純な「発生人数/人数」より人時間を使う率の方が情報を保ちやすい場合があります。
9.8 効果指標:リスク比・リスク差・オッズ比
同じ2×2表でも、研究デザインによって「何を比べているか」が変わります。まず、ある期間に疾患が起きたかを調べるコホート研究を考えます。
| 発症 | 非発症 | 合計 |
|---|
| 曝露あり | a | b | n1=a+b |
| 曝露なし | c | d | n0=c+d |
各群の発症割合は
p^1=a+ba,p^0=c+dc.
ここから、問いに応じて3つの指標を作ります。
RR=p^0p^1(リスク比),
RD=p^1−p^0(リスク差),
OR=p^0/(1−p^0)p^1/(1−p^1)=c/da/b=bcad(オッズ比).
オッズは「起きる確率」を「起きない確率」で割ったものです。例えば発症確率が p=0.2 なら、オッズは
1−pp=0.80.2=0.25
です。確率そのものではないので、「オッズ比4」を「発症確率が4倍」と読まないようにします。
希少疾患でORがRRに近づく理由
発症確率が小さいとき、1−p≈1 です。したがって
p0/(1−p0)p1/(1−p1)≈p0p1=RR.
これは「希少疾患ならいつでも同じ」という意味ではありません。両群の発症確率が十分小さいことが必要です。例えば、症例群で 200/5000、対照群で 300/30000 なら
OR=300/29700200/4800=4800×300200×29700=4.125.
ORの標準誤差と信頼区間
セルの度数が十分に大きいとき、対数オッズ比は近似的に正規分布に従い、
SE{log(OR)}≈a1+b1+c1+d1.
ここで逆数が現れるのは、対数オッズ比を
log(OR)=loga+logd−logb−logc
と書き、各セルの変動を近似的に足し合わせるためです。したがって
log(OR)±z1−α/2a1+b1+c1+d1
を計算し、最後に全体を指数変換します。
発展:デルタ法で対数ORの分散を見る
大標本では、セル度数を平均のまわりで正規近似し、関数 g(a,b,c,d)=loga+logd−logb−logc を1次テイラー展開します。偏微分は (1/a,−1/b,−1/c,1/d) なので、各セルがほぼ独立なら分散は 1/a+1/b+1/c+1/d になります。セルが0のときはこの近似が使えないため、正確法や適切な補正を検討します。
9.9 研究デザインと指標の使い分け
同じ「曝露と疾患の関係」でも、データの集め方で計算できる指標が変わります。
| 研究デザイン | 先に固定するもの | 主な指標 | 重要な注意 |
|---|
| コホート研究 | 曝露の有無 | RR、RD、発生率比、率差 | 時間順序を保ちやすい |
| 症例対照研究 | 疾患の有無 | OR | 抽出率が違うためリスクを直接計算しない |
| 横断研究 | 調査時点 | 有病割合、割合の比 | 時間順序が分からず、因果の断定は難しい |
コホート研究では、各群の分母が研究開始時の人数なので、発症割合や発生率を比較できます。一方、症例対照研究では最初に症例と対照の人数を決めて集めるため、表の発症割合は母集団のリスクではありません。この場合でも、オッズ比は曝露のオッズの比として推定できます。
リスク差は「何人分の差か」に近い
新薬群の副作用リスクが 0.08、対照群が 0.05 なら
RD=0.08−0.05=0.03.
これは「100人あたり約3人分の差」と読みやすく、臨床的な負担や必要治療数を考えるときに有用です。比の指標だけでは、基準リスクが非常に小さいのか大きいのかが分かりにくいことがあります。
相対リスクと寄与危険度
曝露群のリスクを p1、非曝露群のリスクを p0 とすると、寄与危険度は
AR=p1−p0=RD.
曝露群で観測されたリスクのうち、曝露を除けば減ると仮定した割合を寄与割合として
p1p1−p0=1−RR1
と表せます。ただし、因果効果として解釈するには、交絡や選択バイアスなどの条件が必要です。
9.10 マッチングとMantel–Haenszel法
性別、年齢、入院時期などをそろえて症例と対照を組にする方法をマッチングといいます。マッチングは交絡を研究デザインの段階で抑える方法ですが、解析でも組の対応を残す必要があります。
1対1マッチング
1組の症例と対照について、曝露の組合せを次のように整理します。
| 対照:曝露あり | 対照:曝露なし |
|---|
| 症例:曝露あり | a | b |
| 症例:曝露なし | c | d |
一致した組 a,d は、症例と対照の差を生まないため、関連の情報は不一致組 b,c にあります。条件付きオッズ比の推定値は
ORmatched=cb.
