このコラムの目的

統計検定1級の確率・統計では、確率分布の公式だけでなく、その背後にある数学を使って式を変形します。 特に必要になるのは、次の道具です。

  • 集合と数え上げ
  • 数列、級数、テイラー展開
  • 1変数の微分・積分
  • 偏微分、重積分、ヤコビアン
  • ベクトル、行列、固有値、二次形式
  • ガンマ関数、ベータ関数
  • 制約付き最適化

このコラムでは、高校数学の範囲を越える内容について、できるだけ定義または直前の式から導きます。 目的は証明を暗記することではなく、統計の問題で「なぜこの操作を使うのか」を判断できるようになることです。

数式が苦手なときは、記号を日本語へ戻す

数式は一度に全体を理解しようとせず、記号を短い日本語へ置き換えます。 例えば、

P(aXb)=abf(x)dxP(a\leq X\leq b)=\int_a^b f(x)\,dx

は、「確率変数 XXaa から bb に入る確率は、その区間で密度を足し合わせた面積である」と読みます。

記号読み方統計での役割
\sum離れた値を足す離散分布の確率・期待値
\int連続的に足す連続分布の確率・期待値
d/dxd/dx入力を少し動かしたときの変化密度、最適化、母関数
/x\partial/\partial xほかを固定した偏微分多変量密度、尤度、Fisher情報量
x,Σ\mathbf x,\boldsymbol\Sigmaベクトル、共分散行列多変量正規分布、二次形式
Γ,B\Gamma, Bガンマ関数、ベータ関数分布の正規化、積率
このコラムは最初から通読しなくて大丈夫です

本文で分からない操作が出たときに、対応する節へ戻る辞書として使ってください。1周目は式の意味と簡単な例、2周目で導出、3周目で確認問題という順で十分です。

各章との対応

ブログ記事主に使う数学直接移動
第一章 事象と確率集合、数え上げ、条件の分割第一章へ
第二章 確率分布と期待値級数、微積分、変数変換第二章へ
第三章 さまざまな確率分布ガンマ・ベータ関数、近似、標本分布第三章へ
第四章 多次元確率変数偏微分、ヤコビアン、行列、二次形式第四章へ
第五章 標本分布とその近似Taylor展開、極限、ガンマ関数、直交分解第五章へ
式を読む順序

記号の定義、変数が動く範囲、使った定理の条件、最後に得られた量の意味、という順に確認します。式変形だけが合っていても、台や独立性などの条件が抜けると確率の答案として不十分です。

1. 集合・論理・数え上げ

集合演算を確率へ翻訳する

事象 A,BA,B に対して、

集合の記号意味確率での読み方
ABA\cup BAA または BB少なくとも一方が起こる
ABA\cap BAA かつ BB両方が起こる
AcA^cAA の補集合AA が起こらない
ABA\setminus BAA だが BB でないABcA\cap B^c

重複を二重に数えないようにすると、

P(AB)=P(A)+P(B)P(AB)P(A\cup B) =P(A)+P(B)-P(A\cap B)

です。

指示関数を使うと、この関係を点ごとに、

IAB=IA+IBIAIBI_{A\cup B}=I_A+I_B-I_AI_B

と書けます。両辺の期待値を取れば、確率の加法公式が得られます。

De Morganの法則

「少なくとも1つ起こる」の反対は「すべて起こらない」です。

(i=1nAi)c=i=1nAic\left(\bigcup_{i=1}^n A_i\right)^c =\bigcap_{i=1}^n A_i^c

同様に、

(i=1nAi)c=i=1nAic\left(\bigcap_{i=1}^n A_i\right)^c =\bigcup_{i=1}^n A_i^c

です。 「少なくとも1回」の確率を余事象から求めるときに使います。

順列と組合せ

nn 個から順序を区別して rr 個を並べる方法は、

nPr=n(n1)(nr+1)=n!(nr)!{}_nP_r=n(n-1)\cdots(n-r+1) =\frac{n!}{(n-r)!}

通りです。

組合せでは、同じ rr 個を選んだ後の r!r! 通りの並べ方を区別しません。 したがって、

(nr)=nPrr!=n!r!(nr)!\binom nr =\frac{{}_nP_r}{r!} =\frac{n!}{r!(n-r)!}

です。

二項定理と多項定理

(a+b)n(a+b)^n を展開したとき、aanrn-r 回、bbrr 回選ぶ項は (nr)\binom nr 個あります。 よって、

(a+b)n=r=0n(nr)anrbr(a+b)^n =\sum_{r=0}^n\binom nr a^{n-r}b^r

です。

kk 個の項へ拡張すると、

(x1++xk)n=n1++nk=nn!n1!nk!j=1kxjnj(x_1+\cdots+x_k)^n = \sum_{n_1+\cdots+n_k=n} \frac{n!}{n_1!\cdots n_k!} \prod_{j=1}^k x_j^{n_j}

となります。 二項分布、多項分布、積率母関数の導出に直結します。

何の情報から何を学べるか

  • 二値試行の成功数から、二項係数と成功確率を組み合わせた確率が得られる
  • 非復元抽出では、母集団中の組合せを分母にして超幾何分布が得られる
  • 複数カテゴリの個数から、多項係数を使ってカテゴリ構成の確率が得られる

2. 数列・級数・テイラー展開

有限和の記号

i=1nxi=x1++xn\sum_{i=1}^n x_i=x_1+\cdots+x_n

です。和には線形性があり、定数 a,ba,b に対して、

i=1n(axi+byi)=ai=1nxi+bi=1nyi\sum_{i=1}^n(ax_i+by_i) =a\sum_{i=1}^n x_i+b\sum_{i=1}^n y_i

です。この性質が期待値の線形性と対応します。

等比級数の導出

Sn=1+r+r2++rnS_n=1+r+r^2+\cdots+r^n

とおきます。両辺を rr 倍して引くと、

SnrSn=1rn+1S_n-rS_n=1-r^{n+1}

なので、r1r\neq1 なら、

Sn=1rn+11rS_n=\frac{1-r^{n+1}}{1-r}

です。r<1|r|<1 なら nn\to\inftyrn+10r^{n+1}\to0 なので、

k=0rk=11r\sum_{k=0}^{\infty}r^k=\frac1{1-r}

を得ます。 幾何分布の確率の総和や期待値計算で使います。

テイラー展開

十分滑らかな関数 ffx=ax=a の近くで多項式に近似すると、

f(x)=f(a)+f(a)(xa)+f(a)2!(xa)2+f(x) =f(a)+f'(a)(x-a) +\frac{f''(a)}{2!}(x-a)^2+\cdots

