このコラムの目的
統計検定1級の確率・統計では、確率分布の公式だけでなく、その背後にある数学を使って式を変形します。
特に必要になるのは、次の道具です。
- 集合と数え上げ
- 数列、級数、テイラー展開
- 1変数の微分・積分
- 偏微分、重積分、ヤコビアン
- ベクトル、行列、固有値、二次形式
- ガンマ関数、ベータ関数
- 制約付き最適化
このコラムでは、高校数学の範囲を越える内容について、できるだけ定義または直前の式から導きます。
目的は証明を暗記することではなく、統計の問題で「なぜこの操作を使うのか」を判断できるようになることです。
各章との対応
| ブログ記事 | 主に使う数学 | 直接移動 |
|---|
| 第一章 事象と確率 | 集合、数え上げ、条件の分割 | 第一章へ |
| 第二章 確率分布と期待値 | 級数、微積分、変数変換 | 第二章へ |
| 第三章 さまざまな確率分布 | ガンマ・ベータ関数、近似、標本分布 | 第三章へ |
| 第四章 多次元確率変数 | 偏微分、ヤコビアン、行列、二次形式 | 第四章へ |
式を読む順序
記号の定義、変数が動く範囲、使った定理の条件、最後に得られた量の意味、という順に確認します。式変形だけが合っていても、台や独立性などの条件が抜けると確率の答案として不十分です。
1. 集合・論理・数え上げ
集合演算を確率へ翻訳する
事象 A,B に対して、
| 集合の記号 | 意味 | 確率での読み方 |
|---|
| A∪B | A または B | 少なくとも一方が起こる |
| A∩B | A かつ B | 両方が起こる |
| Ac | A の補集合 | A が起こらない |
| A∖B | A だが B でない | A∩Bc |
重複を二重に数えないようにすると、
P(A∪B)=P(A)+P(B)−P(A∩B)
です。
指示関数を使うと、この関係を点ごとに、
IA∪B=IA+IB−IAIB
と書けます。両辺の期待値を取れば、確率の加法公式が得られます。
De Morganの法則
「少なくとも1つ起こる」の反対は「すべて起こらない」です。
(i=1⋃nAi)c=i=1⋂nAic
同様に、
(i=1⋂nAi)c=i=1⋃nAic
です。
「少なくとも1回」の確率を余事象から求めるときに使います。
順列と組合せ
n 個から順序を区別して r 個を並べる方法は、
nPr=n(n−1)⋯(n−r+1)=(n−r)!n!
通りです。
組合せでは、同じ r 個を選んだ後の r! 通りの並べ方を区別しません。
したがって、
(rn)=r!nPr=r!(n−r)!n!
です。
二項定理と多項定理
(a+b)n を展開したとき、a を n−r 回、b を r 回選ぶ項は (rn) 個あります。
よって、
(a+b)n=r=0∑n(rn)an−rbr
です。
k 個の項へ拡張すると、
(x1+⋯+xk)n=n1+⋯+nk=n∑n1!⋯nk!n!j=1∏kxjnj
となります。
二項分布、多項分布、積率母関数の導出に直結します。
何の情報から何を学べるか
- 二値試行の成功数から、二項係数と成功確率を組み合わせた確率が得られる
- 非復元抽出では、母集団中の組合せを分母にして超幾何分布が得られる
- 複数カテゴリの個数から、多項係数を使ってカテゴリ構成の確率が得られる
2. 数列・級数・テイラー展開
有限和の記号
i=1∑nxi=x1+⋯+xn
です。和には線形性があり、定数 a,b に対して、
i=1∑n(axi+byi)=ai=1∑nxi+bi=1∑nyi
です。この性質が期待値の線形性と対応します。
等比級数の導出
Sn=1+r+r2+⋯+rn
とおきます。両辺を r 倍して引くと、
Sn−rSn=1−rn+1
なので、r=1 なら、