例えば b=24,c=11 なら OR=24/11=2.18 です。小標本では、b+c を固定した二項分布による正確検定を使います。
1対mマッチングの考え方
1人の症例に m 人の対照を対応させ、症例の曝露を δi∈{0,1}、その組の対照の曝露人数を fi∈{0,…,m} とします。画像で扱われている記法では
Δ=i=1∑Nδi,F=i=1∑Nfi
を使い、Mantel–Haenszel型の推定量は
ORMH=F−∑iδifimΔ−∑iδifi.
この式は、組ごとの対応を保ったまま全組の情報をまとめています。マッチングを無視して単純な2×2表に戻すと、組内の比較情報やマッチングした交絡因子の調整を失います。
発展:1対mマッチングの検定統計量
この記法では、帰無仮説 OR=1 の下で、
X2=(m+1)(Δ+F)−∑i(δi+fi)2(mΔ−F)2 ∼approx χ12.分母は各組の曝露数のばらつきを反映します。一般の層別解析には別のMantel–Haenszel式もあるため、データ形式と教科書の定義を確認してから式を選びます。
9.11 標準化死亡比(SMR)と小標本のPoisson推測
地域や職業集団の死亡数を、標準集団から期待される死亡数と比べる指標がSMRです。年齢階級などの層 j ごとに、対象集団の人数を nj、標準集団の死亡率を Ij とすると、期待死亡数は
E=j∑njIj.
観測死亡数を r とすれば
SMR=Er.
標準集団と同じならSMRは1です。死亡数を
r∼Poisson(E⋅SMR)
と考えれば、H0:SMR=1 の下では平均が E のPoisson分布になります。例えば観測死亡数 r=146、期待死亡数 E=98.7 なら
SMR=98.7146≈1.48.
死亡数が十分大きい場合は連続修正を含む近似統計量
Z=E∣r−E∣−0.5=98.7∣146−98.7∣−0.5≈4.71
を使えます。小さい死亡数では、正規近似よりPoissonの正確法を優先します。
Poisson率の正確信頼区間
総人時間を T、観測件数を r とします。χν,q2 を自由度 ν のカイ二乗分布の下側確率 q の分位点と定義すると、率 I の正確な 100(1−α)% 信頼区間は
[2Tχ2r,α/22,2Tχ2r+2,1−α/22].
下限の自由度が 0 になる r=0 の場合は、下限を0とします。教科書によって「上側確率の分位点」を使う表記もあるため、分位点の定義を答案に添えると安全です。
9.12 順序カテゴリ:Wilcoxon順位和検定
「軽症・中等症・重症」のような順序カテゴリや、正規分布を仮定しにくい連続値を2つの独立群で比べるとき、Wilcoxon順位和検定(Mann–Whitneyの U 検定)を使えます。
手順は次の通りです。
- 2群の値を一緒に並べ、小さい順に順位を付ける。
- 同順位があれば平均順位を割り当てる。
- 片方の群の順位和 W を求める。
- U=W−n1(n1+1)/2 と変換する。
帰無仮説を「2群の分布が同じ」とすると、同順位補正を無視できる場合
E(U)=2n1n2,Var(U)=12n1n2(N+1),N=n1+n2.
したがって大標本では
Z=n1n2(N+1)/12U−n1n2/2∼approxN(0,1)
とします。小標本では正確分布を使い、同順位が多い場合は分散の同順位補正を入れます。
この検定は「中央値だけ」を直接検定しているわけではありません。2群の分布の位置がずれていることを検出します。両群の分布形が同じで位置だけが違うときに、中央値の差として解釈しやすくなります。
画像の範囲を答案へ落とすときの注意OR・RR・RDを混同せず、症例対照研究ではリスクを直接計算しない、横断研究では発生率や因果を断定しない、マッチング後は対応を無視しない、少数Poissonでは正確法を考える、順序カテゴリではt検定を機械的に使わない、という順で確認します。
頻度データの答案チェック①分母が人数か人時間か、②独立2群か対応ありか、③期待度数または件数が十分か、④推定値・標準誤差・検定統計量・自由度・結論の順になっているか、を確認します。
10. 統計検定1級での答案の型
- 母数、標本分布、H0 と H1 を書く。
- H0の下での検定統計量の分布を導く、または引用する。
- 有意水準 α から棄却域またはp値を定める。
- 観測値を代入し、棄却/棄却しないを明記する。
- サイズ、自由度、独立性、正規性、期待度数などの条件を添える。
答案の最後の一文「p値は…であり、あらかじめ定めた有意水準…では帰無仮説を棄却する(しない)。ただし、この結論は効果量の大きさそのものを意味しない。」まで書くと、判断と解釈を分けられます。
11. 数理統計問題
問題1:右片側Z検定
X1,…,X25∼iidN(μ,16) とします。Xˉ=11.2 を観測しました。H0:μ≤10、H1:μ>10 を有意水準 0.05 で検定してください。
解答1
H0の境界 μ=10 で
Z=4/25Xˉ−10=0.811.2−10=1.50
は標準正規分布に従います。右片側5%の臨界値は z0.95=1.645 です。1.50<1.645 なのでH0は棄却しません。p値は 1−Φ(1.50)≈0.0668 であり、5%より大きいことからも同じ結論です。
答案で気をつけることH0:μ≤10 でも、棄却確率が最大になる境界 μ=10 で帰無分布を計算します。
問題2:両側t検定
通し例の n=16,Xˉ=74,S=8 を用い、H0:μ=70、H1:μ=70 を有意水準 0.05 で検定してください。
解答2
T=8/1674−70=2.00∼t15(H0).