です。

なぜ係数に k!k! が現れるのでしょうか。 多項式、

P(x)=c0+c1(xa)+c2(xa)2+P(x)=c_0+c_1(x-a)+c_2(x-a)^2+\cdots

kk 回微分して x=ax=a を代入すると、kk 次の項だけが k!ckk!c_k を残します。 したがって、P(k)(a)=f(k)(a)P^{(k)}(a)=f^{(k)}(a) と合わせるには、

ck=f(k)(a)k!c_k=\frac{f^{(k)}(a)}{k!}

とすればよいことが分かります。

特に、

ex=k=0xkk!e^x=\sum_{k=0}^{\infty}\frac{x^k}{k!} log(1+x)=xx22+x33(x<1)\log(1+x) =x-\frac{x^2}{2}+\frac{x^3}{3}-\cdots \qquad(|x|<1)

です。

指数関数の展開はポアソン分布の確率母関数、対数の展開は尤度や漸近近似に使われます。

近似で残差を意識する

1次近似は、

f(a+h)f(a)+f(a)hf(a+h)\approx f(a)+f'(a)h

です。2次まで使えば、

f(a+h)f(a)+f(a)h+12f(a)h2f(a+h) \approx f(a)+f'(a)h+\frac12f''(a)h^2

です。 デルタ法では1次項を、期待値の近似やバイアス補正では2次項まで使うことがあります。

デルタ法

確率変数 XX が平均 μ\mu の近くに集中しているとき、1次のテイラー近似から、

g(X)g(μ)+g(μ)(Xμ)g(X)\approx g(\mu)+g'(\mu)(X-\mu)

です。両辺の分散を取ると、定数項は分散に影響しないので、

Var{g(X)}{g(μ)}2Var(X)\mathrm{Var}\{g(X)\} \approx\{g'(\mu)\}^2\mathrm{Var}(X)

を得ます。

さらに、

n(Xˉμ)dN(0,σ2)\sqrt n(\bar X-\mu) \xrightarrow{d}N(0,\sigma^2)

なら、同じ1次近似から、

n{g(Xˉ)g(μ)}dN(0,{g(μ)}2σ2)\sqrt n\{g(\bar X)-g(\mu)\} \xrightarrow{d} N\left(0,\{g'(\mu)\}^2\sigma^2\right)

となります。オッズ、対数、比など、非線形な推定量の近似分散に使います。

INTERACTIVE

テイラー展開と近似誤差

展開次数を上げたとき、近似できる範囲と誤差がどう変わるかを比較します。

真の値
近似値
絶対誤差
関数とテイラー多項式を比較するグラフです。
無限和の項別微分・積分には条件があります。

有限和と同じ感覚で常に交換できるわけではありません。統計検定1級では、母関数が0の近傍で存在する、収束半径の内部で扱う、といった条件を意識します。

3. 1変数の微分

微分の定義

関数 ffxx における微分係数は、

f(x)=limh0f(x+h)f(x)hf'(x) =\lim_{h\to0}\frac{f(x+h)-f(x)}{h}

です。 「入力を少し変えたとき、出力がどれくらい変わるか」を表します。

積の微分

f(x+h)g(x+h)f(x)g(x)h\frac{f(x+h)g(x+h)-f(x)g(x)}{h}

の分子に f(x+h)g(x)f(x+h)g(x) を足して引くと、

f(x+h)f(x)hg(x+h)+f(x)g(x+h)g(x)h\frac{f(x+h)-f(x)}{h}g(x+h) +f(x)\frac{g(x+h)-g(x)}{h}

です。h0h\to0 とすれば、

(fg)=fg+fg(fg)'=f'g+fg'

を得ます。

合成関数の微分

y=f(u)y=f(u)u=g(x)u=g(x) のとき、変化量を分けると、

dydx=dydududx\frac{dy}{dx} =\frac{dy}{du}\frac{du}{dx}

です。 したがって、

ddxf{g(x)}=f{g(x)}g(x)\frac{d}{dx}f\{g(x)\} =f'\{g(x)\}g'(x)

です。 密度の変数変換、対数尤度、母関数の微分で頻出します。

対数微分

積やべき乗が多い正の関数 L(θ)L(\theta) は、対数を取ると計算しやすくなります。

(θ)=logL(θ)\ell(\theta)=\log L(\theta)

なら、

(θ)=L(θ)L(θ)\ell'(\theta) =\frac{L'(\theta)}{L(\theta)}

です。L(θ)>0L(\theta)>0 なら、L(θ)=0L'(\theta)=0(θ)=0\ell'(\theta)=0 は同じ停留点を与えます。 積で表された尤度が和へ変わるため、最尤推定で使います。

極値と2階微分

f(a)=0f'(a)=0 で、

  • f(a)>0f''(a)>0 なら局所的な最小
  • f(a)<0f''(a)<0 なら局所的な最大

です。 2次近似、

f(a+h)f(a)+12f(a)h2f(a+h)\approx f(a)+\frac12f''(a)h^2

で、h20h^2\geq0 であることから符号の意味が分かります。

凸関数とJensenの不等式

凸関数 φ\varphi では、グラフが2点を結ぶ線分より下にあります。

φ{tx+(1t)y}tφ(x)+(1t)φ(y)(0t1)\varphi\{tx+(1-t)y\} \leq t\varphi(x)+(1-t)\varphi(y) \qquad(0\leq t\leq1)

これを確率的な重みへ拡張すると、

φ(E[X])E[φ(X)]\varphi(E[X])\leq E[\varphi(X)]

です。 例えば φ(x)=x2\varphi(x)=x^2 なら、

{E[X]}2E[X2]\{E[X]\}^2\leq E[X^2]