Sn=1−r1−rn+1
です。∣r∣<1 なら n→∞ で rn+1→0 なので、
k=0∑∞rk=1−r1
を得ます。
幾何分布の確率の総和や期待値計算で使います。
テイラー展開
十分滑らかな関数 f を x=a の近くで多項式に近似すると、
f(x)=f(a)+f′(a)(x−a)+2!f′′(a)(x−a)2+⋯
です。
なぜ係数に k! が現れるのでしょうか。
多項式、
P(x)=c0+c1(x−a)+c2(x−a)2+⋯
を k 回微分して x=a を代入すると、k 次の項だけが k!ck を残します。
したがって、P(k)(a)=f(k)(a) と合わせるには、
ck=k!f(k)(a)
とすればよいことが分かります。
特に、
ex=k=0∑∞k!xk
log(1+x)=x−2x2+3x3−⋯(∣x∣<1)
です。
指数関数の展開はポアソン分布の確率母関数、対数の展開は尤度や漸近近似に使われます。
近似で残差を意識する
1次近似は、
f(a+h)≈f(a)+f′(a)h
です。2次まで使えば、
f(a+h)≈f(a)+f′(a)h+21f′′(a)h2
です。
デルタ法では1次項を、期待値の近似やバイアス補正では2次項まで使うことがあります。
デルタ法
確率変数 X が平均 μ の近くに集中しているとき、1次のテイラー近似から、
g(X)≈g(μ)+g′(μ)(X−μ)
です。両辺の分散を取ると、定数項は分散に影響しないので、
Var{g(X)}≈{g′(μ)}2Var(X)
を得ます。
さらに、
n(Xˉ−μ)dN(0,σ2)
なら、同じ1次近似から、
n{g(Xˉ)−g(μ)}dN(0,{g′(μ)}2σ2)
となります。オッズ、対数、比など、非線形な推定量の近似分散に使います。
無限和の項別微分・積分には条件があります。
有限和と同じ感覚で常に交換できるわけではありません。統計検定1級では、母関数が0の近傍で存在する、収束半径の内部で扱う、といった条件を意識します。
3. 1変数の微分
微分の定義
関数 f の x における微分係数は、
f′(x)=h→0limhf(x+h)−f(x)
です。
「入力を少し変えたとき、出力がどれくらい変わるか」を表します。
積の微分
hf(x+h)g(x+h)−f(x)g(x)
の分子に f(x+h)g(x) を足して引くと、
hf(x+h)−f(x)g(x+h)+f(x)hg(x+h)−g(x)
です。h→0 とすれば、
(fg)′=f′g+fg′
を得ます。
合成関数の微分
y=f(u)、u=g(x) のとき、変化量を分けると、
dxdy=dudydxdu
です。
したがって、
dxdf{g(x)}=f′{g(x)}g′(x)
です。
密度の変数変換、対数尤度、母関数の微分で頻出します。
対数微分
積やべき乗が多い正の関数 L(θ) は、対数を取ると計算しやすくなります。
ℓ(θ)=logL(θ)
なら、
ℓ′(θ)=L(θ)L′(θ)
です。L(θ)>0 なら、L′(θ)=0 と ℓ′(θ)=0 は同じ停留点を与えます。
積で表された尤度が和へ変わるため、最尤推定で使います。
極値と2階微分
f′(a)=0 で、
- f′′(a)>0 なら局所的な最小
- f′′(a)<0 なら局所的な最大
です。
2次近似、
f(a+h)≈f(a)+21f′′(a)h2
で、h2≥0 であることから符号の意味が分かります。
凸関数とJensenの不等式
凸関数 φ では、グラフが2点を結ぶ線分より下にあります。
φ{tx+(1−t)y}≤tφ(x)+(1−t)φ(y)(0≤t≤1)
これを確率的な重みへ拡張すると、
φ(E[X])≤E[φ(X)]
です。
例えば φ(x)=x2 なら、
{E[X]}2≤E[X2]