両側5%の臨界値は t15,0.975≈2.131 です。∣2.00∣<2.131 なのでH0は棄却しません。両側p値は約 0.064 です。
問題3:分散比のF検定
独立な正規標本から n1=11,S12=18、n2=16,S22=8 を得ました。H0:σ12=σ22 の下で用いる検定統計量と自由度を答えてください。
解答3
F=S22S12=818=2.25.
H0の下で F∼F10,15 です。分子・分母の自由度はそれぞれ n1−1=10,n2−1=15 です。両側検定なら、片側の上側確率だけで判断せず、両端に有意水準を配ります。
問題4:尤度比検定とZ検定
Xi∼N(μ,σ2)、σ2既知とします。H0:μ=μ0 に対する尤度比検定統計量 G2 が Z2 に等しいことを示してください。
解答4
制約なし最尤推定値は μ^=Xˉ、H0下の推定値は μ~=μ0 です。対数尤度の差は
ℓ(Xˉ)−ℓ(μ0)=2σ21{i∑(Xi−μ0)2−i∑(Xi−Xˉ)2}.
平方和分解より波括弧内は n(Xˉ−μ0)2 です。よって
G2=2{ℓ(Xˉ)−ℓ(μ0)}=σ2n(Xˉ−μ0)2=Z2.
問題5:Wald検定とスコア検定
Poisson標本 Xi∼Poisson(λ) で、H0:λ=λ0 を考えます。Wald統計量とスコア統計量を求めてください。
解答5
最尤推定値は λ^=Xˉ、漸近分散は λ/n なので、推定値を代入したWald統計量は
W=Xˉ/n(Xˉ−λ0)2.
対数尤度は ℓ(λ)=∑i{Xilogλ−λ}+const. なので、
U(λ0)=λ0∑iXi−nλ0,In(λ0)=λ0n.
したがってスコア統計量は
R=In(λ0)U(λ0)2=nλ0(∑iXi−nλ0)2.
いずれもH0の下で漸近的に χ12 に従います。
問題6:カイ二乗適合度検定
4分類の観測度数が (28,22,27,23)、H0の下の確率が全て 1/4 とします。Pearson統計量を求め、自由度を答えてください。
解答6
総数は100なので各期待度数は25です。
X2=25(28−25)2+25(22−25)2+25(27−25)2+25(23−25)2=2526=1.04.
母数は推定していないので、自由度は 4−1=3 です。
問題7:クロス表の独立性検定
薬剤群と対照群の反応者数が次の通りでした。独立性の下での期待度数を全セルについて求めてください。
| 反応 | 非反応 | 計 |
|---|
| 薬剤 | 30 | 20 | 50 |
| 対照 | 18 | 32 | 50 |
| 計 | 48 | 52 | 100 |
解答7
期待度数は行和×列和÷総数です。薬剤・反応セルでは
E11=10050×48=24.
同様に薬剤・非反応は26、対照・反応は24、対照・非反応は26です。自由度は (2−1)(2−1)=1 です。
問題8:検出力関数
右片側Z検定 H0:μ≤μ0、H1:μ>μ0 を考えます。母標準偏差 σ、標本数n、有意水準αのとき、真の平均がμである場合の検出力を求めてください。
解答8
棄却域は
σ/nXˉ−μ0>z1−α
です。整理すると Xˉ>μ0+z1−ασ/n です。Xˉ∼N(μ,σ2/n) より、
π(μ)=1−Φ(z1−α−σ/nμ−μ0).