となり、Var(X)0\mathrm{Var}(X)\geq0 と同じ内容が得られます。

4. 1変数の積分

積分と確率

連続型確率変数では、密度の面積が確率です。

P(a<Xb)=abfX(x)dxP(a<X\leq b)=\int_a^b f_X(x)\,dx

密度となる条件は、

fX(x)0,fX(x)dx=1f_X(x)\geq0, \qquad \int_{-\infty}^{\infty}f_X(x)\,dx=1

です。

置換積分の導出

u=g(x)u=g(x) とし、du=g(x)dxdu=g'(x)dx と書けるとき、微小な幅の変換を補正して、

f{g(x)}g(x)dx=f(u)du\int f\{g(x)\}g'(x)\,dx =\int f(u)\,du

です。

確率密度の変数変換で現れる、

fY(y)=fX{x(y)}dxdyf_Y(y)=f_X\{x(y)\}\left|\frac{dx}{dy}\right|

の絶対値は、幅を負にしないための補正です。

部分積分の導出

積の微分、

(uv)=uv+uv(uv)'=u'v+uv'

を積分すると、

uv=uvdx+uvdxuv=\int u'v\,dx+\int uv'\,dx

です。移項して、

udv=uvvdu\int u\,dv=uv-\int v\,du

を得ます。 ガンマ関数の漸化式、期待値の裾確率表示、正規分布の積率で使います。

広義積分

無限区間の積分は極限で定義します。

0f(x)dx=limb0bf(x)dx\int_0^\infty f(x)\,dx =\lim_{b\to\infty}\int_0^b f(x)\,dx

極限が有限値へ収束するときだけ、積分が存在します。 重い裾をもつ分布では、密度の積分は1でも期待値や分散が発散することがあります。

Leibnizの積分微分公式

H(t)=a(t)b(t)f(x,t)dxH(t)=\int_{a(t)}^{b(t)}f(x,t)\,dx

を微分します。積分区間の変化と、被積分関数自体の変化を分けると、

dHdt=f{b(t),t}b(t)f{a(t),t}a(t)+a(t)b(t)f(x,t)tdx\frac{dH}{dt} =f\{b(t),t\}b'(t) -f\{a(t),t\}a'(t) +\int_{a(t)}^{b(t)} \frac{\partial f(x,t)}{\partial t}\,dx

です。

上端が増えれば面積が増え、下端が増えれば面積が減るため、第2項には負号が付きます。 分布関数の微分、絶対偏差を最小にする中央値の証明、積分で定義された尤度の微分に使います。

5. 多変数微積分

偏微分

f(x,y)f(x,y)xx で偏微分するときは、yy を固定します。

fx=limh0f(x+h,y)f(x,y)h\frac{\partial f}{\partial x} =\lim_{h\to0} \frac{f(x+h,y)-f(x,y)}{h}

例えば、

f(x,y)=x2+xy+y2f(x,y)=x^2+xy+y^2

なら、

fx=2x+y,fy=x+2y\frac{\partial f}{\partial x}=2x+y, \qquad \frac{\partial f}{\partial y}=x+2y

です。

勾配ベクトル

偏微分を並べた、

f=(f/x1f/xp)\nabla f = \begin{pmatrix} \partial f/\partial x_1\\ \vdots\\ \partial f/\partial x_p \end{pmatrix}

を勾配といいます。 微小変化 dxd\mathbf x に対して、

df(f)Tdxdf\approx(\nabla f)^\mathsf T d\mathbf x

なので、勾配は最も急に増加する方向を表します。

勾配の内積を単変量の微分へ戻す

単変量ならdff(x)dxdf\approx f'(x)\,dx です。多変量では、各偏微分と各入力の微小変化を掛けて、i(f/xi)dxi\sum_i(\partial f/\partial x_i)dx_i と足します。(f)Tdx(\nabla f)^T d\mathbf x はこの総和を1行で書いたものです。

Hessian行列

2階偏微分を並べた行列、

Hf=(2fx122fx1xp2fxpx12fxp2)\mathbf H_f = \begin{pmatrix} \dfrac{\partial^2f}{\partial x_1^2}&\cdots& \dfrac{\partial^2f}{\partial x_1\partial x_p}\\ \vdots&\ddots&\vdots\\ \dfrac{\partial^2f}{\partial x_p\partial x_1}&\cdots& \dfrac{\partial^2f}{\partial x_p^2} \end{pmatrix}

をHessian行列といいます。

多変数の2次近似は、

f(x+h)f(x)+(f)Th+12hTHfhf(\mathbf x+\mathbf h) \approx f(\mathbf x) +(\nabla f)^\mathsf T\mathbf h +\frac12\mathbf h^\mathsf T \mathbf H_f\mathbf h

です。 最尤推定量の近似分散やFisher情報量の理解につながります。

Hessianの二次形式を単変量のTaylor展開へ戻す

単変量ならf(x+h)f(x)+f(x)h+f(x)h2/2f(x+h)\approx f(x)+f'(x)h+f''(x)h^2/2 です。Hessian Hf\mathbf H_ff(x)f''(x) を多変量化した表で、hTHfh\mathbf h^T\mathbf H_f\mathbf h は各方向の2階微分と交互作用をまとめた数です。

  1. Hfh\mathbf H_f\mathbf h で変化方向ごとの曲率を重み付けする。
  2. 左から hT\mathbf h^T を掛け、1個の2次変化量へ合計する。

Lagrangeの未定乗数法

制約、

g(x)=cg(\mathbf x)=c

の下で f(x)f(\mathbf x) を極値化します。 制約面上では、許される移動方向 dxd\mathbf x が、

(g)Tdx=0(\nabla g)^\mathsf T d\mathbf x=0

を満たします。 極値では、その許される方向へ動いても ff が1次的に変化しないため、f\nabla fg\nabla g と平行でなければなりません。

f=λg\nabla f=\lambda\nabla g

そこで、

L(x,λ)=f(x)λ{g(x)c}L(\mathbf x,\lambda) =f(\mathbf x)-\lambda\{g(\mathbf x)-c\}

を作り、全変数で偏微分して0とおきます。 確率の総和が1という制約下の最適化などに使います。

重積分と積分順序

領域 DD 上の二重積分は、

Df(x,y)dxdy\iint_D f(x,y)\,dx\,dy

です。 三角形の領域、

D={(x,y):0<x<y<1}D=\{(x,y):0<x<y<1\}

なら、

010yf(x,y)dxdy\int_0^1\int_0^y f(x,y)\,dx\,dy

または、

01x1f(x,y)dydx\int_0^1\int_x^1 f(x,y)\,dy\,dx

と書けます。 先に領域を図示すると、積分範囲の取り違えを防げます。

ヤコビアン

変換、

u=g1(x,y),v=g2(x,y)u=g_1(x,y), \qquad v=g_2(x,y)