となり、Var(X)≥0 と同じ内容が得られます。
4. 1変数の積分
積分と確率
連続型確率変数では、密度の面積が確率です。
P(a<X≤b)=∫abfX(x)dx
密度となる条件は、
fX(x)≥0,∫−∞∞fX(x)dx=1
です。
置換積分の導出
u=g(x) とし、du=g′(x)dx と書けるとき、微小な幅の変換を補正して、
∫f{g(x)}g′(x)dx=∫f(u)du
です。
確率密度の変数変換で現れる、
fY(y)=fX{x(y)}dydx
の絶対値は、幅を負にしないための補正です。
部分積分の導出
積の微分、
(uv)′=u′v+uv′
を積分すると、
uv=∫u′vdx+∫uv′dx
です。移項して、
∫udv=uv−∫vdu
を得ます。
ガンマ関数の漸化式、期待値の裾確率表示、正規分布の積率で使います。
広義積分
無限区間の積分は極限で定義します。
∫0∞f(x)dx=b→∞lim∫0bf(x)dx
極限が有限値へ収束するときだけ、積分が存在します。
重い裾をもつ分布では、密度の積分は1でも期待値や分散が発散することがあります。
Leibnizの積分微分公式
H(t)=∫a(t)b(t)f(x,t)dx
を微分します。積分区間の変化と、被積分関数自体の変化を分けると、
dtdH=f{b(t),t}b′(t)−f{a(t),t}a′(t)+∫a(t)b(t)∂t∂f(x,t)dx
です。
上端が増えれば面積が増え、下端が増えれば面積が減るため、第2項には負号が付きます。
分布関数の微分、絶対偏差を最小にする中央値の証明、積分で定義された尤度の微分に使います。
5. 多変数微積分
偏微分
f(x,y) を x で偏微分するときは、y を固定します。
∂x∂f=h→0limhf(x+h,y)−f(x,y)
例えば、
f(x,y)=x2+xy+y2
なら、
∂x∂f=2x+y,∂y∂f=x+2y
です。
勾配ベクトル
偏微分を並べた、
∇f=∂f/∂x1⋮∂f/∂xp
を勾配といいます。
微小変化 dx に対して、
df≈(∇f)Tdx
なので、勾配は最も急に増加する方向を表します。
Hessian行列
2階偏微分を並べた行列、
Hf=∂x12∂2f⋮∂xp∂x1∂2f⋯⋱⋯∂x1∂xp∂2f⋮∂xp2∂2f
をHessian行列といいます。
多変数の2次近似は、
f(x+h)≈f(x)+(∇f)Th+21hTHfh
です。
最尤推定量の近似分散やFisher情報量の理解につながります。
Lagrangeの未定乗数法
制約、
g(x)=c
の下で f(x) を極値化します。
制約面上では、許される移動方向 dx が、
(∇g)Tdx=0
を満たします。
極値では、その許される方向へ動いても f が1次的に変化しないため、∇f は ∇g と平行でなければなりません。
∇f=λ∇g
そこで、
L(x,λ)=f(x)−λ{g(x)−c}
を作り、全変数で偏微分して0とおきます。
確率の総和が1という制約下の最適化などに使います。
重積分と積分順序
領域 D 上の二重積分は、
∬Df(x,y)dxdy
です。
三角形の領域、
D={(x,y):0<x<y<1}
なら、
∫01∫0yf(x,y)dxdy
または、
∫01∫x1f(x,y)dydx
と書けます。
先に領域を図示すると、積分範囲の取り違えを防げます。
ヤコビアン
変換、
u=g1(x,y),v=g2(x,y)
を考えます。小さな変化は、
(dudv)≈(∂u/∂x∂v/∂x∂u/∂y∂v/∂y)(dxdy)
です。
この行列が微小な長方形の辺を変換し、その面積の倍率が行列式の絶対値になります。
逆変換 x=x(u,v),y=y(u,v) を使うと、
dxdy=∂(u,v)∂(x,y)dudv
です。したがって、