問題9:Neyman–Pearson補題
X∼Bernoulli(p) について、H0:p=0.2 対 H1:p=0.8 を考えます。X=1 のとき棄却する規則が尤度比の大きい側を棄却していることを確認してください。
解答9
尤度比は
f0.2(1)f0.8(1)=0.20.8=4,f0.2(0)f0.8(0)=0.80.2=41.
X=1 の方がH1の下で相対的に起こりやすいため、尤度比の大きい X=1 側を棄却域に置きます。ただしこの非ランダム化検定のサイズは0.2であり、任意の小さい α を正確に作るにはランダム化が必要な場合があります。
問題10:単調尤度比と片側検定
Xi∼N(μ,σ2)、σ2既知で H0:μ≤μ0 対 H1:μ>μ0 を考えます。なぜ Xˉ が大きいときに棄却する検定が自然かを説明してください。
解答10
任意の μ1>μ0 に対し、尤度比の対数は定数を除いて
logL(μ0)L(μ1)=σ2n(μ1−μ0)Xˉ+const.
です。μ1−μ0>0 なので、これは Xˉ の増加関数です。したがって Xˉ が大きい標本ほどH1を支持し、単調尤度比から右片側のZ検定はUMPになります。
問題11:1標本母比率の正規近似
二項分布 X∼Bin(n,p) に対して、H0:p=p0 を検定する統計量を導きなさい。また、なぜ標準誤差の分母に p^ ではなく p0 を使うのか説明しなさい。
解答11
二項分布の平均と分散は
E[X]=np,Var(X)=np(1−p)
です。p^=X/n とおくと
E[p^]=p,Var(p^)=np(1−p).
中心極限定理から
p(1−p)/np^−pdN(0,1).
検定ではH0の下の分布を使うため、p=p0 を代入して
Z=p0(1−p0)/np^−p0dN(0,1)
となります。p^ は観測後の推定値であり、信頼区間の標準誤差には使えますが、検定の帰無分布はH0の値 p0 で定めるため分母は p0 です。
問題12:2群の母比率差とプール推定量
独立な二項標本 Xj∼Bin(nj,pj)(j=1,2)について、H0:p1=p2 の検定統計量を導きなさい。検定と信頼区間で標準誤差が異なる理由も述べなさい。
解答12
まず
p^j=njXj,E[p^j]=pj,Var(p^j)=njpj(1−pj)
です。独立性より
Var(p^1−p^2)=n1p1(1−p1)+n2p2(1−p2).
H0では共通値 p を仮定するので、両群を合わせた最尤推定量
p^pool=n1+n2X1+X2
を用います。したがって
Z=p^pool(1−p^pool)(n11+n21)p^1−p^2dN(0,1).
検定は「差が0」というH0の下の分布を作るためプールします。一方、信頼区間は未知の p1,p2 の差を推定するので、通常は各群の p^j を別々に使います。この目的の違いを答案に書きます。
問題13:Fisherの正確検定の確率
2×2表の周辺度数を固定したとき、左上セルの度数 A が超幾何分布に従うことを示し、確率関数を書きなさい。
解答13
総数を N、群1の標本数を n1、反応ありの総数を m1 とします。帰無仮説で群と反応が独立なら、N 個の位置のうち反応ありの m1 個が、群1の n1 個の位置へ何個入るかを数えます。
群1に入る全ての組合せは (n1N) 通りです。左上セルが a になるには、反応ありから a 個を選び、反応なしから n1−a 個を選ぶため、該当する組合せは
(am1)(n1−aN−m1)
通りです。したがって
P(A=a∣周辺度数)=(n1N)(am1)(n1−aN−m1).
観測表と同じか、それ以上にH0から離れた表の確率を足してp値を作ります。期待度数が小さいときに漸近カイ二乗近似を避けられるのが利点ですが、周辺度数を固定する条件付き検定であることを明記します。
問題14:McNemar検定
対応のある2値データで、不一致セルが b=12,c=5 でした。連続修正つきMcNemar統計量を求め、帰無仮説を述べなさい。
解答14
帰無仮説は、方法1だけ陽性になる確率と方法2だけ陽性になる確率が等しいこと、すなわち不一致の2方向に差がないことです。不一致数は
b+c=12+5=17
です。連続修正つき統計量は
X2=b+c(∣b−c∣−1)2=17(∣12−5∣−1)2=1736≈2.12.