を考えます。小さな変化は、

(dudv)(u/xu/yv/xv/y)(dxdy)\begin{pmatrix}du\\dv\end{pmatrix} \approx \begin{pmatrix} \partial u/\partial x&\partial u/\partial y\\ \partial v/\partial x&\partial v/\partial y \end{pmatrix} \begin{pmatrix}dx\\dy\end{pmatrix}

です。 この行列が微小な長方形の辺を変換し、その面積の倍率が行列式の絶対値になります。

逆変換 x=x(u,v),y=y(u,v)x=x(u,v),y=y(u,v) を使うと、

dxdy=(x,y)(u,v)dudvdx\,dy = \left| \frac{\partial(x,y)}{\partial(u,v)} \right|du\,dv

です。したがって、

fU,V(u,v)=fX,Y{x(u,v),y(u,v)}(x,y)(u,v)f_{U,V}(u,v) =f_{X,Y}\{x(u,v),y(u,v)\} \left| \frac{\partial(x,y)}{\partial(u,v)} \right|

となります。

INTERACTIVE

ヤコビアンと面積の変化

線形変換が格子と単位正方形をどう変形し、行列式が面積倍率になるかを確認します。

det(A)
面積倍率 |det(A)|
向き
線形変換前後の格子と単位正方形を比較する図です。

6. 線形代数

ベクトルと内積

x=(x1xp)\mathbf x= \begin{pmatrix}x_1\\\vdots\\x_p\end{pmatrix}

に対して、内積は、

xTy=i=1pxiyi\mathbf x^\mathsf T\mathbf y =\sum_{i=1}^p x_i y_i

です。長さは、

x=xTx\|\mathbf x\| =\sqrt{\mathbf x^\mathsf T\mathbf x}

です。

重み付き和、

Y=aTXY=\mathbf a^\mathsf T\mathbf X

は、複数の確率変数を1つのスコアにまとめる線形結合です。

ベクトルの転置と内積を成分で計算する

単変量ならY=aXY=aX です。例えば a=(2,1)T\mathbf a=(2,-1)^TX=(X1,X2)T\mathbf X=(X_1,X_2)^T なら、転置した aT\mathbf a^T を掛け、Y=2X1X2Y=2X_1-X_2 と計算します。

「縦ベクトルを横向きにする → 同じ位置どうしを掛ける → 全部足す」が内積の計算順序です。

Cauchy–Schwarzの不等式

任意の実数 tt に対して、長さの二乗は非負なので、

xty20\|\mathbf x-t\mathbf y\|^2\geq0

です。展開すると、

y2t22(xTy)t+x20\|\mathbf y\|^2t^2 -2(\mathbf x^\mathsf T\mathbf y)t +\|\mathbf x\|^2\geq0

です。この2次式がすべての tt で非負となるには、判別式が0以下でなければなりません。

4(xTy)24x2y204(\mathbf x^\mathsf T\mathbf y)^2 -4\|\mathbf x\|^2\|\mathbf y\|^2 \leq0

したがって、

xTyxy|\mathbf x^\mathsf T\mathbf y| \leq\|\mathbf x\|\|\mathbf y\|

です。確率変数を中心化した関数とみなすと、

Cov(X,Y)Var(X)Var(Y)|\mathrm{Cov}(X,Y)| \leq\sqrt{\mathrm{Var}(X)\mathrm{Var}(Y)}

となり、1Corr(X,Y)1-1\leq\mathrm{Corr}(X,Y)\leq1 が得られます。

行列積

m×pm\times p 行列 A\mathbf Ap×np\times n 行列 B\mathbf B の積は、

(AB)ij=k=1pAikBkj(\mathbf A\mathbf B)_{ij} =\sum_{k=1}^p A_{ik}B_{kj}

です。 内側の次元 pp が一致する必要があります。

行列積を単変量の掛け算へ戻す

各行列が1行1列なら、行列積は普通の数の掛け算 abab です。一般には、左行列の1行と右行列の1列を内積し、その値を出力の1要素に置きます。

  1. 出力したい位置 (i,j)(i,j) を決める。
  2. AA の第 ii 行と BB の第 jj 列を取り出す。
  3. 対応要素を掛けて足す。

転置には、

(AB)T=BTAT(\mathbf A\mathbf B)^\mathsf T =\mathbf B^\mathsf T\mathbf A^\mathsf T

という性質があります。順序が逆になる点が重要です。

行列式

2次正方行列、

A=(abcd)\mathbf A= \begin{pmatrix}a&b\\c&d\end{pmatrix}

の行列式は、

A=adbc|\mathbf A|=ad-bc

です。 平面上の面積が線形変換で何倍になるかを表し、ヤコビアンと同じ役割を持ちます。

A=0|\mathbf A|=0 なら、面積が0へつぶれる方向があるため逆変換できません。

逆行列の導出

A1=1adbc(dbca)\mathbf A^{-1} =\frac1{ad-bc} \begin{pmatrix}d&-b\\-c&a\end{pmatrix}

です。実際に掛けると、

A(dbca)=(adbc00adbc)\mathbf A \begin{pmatrix}d&-b\\-c&a\end{pmatrix} = \begin{pmatrix}ad-bc&0\\0&ad-bc\end{pmatrix}