fU,V(u,v)=fX,Y{x(u,v),y(u,v)}∂(u,v)∂(x,y)
となります。
6. 線形代数
ベクトルと内積
x=x1⋮xp
に対して、内積は、
xTy=i=1∑pxiyi
です。長さは、
∥x∥=xTx
です。
重み付き和、
Y=aTX
は、複数の確率変数を1つのスコアにまとめる線形結合です。
Cauchy–Schwarzの不等式
任意の実数 t に対して、長さの二乗は非負なので、
∥x−ty∥2≥0
です。展開すると、
∥y∥2t2−2(xTy)t+∥x∥2≥0
です。この2次式がすべての t で非負となるには、判別式が0以下でなければなりません。
4(xTy)2−4∥x∥2∥y∥2≤0
したがって、
∣xTy∣≤∥x∥∥y∥
です。確率変数を中心化した関数とみなすと、
∣Cov(X,Y)∣≤Var(X)Var(Y)
となり、−1≤Corr(X,Y)≤1 が得られます。
行列積
m×p 行列 A と p×n 行列 B の積は、
(AB)ij=k=1∑pAikBkj
です。
内側の次元 p が一致する必要があります。
転置には、
(AB)T=BTAT
という性質があります。順序が逆になる点が重要です。
行列式
2次正方行列、
A=(acbd)
の行列式は、
∣A∣=ad−bc
です。
平面上の面積が線形変換で何倍になるかを表し、ヤコビアンと同じ役割を持ちます。
∣A∣=0 なら、面積が0へつぶれる方向があるため逆変換できません。
逆行列の導出
A−1=ad−bc1(d−c−ba)
です。実際に掛けると、
A(d−c−ba)=(ad−bc00ad−bc)
なので、ad−bc で割れば単位行列になります。
二次形式
q(x)=xTAx
を二次形式といいます。2次元なら、
q(x,y)=A11x2+(A12+A21)xy+A22y2
です。
共分散行列 Σ に対して、
aTΣa=Var(aTX)≥0
です。このように、すべての a で二次形式が非負となる行列を半正定値行列といいます。
固有値と固有ベクトル
行列を掛けても向きが変わらず、長さだけが λ 倍されるベクトル v を考えます。
Av=λv
移項すると、
(A−λI)v=0
です。v=0 となる解が存在するには、A−λI が逆行列を持たない必要があります。
したがって、
∣A−λI∣=0
を解いて固有値を求めます。
実対称行列では、互いに直交する固有ベクトルを選べます。
共分散行列を、
Σ=QΛQT
と分解すると、Q の列が楕円の軸方向、Λ の対角成分が各方向の分散です。
これが主成分分析の数学的基礎です。
トレース
正方行列の対角成分の和、
tr(A)=i∑Aii
をトレースといいます。
共分散行列では、
tr(Σ)=i=1∑pVar(Xi)
なので、各変数の分散の総和です。
線形変換の平均と共分散
Y=AX+b
なら、期待値の線形性から、
E[Y]=AE[X]+b
です。
また、μ=E[X] とすると、
Y−E[Y]=A(X−μ)
なので、
Cov(Y)=E[{A(X−μ)}{A(X−μ)}T]=AE[(X−μ)(X−μ)T]AT=AΣAT
です。
マハラノビス距離
D2=(x−μ)TΣ−1(x−μ)
は、分散が大きい方向の差を小さく、分散が小さい方向の差を大きく評価します。
相関も補正するため、複数バイオマーカーの同時外れ値を考える基礎になります。
7. ガンマ関数とベータ関数
ガンマ関数
α>0 に対して、
Γ(α)=∫0∞xα−1e−xdx
と定義します。
部分積分で u=xα、dv=e−xdx とすると、
du=αxα−1dx,v=−e−x
です。境界項が0になるため、
Γ(α+1)=αΓ(α)
を得ます。
Γ(1)=1 なので、正の整数 n では、
Γ(n)=(n−1)!