大標本近似では χ12 と比較します。不一致数が17程度でも、厳密性を重視するなら B∼Bin(17,1/2) による正確二項検定を併記します。a,d の一致セルを分母に入れないことが重要です。
問題15:オッズ比と対数オッズ比の信頼区間
症例群で曝露ありが a=20、曝露なしが b=80、対照群で曝露ありが c=10、曝露なしが d=90 でした。オッズ比を求め、対数オッズ比の近似標準誤差と95%信頼区間を求めてください。
解答15
まず、症例群の曝露オッズは 20/80、対照群の曝露オッズは 10/90 です。したがって
OR=10/9020/80=80×1020×90=2.25.
対数を取ると
log(OR)=log(2.25)≈0.811.
大標本近似の標準誤差は
SE{log(OR)}=201+801+101+901≈0.424.
したがって対数尺度での95%信頼区間は
0.811±1.96(0.424)≈[−0.020,1.642].
最後に指数変換して
CI95%(OR)=[e−0.020,e1.642]≈[0.98,5.17].
1を含むため、5%水準ではオッズ比が1と異なるとまでは結論できません。症例対照研究なら、この値をリスク比と呼ばないことが重要です。
問題16:2群のPoisson発生率の差
2群で独立な発生件数 D1=8,D2=15 と総人時間 T1=400,T2=500 が得られました。帰無仮説 H0:I1=I2 を考え、プールした率に基づく近似検定統計量を導いて計算してください。
解答16
各群の率は
I^1=4008=0.020,I^2=50015=0.030.
Poisson分布の性質から
Var(I^1)≈T1I1,Var(I^2)≈T2I2.
独立性により差の分散は和になります。H0では共通率を I と置くため、
Var(I^1−I^2)≈I(T11+T21).
共通率の推定値は、全発生数を全人時間で割って
I^0=T1+T2D1+D2=90023≈0.02556.
したがって帰無仮説の標準誤差は
SE0=0.02556(4001+5001)≈0.01068.
検定統計量は
Z=0.010680.020−0.030≈−0.936.
両側5%では ∣Z∣<1.96 なので、H0を棄却しません。なお、条件付きに二項分布へ変形して検定する方法もあり、Poisson率比較の別解になります。
問題17:Poisson率の正確信頼区間
総人時間 T の観察で発生件数 r が得られたとします。Poisson率 I の正確な95%信頼区間を、カイ二乗分布の分位点を用いて示してください。カイ二乗分位点は下側確率で定義するものとします。
解答17
r∼Poisson(IT)
です。Poisson確率変数の観測値 r に対して、次の関係を使います。
2IT∼χ2r+22または2IT∼χ2r2
という上下の尾確率の関係から、下側確率 q の分位点を χν,q2 と書けば
2Tχ2r,0.0252≤I≤2Tχ2r+2,0.9752.
これが95%正確信頼区間です。正規近似の I^±1.96I^/T と違い、件数が少ないときにも区間が負になりません。r=0 では下限を0とします。表によって上側確率の記法が違うため、分位点の定義を最初に明記します。
問題18:Wilcoxon順位和統計量
2群の標本サイズを n1,n2 とし、同順位がないものとします。群1の順位和を W としたとき、U の定義、帰無仮説の下での平均と分散、大標本近似統計量を示してください。
解答18
群1の各観測値に付いた順位を足したものを W とします。群1の観測値自身が作る最小の順位和は
1+2+⋯+n1=2n1(n1+1).
そのため、順位和からこの最小値を引いた
U=W−2n1(n1+1)
を使います。これは、群1の値が群2の値より大きい組の数としても解釈できます。
帰無仮説の下では、各順位がどの群に入るかが対称なので、全ての組の半分が平均的に群1側へ対応し、
E(U)=2n1n2.
同順位がない場合の分散は
Var(U)=12n1n2(n1+n2+1).
よって
Z=n1n2(n1+n2+1)/12U−n1n2/2∼approxN(0,1).
答案では「連続値だからt検定」ではなく、順序尺度、外れ値、分布形、独立性を確認してから検定を選びます。同順位がある場合は、この分散に同順位補正を入れます。
12. 医薬・生命科学の問題
問題1:細胞生存率の片側t検定
化合物処理後の生存率が基準70%より高いかを、n=9,Xˉ=76,S=9 から有意水準5%で検定してください。
解答1
H0:μ≤70,H1:μ>70.
T=9/976−70=2.00∼t8(H0).