なので、adbcad-bc で割れば単位行列になります。

二次形式

q(x)=xTAxq(\mathbf x)=\mathbf x^\mathsf T\mathbf A\mathbf x

を二次形式といいます。2次元なら、

q(x,y)=A11x2+(A12+A21)xy+A22y2q(x,y)=A_{11}x^2+(A_{12}+A_{21})xy+A_{22}y^2

です。

二次形式を単変量と2変量へ展開する

単変量ならq(x)=Ax2q(x)=Ax^2 です。2変量では、右から Ax\mathbf A\mathbf x を計算し、最後に左から xT\mathbf x^T を掛けます。対称行列なら交差項は 2A12xy2A_{12}xy になり、分散の式に現れる 2a1a2Cov(X1,X2)2a_1a_2\operatorname{Cov}(X_1,X_2) と同じ構造です。

共分散行列 Σ\boldsymbol\Sigma に対して、

aTΣa=Var(aTX)0\mathbf a^\mathsf T \boldsymbol\Sigma\mathbf a =\mathrm{Var}(\mathbf a^\mathsf T\mathbf X) \geq0

です。このように、すべての a\mathbf a で二次形式が非負となる行列を半正定値行列といいます。

固有値と固有ベクトル

行列を掛けても向きが変わらず、長さだけが λ\lambda 倍されるベクトル v\mathbf v を考えます。

Av=λv\mathbf A\mathbf v=\lambda\mathbf v

移項すると、

(AλI)v=0(\mathbf A-\lambda\mathbf I)\mathbf v=\mathbf0

です。v0\mathbf v\neq\mathbf0 となる解が存在するには、AλI\mathbf A-\lambda\mathbf I が逆行列を持たない必要があります。 したがって、

AλI=0|\mathbf A-\lambda\mathbf I|=0

を解いて固有値を求めます。

実対称行列では、互いに直交する固有ベクトルを選べます。 共分散行列を、

Σ=QΛQT\boldsymbol\Sigma =\mathbf Q\boldsymbol\Lambda\mathbf Q^\mathsf T

と分解すると、Q\mathbf Q の列が楕円の軸方向、Λ\boldsymbol\Lambda の対角成分が各方向の分散です。 これが主成分分析の数学的基礎です。

固有値分解を1次元の分散へ戻す

単変量ならΣ=σ2\Sigma=\sigma^2 だけで、固有値は σ2\sigma^2、固有ベクトルは数直線の方向です。多変量では QT\mathbf Q^T で相関した座標を回転し、Λ\boldsymbol\Lambda の対角に直交方向ごとの分散を並べ、Q\mathbf Q で元の向きへ戻します。

INTERACTIVE

共分散行列・固有値・線形結合

共分散楕円の主軸と、選んだ方向への射影分散を同時に表示します。

共分散
固有値 λ1, λ2
射影分散 aᵀΣa
共分散楕円、固有ベクトル、線形結合の分布を示す図です。

トレース

正方行列の対角成分の和、

tr(A)=iAii\mathrm{tr}(\mathbf A)=\sum_i A_{ii}

をトレースといいます。 共分散行列では、

tr(Σ)=i=1pVar(Xi)\mathrm{tr}(\boldsymbol\Sigma) =\sum_{i=1}^p\mathrm{Var}(X_i)

なので、各変数の分散の総和です。

線形変換の平均と共分散

Y=AX+b\mathbf Y=\mathbf A\mathbf X+\mathbf b

なら、期待値の線形性から、

E[Y]=AE[X]+bE[\mathbf Y] =\mathbf A E[\mathbf X]+\mathbf b

です。

また、μ=E[X]\boldsymbol\mu=E[\mathbf X] とすると、

YE[Y]=A(Xμ)\mathbf Y-E[\mathbf Y] =\mathbf A(\mathbf X-\boldsymbol\mu)

なので、

Cov(Y)=E[{A(Xμ)}{A(Xμ)}T]=AE[(Xμ)(Xμ)T]AT=AΣAT\begin{aligned} \mathrm{Cov}(\mathbf Y) &=E[\{\mathbf A(\mathbf X-\boldsymbol\mu)\} \{\mathbf A(\mathbf X-\boldsymbol\mu)\}^\mathsf T]\\ &=\mathbf A E[(\mathbf X-\boldsymbol\mu) (\mathbf X-\boldsymbol\mu)^\mathsf T] \mathbf A^\mathsf T\\ &=\mathbf A\boldsymbol\Sigma\mathbf A^\mathsf T \end{aligned}

です。

AΣATA\Sigma A^T を単変量の a2σ2a^2\sigma^2 と比べる

単変量ならY=aX+bY=aX+b に対して Var(Y)=a2σ2\operatorname{Var}(Y)=a^2\sigma^2 です。多変量では左の A\mathbf A が出力を作る重み、中央の Σ\boldsymbol\Sigma が入力のばらつき、右の AT\mathbf A^T がもう一方の出力との組合せをそろえます。

マハラノビス距離

D2=(xμ)TΣ1(xμ)D^2 =(\mathbf x-\boldsymbol\mu)^\mathsf T \boldsymbol\Sigma^{-1} (\mathbf x-\boldsymbol\mu)

は、分散が大きい方向の差を小さく、分散が小さい方向の差を大きく評価します。 相関も補正するため、複数バイオマーカーの同時外れ値を考える基礎になります。

7. ガンマ関数とベータ関数

ガンマ関数

α>0\alpha>0 に対して、

Γ(α)=0xα1exdx\Gamma(\alpha) =\int_0^\infty x^{\alpha-1}e^{-x}\,dx

と定義します。

部分積分で u=xαu=x^\alphadv=exdxdv=e^{-x}dx とすると、

du=αxα1dx,v=exdu=\alpha x^{\alpha-1}dx, \qquad v=-e^{-x}

です。境界項が0になるため、

Γ(α+1)=αΓ(α)\Gamma(\alpha+1) =\alpha\Gamma(\alpha)

を得ます。 Γ(1)=1\Gamma(1)=1 なので、正の整数 nn では、

Γ(n)=(n1)!\Gamma(n)=(n-1)!