です。
ベータ関数
α,β>0 に対して、
B(α,β)=∫01xα−1(1−x)β−1dx
と定義します。
ベータ分布の正規化定数に現れます。
ベータ関数とガンマ関数の関係
積、
Γ(α)Γ(β)=∫0∞∫0∞xα−1yβ−1e−(x+y)dxdy
を考えます。
r=x+y,u=x+yx
とおくと、
x=ru,y=r(1−u)
です。台は r>0,0<u<1 で、ヤコビアンの絶対値は r です。
したがって、
Γ(α)Γ(β)=∫0∞∫01(ru)α−1{r(1−u)}β−1e−rrdudr={∫0∞rα+β−1e−rdr}{∫01uα−1(1−u)β−1du}=Γ(α+β)B(α,β)
です。よって、
B(α,β)=Γ(α+β)Γ(α)Γ(β)
を得ます。
この関係から、ガンマ分布、ベータ分布、ベータ二項分布、Dirichlet分布の正規化や積率をまとめて扱えます。
8. 尤度・スコア・Fisher情報量の数学
尤度と対数尤度
観測値 x1,…,xn が独立で密度 f(x;θ) をもつとき、尤度は、
L(θ)=i=1∏nf(xi;θ)
です。対数尤度は、
ℓ(θ)=logL(θ)=i=1∑nlogf(xi;θ)
です。
積が和へ変わり、微分しやすくなります。
スコア関数
まず1観測 X に対する対数尤度を、
ℓ1(θ)=logf(X;θ)
とします。そのスコア関数を、
U1(θ)=∂θ∂ℓ1(θ)
といいます。
正則条件の下で、
Eθ[U1(θ)]=0
です。
導出は、
Eθ[U1(θ)]=∫∂θ∂logf(x;θ)f(x;θ)dx=∫f(x;θ)1∂θ∂f(x;θ)f(x;θ)dx=∂θ∂∫f(x;θ)dx=∂θ∂1=0
です。微分と積分を交換できることが条件です。
独立な n 観測では、標本全体のスコアは、
Un(θ)=i=1∑nU1i(θ)
です。
Fisher情報量
1観測当たりのFisher情報量を、
I1(θ)=Eθ[U1(θ)2]
と定義します。E[U1]=0 なので、スコアの分散でもあります。
独立な n 観測では情報量が加わり、In(θ)=nI1(θ) です。
正則条件の下では、
I1(θ)=−Eθ[∂θ2∂2ℓ1(θ)]
です。
情報量が大きいほど、対数尤度が真の母数付近で鋭く曲がり、母数を精密に推定しやすいと解釈できます。
9. 統計検定1級での使い分け
| 問題の形 | 最初に選ぶ数学 | 確認する条件 |
|---|
| 少なくとも1回 | 補集合、De Morgan | 独立性、試行回数 |
| 確率関数の総和 | 二項・多項定理、級数 | 台、収束範囲 |
| 密度の正規化・期待値 | 置換積分、部分積分 | 積分区間、収束 |
| 母関数から積率 | 級数、微分 | 0または1の近傍での存在 |
| 変数変換 | 逆変換、ヤコビアン | 1対1性、逆像、変換後の台 |
| 多変量正規 | 行列積、逆行列、二次形式 | 共分散行列の正定値性 |
| 最尤推定 | 対数微分、偏微分 | 母数空間、端点、最大かどうか |
| 漸近近似 | テイラー展開、Hessian | 標本サイズ、正則条件 |
| 制約付き最適化 | Lagrange法 | 制約式、境界解 |
答案の基本形
- 変数と台を書く
- 使用する定理と条件を書く
- 式を立てる
- 微分・積分・行列計算を行う
- 得られた値を確率・平均・分散などの意味へ戻す
10. 数学コラム確認問題
問題1:指示関数
事象 A,B について、
IA∪B=IA+IB−IAIB
を用いて、P(A∪B) の公式を導いてください。
解答1
両辺の期待値を取ると、E[IA]=P(A)、IAIB=IA∩B より、