右片側5%の臨界値は約1.860なので、2.00>1.860 です。H0を棄却し、生存率が70%より高いことを支持するデータです。ただし、ウェルが独立な実験単位か、別日に再現したかは別に確認します。
問題2:有害事象率と片側検定
既知の有害事象率を5%とします。新規製剤で100例中10例に有害事象が起きました。「率が5%を超えるか」を考えるとき、片側検定のH0とH1を答え、どちら向きの棄却域を使うか説明してください。
解答2
H0:p≤0.05,H1:p>0.05.
観測された有害事象数が大きいほどH1を支持するので、上側(右片側)棄却域を使います。小標本や期待度数が小さい場合は、正規近似より正確な二項検定を優先します。
問題3:遺伝子型と反応の独立性
遺伝子型(AA、Aa、aa)と反応(あり、なし)の関連をクロス表で検定するとき、帰無仮説、自由度、注意点を答えてください。
解答3
H0は「遺伝子型と反応は独立」です。3×2 表なので、自由度は
(3−1)(2−1)=2
です。期待度数が小さいセルがあるなら、カテゴリ併合、正確法、モデル化を検討します。集団構造や治療群などの交絡があれば、単純な独立性検定だけでは因果的な解釈はできません。
問題4:2群のばらつき比較
2つの測定法の再現性を比べるためにF検定を行う際、正規性が怪しいときの注意を説明してください。
解答4
F統計量の正確なF分布は正規母集団を仮定します。外れ値や歪みがあると分散比が大きく影響を受けるため、残差図・箱ひげ図を確認し、必要ならロバストな分散比較や変換、bootstrapを併用します。F検定の非有意は「再現性が同じ」の証明ではありません。
問題5:多重バイオマーカーとp値
20個の候補バイオマーカーをそれぞれ有意水準5%で検定しました。全ての帰無仮説が正しいとして、少なくとも1つが偶然有意となる確率を独立近似で求めてください。
解答5
どれも有意でない確率は (1−0.05)20=0.9520 です。よって少なくとも1つが有意となる確率は
1−0.9520≈0.642.
5%より大きく、複数比較を無視できません。実際には検定間の相関もありますが、主要評価項目の事前指定やFDR・FWERの制御を検討します。
問題6:AI分類器の比較
同じ患者群に対する2つのAI分類器の正解・不正解を比較するとき、独立な2標本の比率検定をそのまま使いにくい理由を説明してください。
解答6
同じ患者に対する2モデルの予測結果は対応しており、正解率の推定値は独立ではありません。患者ごとの「Aだけ正解」「Bだけ正解」という不一致対を用いるMcNemar検定など、対応を保つ方法を使います。さらに、モデル選択に使ったデータで最終検定を行わないことも必要です。
問題7:薬剤群と対照群の毒性割合
薬剤群110例中15例、対照群105例中7例に毒性が観察されました。毒性割合の差について、両側5%で検定する手順を示し、差の95%信頼区間も求めてください。正規近似を用いてよいものとします。
解答7
薬剤群を1、対照群を2とし、
p^1=11015=0.1364,p^2=1057=0.0667
です。検定では
H0:p1=p2,H1:p1=p2
と置きます。H0の下のプール推定量は
p^=110+10515+7=0.1023.
したがって帰無仮説の標準誤差は
SE0=0.1023(1−0.1023)(1101+1051)≈0.0413
であり、
Z=0.04130.1364−0.0667≈1.69
です。∣Z∣<1.96 なので、5%水準ではH0を棄却しません。
信頼区間では各群を別々に使い、
SECI=1100.1364(1−0.1364)+1050.0667(1−0.0667)≈0.0417.
よって差の95%信頼区間は
(0.1364−0.0667)±1.96(0.0417)≈[−0.012,0.152]
です。観測差は約6.97ポイントですが、0を含むため、差があると断定できません。
問題8:同じ検体を2法で測定した場合
同じ60検体を検査法AとBで判定したところ、Aのみ陽性が9検体、Bのみ陽性が3検体でした。どの検定を使い、どの統計量を計算するか答えてください。
解答8
同じ検体を2回測定しているため、2つの判定は対応しています。独立2標本の比率検定ではなく、McNemar検定を使います。不一致セルを b=9,c=3 とすると、連続修正つき統計量は
X2=9+3(∣9−3∣−1)2=1225=2.08.
大標本近似では χ12 と比較します。不一致数が小さいときは、b+c=12 を条件に B∼Bin(12,1/2) として正確p値を求めます。検体内の対応を保ったまま、Aのみ陽性とBのみ陽性の頻度を比較することが本質です。
問題9:人年あたり発生率の比較
薬剤群では400人年の観察で8件、対照群では500人年で15件の発生がありました。各群の発生率、率比、率比の近似95%信頼区間を求めてください。
解答9
薬剤群と対照群の率は
I^1=4008=0.0200,I^2=50015=0.0300
です。単位は件/人年です。率比は
IRR=0.03000.0200=0.667.