です。

ベータ関数

α,β>0\alpha,\beta>0 に対して、

B(α,β)=01xα1(1x)β1dxB(\alpha,\beta) =\int_0^1 x^{\alpha-1}(1-x)^{\beta-1}\,dx

と定義します。 ベータ分布の正規化定数に現れます。

ベータ関数とガンマ関数の関係

積、

Γ(α)Γ(β)=00xα1yβ1e(x+y)dxdy\Gamma(\alpha)\Gamma(\beta) =\int_0^\infty\int_0^\infty x^{\alpha-1}y^{\beta-1}e^{-(x+y)} \,dx\,dy

を考えます。

r=x+y,u=xx+yr=x+y, \qquad u=\frac{x}{x+y}

とおくと、

x=ru,y=r(1u)x=ru, \qquad y=r(1-u)

です。台は r>0,0<u<1r>0,0<u<1 で、ヤコビアンの絶対値は rr です。 したがって、

Γ(α)Γ(β)=001(ru)α1{r(1u)}β1errdudr={0rα+β1erdr}{01uα1(1u)β1du}=Γ(α+β)B(α,β)\begin{aligned} \Gamma(\alpha)\Gamma(\beta) &=\int_0^\infty\int_0^1 (ru)^{\alpha-1} \{r(1-u)\}^{\beta-1} e^{-r}r\,du\,dr\\ &=\left\{ \int_0^\infty r^{\alpha+\beta-1}e^{-r}\,dr \right\} \left\{ \int_0^1 u^{\alpha-1}(1-u)^{\beta-1}\,du \right\}\\ &=\Gamma(\alpha+\beta)B(\alpha,\beta) \end{aligned}

です。よって、

B(α,β)=Γ(α)Γ(β)Γ(α+β)\boxed{ B(\alpha,\beta) =\frac{\Gamma(\alpha)\Gamma(\beta)} {\Gamma(\alpha+\beta)} }

を得ます。

この関係から、ガンマ分布、ベータ分布、ベータ二項分布、Dirichlet分布の正規化や積率をまとめて扱えます。

INTERACTIVE

ガンマ分布とベータ分布

母数による密度の変化と、平均・分散・最頻値の位置を比較します。

平均
分散
最頻値
ガンマ分布またはベータ分布の密度曲線です。

8. 尤度・スコア・Fisher情報量の数学

尤度と対数尤度

観測値 x1,,xnx_1,\ldots,x_n が独立で密度 f(x;θ)f(x;\theta) をもつとき、尤度は、

L(θ)=i=1nf(xi;θ)L(\theta)=\prod_{i=1}^n f(x_i;\theta)

です。対数尤度は、

(θ)=logL(θ)=i=1nlogf(xi;θ)\ell(\theta) =\log L(\theta) =\sum_{i=1}^n\log f(x_i;\theta)

です。 積が和へ変わり、微分しやすくなります。

スコア関数

まず1観測 XX に対する対数尤度を、

1(θ)=logf(X;θ)\ell_1(\theta)=\log f(X;\theta)

とします。そのスコア関数を、

U1(θ)=1(θ)θU_1(\theta) =\frac{\partial\ell_1(\theta)}{\partial\theta}

といいます。 正則条件の下で、

Eθ[U1(θ)]=0E_\theta[U_1(\theta)]=0

です。

導出は、

Eθ[U1(θ)]=θlogf(x;θ)f(x;θ)dx=1f(x;θ)f(x;θ)θf(x;θ)dx=θf(x;θ)dx=θ1=0\begin{aligned} E_\theta[U_1(\theta)] &=\int \frac{\partial}{\partial\theta} \log f(x;\theta) f(x;\theta)\,dx\\ &=\int \frac{1}{f(x;\theta)} \frac{\partial f(x;\theta)}{\partial\theta} f(x;\theta)\,dx\\ &=\frac{\partial}{\partial\theta} \int f(x;\theta)\,dx\\ &=\frac{\partial}{\partial\theta}1=0 \end{aligned}

です。微分と積分を交換できることが条件です。

独立な nn 観測では、標本全体のスコアは、

Un(θ)=i=1nU1i(θ)U_n(\theta)=\sum_{i=1}^nU_{1i}(\theta)

です。

Fisher情報量

1観測当たりのFisher情報量を、

I1(θ)=Eθ[U1(θ)2]I_1(\theta)=E_\theta[U_1(\theta)^2]

と定義します。E[U1]=0E[U_1]=0 なので、スコアの分散でもあります。 独立な nn 観測では情報量が加わり、In(θ)=nI1(θ)I_n(\theta)=nI_1(\theta) です。

正則条件の下では、

I1(θ)=Eθ[21(θ)θ2]I_1(\theta) =-E_\theta\left[ \frac{\partial^2\ell_1(\theta)} {\partial\theta^2} \right]

です。 情報量が大きいほど、対数尤度が真の母数付近で鋭く曲がり、母数を精密に推定しやすいと解釈できます。

情報科学・機械学習との接続

機械学習の式は、特別な数学だけでできているわけではありません。 このコラムで扱ったベクトル、行列、合成関数の微分、Taylor展開、固有値が組み合わさっています。

数学の道具機械学習での役割
ベクトル・行列特徴量、重み、ニューラルネットワークの一括計算
合成関数の微分誤差逆伝播
勾配損失が最も増える方向、更新方向の決定
Hessian曲率、最適化の安定性、近似分散
固有値・固有ベクトルPCA、学習の曲率、数値安定性
ヤコビアン多出力関数の感度、変数変換、生成モデル
対数・指数尤度、softmax、交差エントロピー
Taylor展開デルタ法、最適化、局所近似

線形層は行列による変数変換である

nn 標本、pp 特徴量のデータ行列を XRn×pX\in\mathbb R^{n\times p}、重みを WRp×qW\in\mathbb R^{p\times q} とすると、線形層は、

Z=XW+1bTZ=XW+\boldsymbol 1\boldsymbol b^T

です。行列の形を追うと、

(n×p)(p×q)=n×q(n\times p)(p\times q)=n\times q

となります。 深層学習の実装でshape errorを防ぐには、数式の各行列の次元を併記する習慣が有効です。

線形層を1標本・1出力へ戻して読む

1標本・1出力ならz=j=1pxjwj+bz=\sum_{j=1}^p x_jw_j+b です。XWXW は全標本についてこの重み付き和をまとめて計算し、1bT\boldsymbol1\boldsymbol b^T は同じバイアスを各標本へ足します。