P(A∪B)=P(A)+P(B)−P(A∩B)
です。
問題2:二項係数の和
r=0∑n(rn)
を求めてください。
解答2
二項定理で a=b=1 とすると、
(1+1)n=r=0∑n(rn)1n−r1r
なので、
r=0∑n(rn)=2n
です。
問題3:等比級数の微分
∣s∣<1 で、
k=0∑∞sk=1−s1
を微分し、∑k=1∞ksk−1 を求めてください。
解答3
収束半径の内部で項別微分すると、
k=1∑∞ksk−1=(1−s)21
です。幾何分布の期待値計算に使えます。
問題4:部分積分
∫0∞xe−xdx
を部分積分で求めてください。
解答4
u=x,dv=e−xdx とすると、du=dx,v=−e−x なので、
∫0∞xe−xdx=[−xe−x]0∞+∫0∞e−xdx=0+1=1
です。
問題5:1変数の変数変換
Y=eX とします。X の密度が fX(x) のとき、Y の密度を求めてください。
解答5
逆変換は x=logy、ヤコビアンは、
dydx=y1
です。y>0 で、
fY(y)=fX(logy)y1
です。
問題6:Leibnizの公式
H(t)=∫0t(x−t)2f(x)dx
を t で微分してください。
解答6
上端の境界項は (t−t)2f(t)=0 です。被積分関数を偏微分すると、
∂t∂{(x−t)2f(x)}=−2(x−t)f(x)
なので、
H′(t)=−2∫0t(x−t)f(x)dx
です。
問題7:Hessian
f(x,y)=x2+2xy+3y2
の勾配とHessian行列を求めてください。
解答7
∇f=(2x+2y2x+6y)
Hf=(2226)
です。
問題8:ヤコビアン
u=x+y,v=x−y
の逆変換と ∣∂(x,y)/∂(u,v)∣ を求めてください。
解答8
連立して、
x=2u+v,y=2u−v
です。したがって、
∂(u,v)∂(x,y)=1/21/21/2−1/2=−21=21
です。
問題9:線形結合の分散
共分散行列が Σ の確率ベクトル X に対して、Y=aTX の分散を求めてください。
解答9
Y−E[Y]=aT(X−E[X])
なので、
Var(Y)=aTΣa
です。
問題10:固有値
A=(2112)
の固有値を求めてください。
解答10
∣A−λI∣=2−λ112−λ=(2−λ)2−1
です。これを0とおくと、
(2−λ)2=1
より、
λ=3,1
です。両方正なので、A は正定値です。
問題11:ガンマ関数
Γ(5) を漸化式から求めてください。
解答11
Γ(5)=4Γ(4)=4⋅3Γ(3)=4⋅3⋅2Γ(2)=4!=24
です。
問題12:制約付き最適化
x+y=1 の下で x2+y2 を最小にしてください。
解答12
L(x,y,λ)=x2+y2−λ(x+y−1)
とおきます。
2x−λ=0,2y−λ=0
より x=y です。制約へ代入して、
x=y=21
です。最小値は、
(21)2+(21)2=21
です。
まとめ
- 集合と数え上げは、確率の事象と確率関数を組み立てる
- 級数とテイラー展開は、母関数と漸近近似を支える
- 微分は最適化と母関数、積分は密度・期待値・変数変換を支える
- 多変数微積分では、偏微分、Hessian、重積分、ヤコビアンが重要になる
- 線形代数では、共分散行列、二次形式、固有値が多変量分布を記述する
- ガンマ関数とベータ関数は、多くの確率分布の正規化と積率を統一する
- 数式の操作だけでなく、台、収束、独立性、正則条件を答案に残す
数学は統計から独立した暗記事項ではありません。
「どの確率モデルを、どの変換や近似で扱える形にするか」を支える共通言語です。