対数率比の近似標準誤差は
SE{log(IRR)}=81+151≈0.438.
また log(0.667)≈−0.405 なので、対数尺度の95%信頼区間は
−0.405±1.96(0.438)≈[−1.263,0.453].
指数変換して
IRR の95%信頼区間≈[0.283,1.573].
1を含むため、率比が1と異なるとまではいえません。人時間を使った理由は、各人の追跡期間が異なっても観察量を分母へ反映できるためです。
問題10:有病割合と発生率の区別
ある地域で調査時点に200人中40人が疾患を持っていました。その後、調査時点で疾患のなかった160人を2年間追跡したところ、新規発症が12件ありました。有病割合、累積発生割合、近似的な発生率を区別して求めてください。
解答10
調査時点で疾患を持つ人の割合は有病割合なので、
有病割合=20040=0.20.
追跡開始時に疾患がなかった160人のうち、新たに発症した割合は累積発生割合なので、
累積発生割合=16012=0.075.
全員を2年間追跡できたと近似すれば、人時間は 160×2=320 人年です。したがって発生率は
発生率=32012=0.0375 件/人年
です。有病割合は既存例を含む時点の状態、累積発生割合は追跡期間中の新規例の割合、発生率は新規例を人時間で割った量です。分母と時間の基準が違うため、3つを同じ数値として比較してはいけません。
問題11:症例対照研究のオッズ比
ある疾患の症例200人と対照300人について、リスク因子への曝露を調べたところ、症例では曝露ありが200人、曝露なしが4800人、対照では曝露ありが300人、曝露なしが29700人に相当する集団から抽出されたとします。症例対照研究で推定できる関連指標を計算し、解釈上の注意を述べてください。
解答11
症例対照研究では、研究者が症例数と対照数を先に決めるため、曝露群と非曝露群の発症リスクをそのまま比較できません。したがって、オッズ比を使います。
曝露オッズは、曝露人数を非曝露人数で割ったものなので、
OR=300/29700200/4800=4800×300200×29700=4.125.
したがって、症例群では対照群より曝露オッズが約4.13倍です。これは「発症リスクが4.13倍」と同じ意味ではありません。疾患がまれで、症例対照研究が適切に設計されているときには、オッズ比をリスク比の近似として解釈できる場合がありますが、常に成り立つわけではありません。因果関係を結論するには、交絡、選択バイアス、情報バイアスも検討します。
問題12:喫煙と循環器疾患の死亡率
喫煙者では43248人年の観察で104死亡、非喫煙者では10673人年で12死亡でした。死亡率の差、死亡率比、および死亡率比の近似95%信頼区間を求めてください。結果を因果関係として断定してよいかも答えてください。
解答12
まず、各群の死亡率を10万人年あたりに直します。
I^1=43248104×100000≈240.47,I^2=1067312×100000≈112.43.
死亡率差は
RD=240.47−112.43=128.04
であり、10万人年あたり約128件の差です。
死亡率比は
IRR=12/10673104/43248≈2.14.
Poisson近似では、対数死亡率比の標準誤差は死亡数だけを使って
SE{log(IRR)}≈1041+121≈0.298.
よって
log(2.14)±1.96(0.298)≈[0.168,1.323].
指数変換すると
CI95%(IRR)≈[e0.168,e1.323]≈[1.18,3.75].
信頼区間が1を含まないため、死亡率比が1と異なることは示唆されます。しかし、観察研究なので、年齢、職業、既往歴、健康行動などの交絡を調整しなければ、喫煙が死亡を直接引き起こしたと断定できません。
問題13:標準化死亡比(SMR)
ある地域の観察死亡数は146人、年齢階級別の標準死亡率から計算した期待死亡数は98.7人でした。SMRを求め、標準集団と比べて死亡が多いかを近似的に検定してください。
解答13
標準化死亡比は、観察死亡数を期待死亡数で割ります。
SMR=98.7146≈1.48.
まず帰無仮説の下で、期待死亡数を平均とするPoisson分布を考えます。
R∼Poisson(E),E=98.7.
正規近似と連続修正を使うと、観測値が期待値より大きい方向の統計量は
Z=98.7∣146−98.7∣−0.5≈4.71.