  1. XX の各行から1標本の特徴量を取る。
  2. WW の各列と内積を取り、各出力を作る。
  3. 対応するバイアスを足す。

誤差逆伝播は連鎖律を後ろから使う

1入力の簡単なモデルを、

z=wx+b,y^=σ(z),L=L(y,y^)z=wx+b, \qquad \widehat y=\sigma(z), \qquad L=L(y,\widehat y)

とします。重み ww による損失の微分は、

Lw=Ly^y^zzw\frac{\partial L}{\partial w} =\frac{\partial L}{\partial\widehat y} \frac{\partial\widehat y}{\partial z} \frac{\partial z}{\partial w}

です。z/w=x\partial z/\partial w=x なので、出力側で計算した微分を入力側へ順に掛けて戻します。 これがbackpropagationです。

多層ネットワークでも原理は同じです。各層は、前向き計算で必要な中間値を保存し、後ろ向き計算で局所微分を掛けます。

自動微分があっても導関数の意味は必要です。

ライブラリは微分を計算しますが、計算グラフが途中で切れていないか、勾配が消失・発散していないか、損失と出力層の組み合わせが正しいかは利用者が判断します。

勾配降下法は局所的な一次近似を使う

Taylor展開により、微小な更新 δ\boldsymbol\delta に対して、

L(θ+δ)L(θ)+L(θ)TδL(\boldsymbol\theta+\boldsymbol\delta) \approx L(\boldsymbol\theta) +\nabla L(\boldsymbol\theta)^T\boldsymbol\delta

です。勾配と逆向きに、

θt+1=θtηL(θt)\boldsymbol\theta_{t+1} =\boldsymbol\theta_t-\eta\nabla L(\boldsymbol\theta_t)

と更新すれば、十分小さい学習率 η\eta では損失が減ることが期待されます。 学習率が大きすぎると近似が有効な範囲を飛び越え、小さすぎると収束が遅くなります。

Hessianは損失地形の曲率を表す

二次近似は、

L(θ+δ)L(θ)+LTδ+12δTHδL(\boldsymbol\theta+\boldsymbol\delta) \approx L(\boldsymbol\theta) +\nabla L^T\boldsymbol\delta +\frac12\boldsymbol\delta^TH\boldsymbol\delta

です。Hessian HH の固有値が大きい方向では損失が急に変わるため、同じ学習率でも更新が不安定になりやすくなります。 固有値が正と負の両方を持つ点は鞍点です。

学習時の二次近似を1パラメータへ戻す

パラメータが1個ならL(θ+δ)L(θ)+L(θ)δ+L(θ)δ2/2L(\theta+\delta)\approx L(\theta)+L'(\theta)\delta+L''(\theta)\delta^2/2 です。勾配は傾き、Hessianは曲率です。多パラメータでは、δTHδ\boldsymbol\delta^TH\boldsymbol\delta が更新方向に沿った曲がり方を1個の数にまとめます。

PCAは固有値分解、実装ではSVDを使える

中心化したデータ行列を XX とすると、標本共分散行列は、

S=1n1XTXS=\frac{1}{n-1}X^TX

です。SS の固有ベクトルが主成分方向になります。 実装では、XX を特異値分解、

X=UDVTX=UDV^T

し、VV の列を主成分方向として求めることもできます。 特徴量数が多い場合や数値安定性を考えると、共分散行列を明示的に作らないSVDが有利な場合があります。

softmaxはlog-sum-expで安定に計算する

softmaxは指数関数を使うため、大きなスコアではオーバーフローが起こり得ます。 任意の定数 cc を引いても値は変わりません。

ezkcjezjc=ezkjezj\frac{e^{z_k-c}}{\sum_j e^{z_j-c}} =\frac{e^{z_k}}{\sum_j e^{z_j}}

c=maxjzjc=\max_jz_j とすれば、最大の指数が1になり安定します。 対数尤度では、

logjezj=c+logjezjc\log\sum_j e^{z_j} =c+\log\sum_j e^{z_j-c}

というlog-sum-expを使います。

数式が正しくても数値計算が正しいとは限りません。

行列の条件数、指数関数のオーバーフロー、0に近い確率の対数、非常に小さい勾配を確認します。情報科学では、数学的同値変形を数値的に安定な形へ直すことも重要です。

9. 統計検定1級での使い分け

問題の形最初に選ぶ数学確認する条件
少なくとも1回補集合、De Morgan独立性、試行回数
確率関数の総和二項・多項定理、級数台、収束範囲
密度の正規化・期待値置換積分、部分積分積分区間、収束
母関数から積率級数、微分0または1の近傍での存在
変数変換逆変換、ヤコビアン1対1性、逆像、変換後の台
多変量正規行列積、逆行列、二次形式共分散行列の正定値性
最尤推定対数微分、偏微分母数空間、端点、最大かどうか
漸近近似テイラー展開、Hessian標本サイズ、正則条件
制約付き最適化Lagrange法制約式、境界解

答案の基本形

  1. 変数と台を書く
  2. 使用する定理と条件を書く
  3. 式を立てる
  4. 微分・積分・行列計算を行う
  5. 得られた値を確率・平均・分散などの意味へ戻す

10. 数学コラム確認問題

試験答案として解くとき

総合問題集の模範解答版では、各計算を「使用する定義 → 変形 → 結論」の順にしています。行列・微積分では、どの成分を微分・積分・掛け算しているかを一行ずつ示します。

問題1:指示関数

事象 A,BA,B について、

IAB=IA+IBIAIBI_{A\cup B}=I_A+I_B-I_AI_B

を用いて、P(AB)P(A\cup B) の公式を導いてください。

解答1

両辺の期待値を取ると、E[IA]=P(A)E[I_A]=P(A)IAIB=IABI_AI_B=I_{A\cap B} より、

P(AB)=P(A)+P(B)P(AB)P(A\cup B) =P(A)+P(B)-P(A\cap B)