5%両側検定の基準値1.96を大きく上回るので、帰無仮説を棄却します。この地域の死亡数は、標準集団から期待される数より多いと判断されます。
ただし、死亡数が少ない場合には正規近似を使わず、Poisson分布またはカイ二乗分布による正確信頼区間・正確検定を使います。SMRは年齢構成などを標準化した比較指標ですが、標準化に使っていない交絡因子まで自動的に調整するものではありません。
問題14:マッチングを用いた患者対照研究
1人の患者に2人の対照を対応させた研究で、患者側の曝露人数の合計を Δ=26、対照側の曝露人数の合計を F=30、∑iδifi=19、∑i(δi+fi)2=102 とします。Mantel—Haenszel型のマッチング解析でオッズ比と検定統計量を求めてください。
解答14
1対2マッチングでは、患者ごとに患者側の曝露指標 δi と、対照側の曝露人数 fi を集計します。画像の形式の推定量では、
ORMH=F−∑iδifimΔ−∑iδifi,m=2.
数値を代入すると
ORMH=30−192×26−19=1133=3.00.
したがって、マッチング後の解析では、患者側の曝露オッズが対照側の約3倍と推定されます。
近似検定統計量は
χ2=(m+1)(Δ+F)−∑i(δi+fi)2(mΔ−F)2=3(56)−102(52−30)2=66484≈7.33.
自由度1のカイ二乗分布と比較すると、5%点3.84、1%点6.63より大きいため、1%水準でも関連を棄却できる近似結果です。マッチングを行ったのに対応を無視して単純な2×2表を解析すると、標準誤差や交絡調整が不適切になる可能性があります。
問題15:順序カテゴリとWilcoxon順位和検定
薬剤群と対照群で、改善度を「著明改善・中程度改善・軽度改善・不変・悪化」の5段階で評価しました。数値を連続量とみなすことに無理がある場合、2群を比較する方法を説明してください。
解答15
改善度は順序を持ちますが、隣り合うカテゴリの間隔が等しいとは限りません。そのため、まず全対象を一緒に並べて順位を付け、薬剤群の順位和 W、または順位和から定数を引いたU統計量を計算するWilcoxon順位和検定を使います。
帰無仮説は、両群の分布位置に系統的な差がないことです。大標本では
U=W−2n1(n1+1),E(U)=2n1n2,
Var(U)=12n1n2(n1+n2+1)
を使って標準化します。同順位があるときは同順位補正が必要です。
結論は「薬剤群の改善度の順位が高い傾向がある」のように書きます。Wilcoxon検定の有意差だけから、中央値だけが異なる、効果量が臨床的に大きい、という結論を自動的に出してはいけません。
問題16:研究デザインと比較指標の選択
次の3つの研究について、主に報告すべき比較指標を選び、その理由を説明してください。
- 薬剤投与群と対照群を登録し、2年間追跡して新規発症を調べる。
- まれな疾患の患者を集め、過去の曝露を対照と比較する。
- ある時点で住民を調べ、症状の有無と現在の生活習慣を同時に記録する。
解答16
1では、曝露を起点に追跡して新規発症を観察するのでコホート研究です。発症割合の比ならリスク比、発症割合の差ならリスク差、人時間を分母にするなら発生率比を報告できます。
2では、症例数と対照数を研究者が決めるため、発症リスクやリスク比を直接計算できません。曝露オッズの比であるオッズ比を主な指標にします。まれな疾患なら、条件が整えばリスク比の近似として扱えることがあります。
3では、調査時点の状態を同時に測る横断研究です。有病割合の比や有病割合の差、オッズ比を検討できますが、曝露と症状の時間的順序が不明なので、因果関係の主張には慎重さが必要です。
13. まとめ
- 仮説検定はH0を条件として、データの極端さを測る判断規則である
- 有意水準は第1種過誤の上限、p値はH0の下での極端さである
- 正規母集団では、既知分散ならZ、未知分散ならt、分散比ならFを使う
- 尤度比・Wald・スコアは、一般モデルでH0からのずれを測る3つの方法である
- カイ二乗検定では期待度数、自由度、独立な観測単位を確認する
- 頻度データでは、割合と人時間あたりの率を分け、独立2群・対応あり・小標本で方法を選ぶ
- 検出力は効果量、標本数、ばらつき、有意水準で決まり、研究設計の段階で考える
- Neyman–Pearson補題は単純仮説での最適検定を与え、単調尤度比は片側UMP検定につながる
- p値だけで結論を作らず、効果量、信頼区間、研究デザイン、複数比較、再現性を合わせて解釈する