です。

問題2:二項係数の和

r=0n(nr)\sum_{r=0}^n\binom nr

を求めてください。

解答2

二項定理で a=b=1a=b=1 とすると、

(1+1)n=r=0n(nr)1nr1r(1+1)^n =\sum_{r=0}^n\binom nr1^{n-r}1^r

なので、

r=0n(nr)=2n\sum_{r=0}^n\binom nr=2^n

です。

問題3:等比級数の微分

s<1|s|<1 で、

k=0sk=11s\sum_{k=0}^{\infty}s^k=\frac1{1-s}

を微分し、k=1ksk1\sum_{k=1}^{\infty}ks^{k-1} を求めてください。

解答3

収束半径の内部で項別微分すると、

k=1ksk1=1(1s)2\sum_{k=1}^{\infty}ks^{k-1} =\frac1{(1-s)^2}

です。幾何分布の期待値計算に使えます。

問題4:部分積分

0xexdx\int_0^\infty xe^{-x}\,dx

を部分積分で求めてください。

解答4

u=x,dv=exdxu=x,dv=e^{-x}dx とすると、du=dx,v=exdu=dx,v=-e^{-x} なので、

0xexdx=[xex]0+0exdx=0+1=1\begin{aligned} \int_0^\infty xe^{-x}\,dx &=[-xe^{-x}]_0^\infty +\int_0^\infty e^{-x}\,dx\\ &=0+1=1 \end{aligned}

です。

問題5:1変数の変数変換

Y=eXY=e^X とします。XX の密度が fX(x)f_X(x) のとき、YY の密度を求めてください。

解答5

逆変換は x=logyx=\log y、ヤコビアンは、

dxdy=1y\left|\frac{dx}{dy}\right|=\frac1y

です。y>0y>0 で、

fY(y)=fX(logy)1yf_Y(y)=f_X(\log y)\frac1y

です。

問題6:Leibnizの公式

H(t)=0t(xt)2f(x)dxH(t)=\int_0^t(x-t)^2f(x)\,dx

tt で微分してください。

解答6

上端の境界項は (tt)2f(t)=0(t-t)^2f(t)=0 です。被積分関数を偏微分すると、

t{(xt)2f(x)}=2(xt)f(x)\frac{\partial}{\partial t} \{(x-t)^2f(x)\} =-2(x-t)f(x)

なので、

H(t)=20t(xt)f(x)dxH'(t) =-2\int_0^t(x-t)f(x)\,dx

です。

問題7:Hessian

f(x,y)=x2+2xy+3y2f(x,y)=x^2+2xy+3y^2

の勾配とHessian行列を求めてください。

解答7

f=(2x+2y2x+6y)\nabla f =\begin{pmatrix}2x+2y\\2x+6y\end{pmatrix} Hf=(2226)\mathbf H_f =\begin{pmatrix}2&2\\2&6\end{pmatrix}

です。

問題8:ヤコビアン

u=x+y,v=xyu=x+y, \qquad v=x-y

の逆変換と (x,y)/(u,v)|\partial(x,y)/\partial(u,v)| を求めてください。

解答8

連立して、

x=u+v2,y=uv2x=\frac{u+v}{2}, \qquad y=\frac{u-v}{2}

です。したがって、

(x,y)(u,v)=1/21/21/21/2=12=12\left| \frac{\partial(x,y)}{\partial(u,v)} \right| = \left| \begin{matrix}1/2&1/2\\1/2&-1/2\end{matrix} \right| =\left|-\frac12\right| =\frac12

です。

問題9:線形結合の分散

共分散行列が Σ\boldsymbol\Sigma の確率ベクトル X\mathbf X に対して、Y=aTXY=\mathbf a^\mathsf T\mathbf X の分散を求めてください。

解答9

YE[Y]=aT(XE[X])Y-E[Y] =\mathbf a^\mathsf T (\mathbf X-E[\mathbf X])

なので、

Var(Y)=aTΣa\mathrm{Var}(Y) =\mathbf a^\mathsf T \boldsymbol\Sigma\mathbf a

です。

問題10:固有値

A=(2112)\mathbf A= \begin{pmatrix}2&1\\1&2\end{pmatrix}

の固有値を求めてください。

解答10

AλI=2λ112λ=(2λ)21|\mathbf A-\lambda\mathbf I| = \left| \begin{matrix}2-\lambda&1\\1&2-\lambda\end{matrix} \right| =(2-\lambda)^2-1

です。これを0とおくと、

(2λ)2=1(2-\lambda)^2=1

より、

λ=3,1\lambda=3,1

です。両方正なので、A\mathbf A は正定値です。

問題11:ガンマ関数

Γ(5)\Gamma(5) を漸化式から求めてください。

解答11

Γ(5)=4Γ(4)=43Γ(3)=432Γ(2)=4!=24\Gamma(5) =4\Gamma(4) =4\cdot3\Gamma(3) =4\cdot3\cdot2\Gamma(2) =4!=24

です。

問題12:制約付き最適化

x+y=1x+y=1 の下で x2+y2x^2+y^2 を最小にしてください。

解答12

L(x,y,λ)=x2+y2λ(x+y1)L(x,y,\lambda) =x^2+y^2-\lambda(x+y-1)

とおきます。

2xλ=0,2yλ=02x-\lambda=0, \qquad 2y-\lambda=0

より x=yx=y です。制約へ代入して、

x=y=12x=y=\frac12

です。最小値は、

(12)2+(12)2=12\left(\frac12\right)^2 +\left(\frac12\right)^2 =\frac12

です。

まとめ

  • 集合と数え上げは、確率の事象と確率関数を組み立てる
  • 級数とテイラー展開は、母関数と漸近近似を支える
  • 微分は最適化と母関数、積分は密度・期待値・変数変換を支える
  • 多変数微積分では、偏微分、Hessian、重積分、ヤコビアンが重要になる
  • 線形代数では、共分散行列、二次形式、固有値が多変量分布を記述する
  • ガンマ関数とベータ関数は、多くの確率分布の正規化と積率を統一する
  • 数式の操作だけでなく、台、収束、独立性、正則条件を答案に残す

数学は統計から独立した暗記事項ではありません。 「どの確率モデルを、どの変換や近似で扱える形にするか」を支える共通言語です。